作哉くんは怖い顔
俺は学校の帰り道を歩いていた。
信号を渡った先で、作哉くんとノノちゃんの二人が歩いているのが見えたので、声をかけようと手を挙げた。
が。
おーい、と俺が声をかけるその前に――。
作哉くんは、俺ではない別の誰かに声をかけられた。
「キミ」
「なんだ? オレになんか用か?」
すごい迫力(本人にとっては自然な顔)で振り返る作哉くん。
あれ?
よく見ると、作哉くんに声をかけたのは警察官みたいだ。パトロールをしていた二人組の警察官って感じかな。
「なんか用かじゃない。恐ろしい顔して、小さな子供を誘拐する気だな!?」
「ちげーよ。こいつはただの――」
「しばっくれる気かっ。ん? んん? 怖い顔で威嚇までするとは……! そ、それくらいで、ひるんでたまるか。ワタ、ワタシも、け、警察官だぞっ」
「だからちげーって! これがフツーだ。威嚇ってなんだよ」
作哉くんが釈明しているのだが、俺には不良か暴走族がメンチ切ってるようにしか見えない。
「不良の世界じゃそれが普通かもしれないが、警察官に対してその態度はいけないな」
と、益々警戒をあらわにされた。
作哉くんは警戒を解くように両掌を警察官に見せて、
「まあ待て。落ち着けよ。オレは交渉人だ。面倒だが一から誤解を解いてやるから、まずは話を聞いてくれ。このノノに聞けば分かる。オレたち二人は同じ児童養護施設で育った仲間なんだ」
警察官は警戒しながらも落ち着きを見せて、作哉くんの話に耳を傾き始めた。
さすが交渉人だ。
怖い顔でも務まってきたわけだな。
しかし、そこへ、ふらっと凪が歩いてきた。
作哉くんに気づいた凪は、
「あっ。ヤクザだー」
と指を差す。
「なんだとテメー! 何度も言わせんな! オレは……」
「わぁ怒った。またぼくに暴力をふるうつもり?」
「何度殴られても態度を改めねェのが悪ィんだよ! ちょっとツラ貸せ!」
あちゃー。
一連のやり取りを聞いた警察官二人は、やっぱりという表情になって顔を見合わせた。
そして、警察官は二人がかりで作哉くんを取り押さえる。
「離せ!」
「離すものか! やっぱりヤクザだったんだな! その凶悪な面は過去にも犯罪をしたに違いない! 署まで来てもらおう」
作哉くんは自分ではパワーをうまく抑えられないのもあり、怪我をさせないために無理に振りほどいたりしないのだ。
「じっくり話を聞かせてもらおうじゃないか。その怖い顔についてもな。もう大丈夫だよキミたち。さあ、おうちへ帰りなさい」
凪とノノちゃんは警察官に笑顔を向けられる。その善意の笑みに、ノノちゃんは言葉を返せないでいた。
そうして。
悲しくも作哉くんは警察官二人組に連れて行かれた。
「作哉くーん!」
と、ノノちゃんの叫び声が木霊する。
で。
俺が横断歩道を渡り凪&ノノちゃんと合流して作哉くんを迎えに行くと。
いつも通り、作哉くんの顔見知りの警察官が誤解を解いてくれて、すぐに解放されたそうだ。いままでもこういうことは何度もあったらしい。
凪はやれやれと手を広げて、
「まったく、はた迷惑な話だ」
「テメーのせいだろ!」
作哉くんにつっこまれているが、俺はそんな作哉くんにぼそっと言う。
「そもそもの発端は、作哉くんの顔が怖いからなんだけどね」
まあ色々あるけど、頑張れ! 作哉くん。
おわり
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