ポケモンバトル その3 良人VS作哉

 3戦目。

 良人さんは無謀にも、作哉くんに勝負を挑んだ。

 どっちみち戦わなければならないとはいえ、これは良人さんにとって厳しい試合になるだろう。

「オレは手加減ってのが苦手なんだ。ワリーが普通にやらせてもらうぜ」

 作哉くん、良人さん相手にも手抜きなしにバトルするつもりらしい。確かに作哉くんはうまく手加減できるほど器用な人じゃない。ついでに手先もあり得ないくらい不器用だ。

「むろん、真剣勝負に手加減はいらないよ。ボクだって本気さ」

「格下のテメーが本気なのは当然だろ」

「はい」

 すぐに頭を下げる良人さん。

「まだまだザコのくせに調子に乗ってふざけてたら、相手してやんねェぞ」

「すみません。マジメにやらせていただきます」

 最初からこの調子で、良人さん大丈夫か? 顔が怖い作哉くんに威圧されて、いかくで攻撃力が下がったみたいな顔してる良人さんだけど、対戦するポケモンは選んだらしい。

「それじゃあ、バトル開始」

 俺の合図で、ポケモンバトルが開始された。

 両者共、一匹目のポケモンを場に出す。

「よーし、ボクの先発はこの子だ! ガンバレ、リーフィアたん」

「ほう。そうきたか。偶然、オレもサンダースだぜ」

「良人さんはリーフィア、作哉くんはサンダース。お互いイーブイの進化形同士での対面になったね」

 そう言う俺に、凪がジト目を向ける。

「開もだいぶ解説が板についてきたね。動画撮って動画サイトにでも上げようか?」

「やめろ。撮るな!」

 スマホを構える凪からスマホを取り上げ、俺はバトルに集中する。

 1ターン目。

 すばやさがトップクラスに早いサンダースが先攻。

 でんじはだ。

「おわ、麻痺しちゃった。でも、次はボクの攻撃だ!」

 しかし、リーフィアは身体がしびれて動けない。

「うっそー! 麻痺はこういうのがあるから嫌なんだよなぁ。とほほ」

 2ターン目。

 サンダースのリフレクター。

「これで、相手の攻撃が半減される」

「そういえば、前にノノちゃんもマネネでやってたよね」

「そうらしいな」

「半減か……。くそう。でも、リーフィアたんはなかなか攻撃力あるんだ。いけっ! リーフブレード」

 だが、この攻撃はやはりサンダースにはあまりダメージを与えられない。

 さらに、攻撃をしたリーフィアは、サンダースの持ち物・レッドカードで交換させられてしまった。

「なんで?」

「レッドカードだ。攻撃されると交換する」

次に場に出たのは、バシャーモだった。

「そんなのがあるなんて! よし、頑張るぞ! バシャーモ」

「なるほど。バシャーモか」

 そして、このターンの終了時、バシャーモの特性かそくですばやさが上がった。

 3ターン目。

「まずはまもるから入る! これで、次のターンはサンダースより早くなるぞ」

「そうだな。それが賢明だろう。と言いたいが、さっきのかそくでバシャーモのが早くなってんぞ。てことで、こっちはみがわりを張っといたぜ」

 まもる読みのみがわりか。まもるをして相手は攻撃してこないから、自分の場を作るための技を自由にできるのだ。もちろん、読みが外れたら危ないけど。

「みがわりってどんな技だっけ?」

 良人さんの疑問には、凪が答えてあげた。

「自分のHPを四分の一削る替わりに、みがわりの怪獣みたいなのが出てくるんだ。その子には状態異常攻撃が入らないし、次ターンから一撃でサンダースを倒せるほどの攻撃をくらっても、みがわりが代わりに攻撃を受けてくれる。だから本体のサンダースは無事って寸法さ」

「なんかそれ強くない?」

「強いよ。うまく使うとね。でも、みがわりを貫通する攻撃技もあったり、色々なんだ」

「要は、使う場面を見てうまく使えると、かなりアドバンテージを取れるって技ですね」

 最後に俺も補足した。

 良人さんは俺と凪の話を聞いて、数秒考えたあと言った。

「え? それじゃあいま、作哉くんにアドバンテージ取られたってこと?」

「一概にそうとも言えねェが、オレも最善手を考えて打ってる」

「ボクも最善手を打ってやる!」

 4ターン目。

 ターンの始めにメガ進化した。そして、今度はバシャーモの特性かそくが二回も発動したおかげで、バシャーモの先攻。

「バシャーモ、フレアドライブ」

 みがわりは壊れた。フレアドライブは高威力の炎技で、代わりに反動ダメージがある。バシャーモはダメージを受けた。

 続いてサンダースの攻撃はでんじは。

「うあぁ! また麻痺しちゃったよ」

「これで、上げたすばやさも半減だな」

「そんなのってないよー」

 5ターン目。

 しかし三回もかそくしてすばやさを上げているバシャーモは、サンダースより速かった。

「いけっ! 二度目のフレアドライ……あうち! また麻痺だ。動けない!」

 バシャーモは麻痺で身体がしびれて動けない。

 続いて、サンダースはあまえるをした。

「あまえるは攻撃を下げる技だ。バシャーモの攻撃は半減だな。リフレクターで元々半減されるから、普段の四分の一になる」

「そんな! まずいって」

「こいつが落とされてもいいなら場にいてもいいが、まだ使いたいなら一度下げた方がいいぜ? つーか、下げねェと使いもんにならねェぞ」

「だよね、下げるよ」

 あーあ、実際に作哉くんの言う通りだけど、対戦相手の言いなりじゃダメだよ。人がいいから全部信じちゃうもんなぁ。

 6ターン目。

 交換はターンの始めに行われる。まずは、バシャーモが下がった。

 代わりに、ミロカロスが出てくる。

 次にサンダースの攻撃。

「えぇ! またでんじは?」

「ワリーな。初心者には状態異常ってのが相場なんだよ」

「で、でも大丈夫。ボクのミロカロスは強いんだ」

 7ターン目。

 またサンダースが先攻。

 サンダースはひかりのかべをした。

「これにより、特殊攻撃が半減される。ミロカロスの攻撃は特殊型だから半減されちゃいますね」

「そうなの?」

 はい、と俺はうなずいた。

 後攻のミロカロスはねっとう攻撃。

 やはりサンダースにはそれほどダメージは入らなかったが、すでにリーフブレードを一回受け、みがわりでHPも削れている。サンダースの残りHPも少なくなってきた。

「よし! 次のターンにはサンダースを倒すんだ! 水タイプは電気タイプに弱い。でも、これなら勝てる」

 作哉くんがサンダースを温存しておくのかが気になるところだが、ミロカロスに有利な電気技を持っているし、負荷をかけるでもいい。幸い、良人さんのプレイングのおかげで全員に麻痺を入れられたし、サンダースは十分すぎるほど仕事をした。

 8ターン目。

 作哉くんはサンダースを下げて、サザンドラを繰り出した。

 サザンドラは色違いなので、星のエフェクトがつく。

「色違いなんだね! カッコイイ!」

「サンキュー」

 色違いのサザンドラは、普段の紫と黒の色味ではなく、緑色になる。ドラゴンタイプのポケモンなので緑は似合うが、なんか渋さとハードボイルドさがあってカッコイイのだ。

「でも、攻撃は入れさせてもらうよ! ねっとう!」

 しかし、ひかりのかべで半減されている上、ドラゴンタイプのサザンドラには水タイプの技は半減されてしまう。よって、また四分の一のダメージしか入らない。

「くそう! またダメージが! あ、でもれいとうビームは氷技だからこうかは

ばつぐんだ!」

 はしゃいでいる良人さんだが、ひかりのかべがあるからこうかばつぐんの2倍と合わせて等倍になってしまう。

 9ターン目。

 すばやさの関係で先に動いたのはサザンドラだった。

 サザンドラのあくのはどう。

「悪タイプの特殊技だ」

 結構なダメージが入るが、耐久力アップアイテムのとつげきチョッキを持っているミロカロスには、半分弱のダメージしか入らない。

「次はボクのミロカロスたんのれいとうビー……あれ? ひるんで動けないだって?」

「あくのはどうにはひるみの追加効果があるんだよ。発生率は二割だから、ちょっぴり運がなかったね」

「で、でも次のターンで仕留めればいいんだ」

 10ターン目。

 今度もサザンドラのあくのはどう。

 これにより、ミロカロスのHPは残り少なくなった。残り四分の一を切ったレッドゾーンに入る。

「今度こそ、れいとうビー……えー! そんなぁ、今度は麻痺って。運に見放されているよ、とほほ」

 がっかりしているが、四分の一の確率で麻痺によって身体がしびれて動けなくなり、二割の確率であくのはどうのひるみで動けなくなる。合わせると四割の確率で動くことができない計算になる。

「作哉くんが初心者相手に害悪戦法を使ってる。すごいなー」

 凪が作哉くんに羨望の眼差しを送ると、作哉くんはギロリとにらむ。

「テメー、オレをバカにしてんじゃねェぞ」

「確かにトゲキッスじゃないだけマシだね」

 凪の言うトゲキッスは、技によって相手をひるませられる確率が極端に高いのだ。ひるみに持っていくプレイなどは一部では嫌われているからみんなも気を付けよう。

 11ターン目。

 先攻のサザンドラの攻撃で、ミロカロスは落とされた。

「やっぱりやられちゃったか。でも、リーフィアは草タイプだからドラゴンタイプにはあんまりダメージは与えられない。こうなったらバシャーモだ!」

 麻痺状態のバシャーモが場に出る。

 12ターン目。

 すばやさが上なのはサザンドラだが、バシャーモはまもるをしてすばやさを稼ぐ。作哉くんはサザンドラであくのはどうをしたが、まもられて無効化された。

「へへ。これですばやさも上がったぞ。でも、麻痺ですばやさは半減だからまだ勝てないかな……?」

「わからなくても、攻撃しないと負けるぜ?」

「だ、だよね! 攻撃は最大の防御だ!」

 13ターン目。

 作哉くんはサザンドラを交換した。

 場に出てきたのは、ギルガルドだ。

 そして、良人さんのバシャーモはとびひざげりをした。

「ぐあぁ! 格闘タイプの技は効果がなくて、失敗しちゃったよー! とびひざげりは、強い技だけど失敗すると反動が痛いんだよね、とほほ」

 良人さんの言うように、とびひざげりは高威力な強い技だけど、失敗すると膝が折れて自分の最大HPの半分のダメージを受けてしまう。これにより、良人さんのバシャーモは残りHPが四分の一くらいになった。もう一度失敗すると自滅するから、とびひざげりも考えてしまうよな。

 作哉くんは次にどう動かすか考えていたが、技の選択も完了する。

 14ターン目。

 先に動いたのはギルガルドだった。すばやさの低いギルガルドだけど、防御技は先攻して出すことができる。

「キングシールドだ」

「構わずフレアドライブだ!」

 しかし、バシャーモのフレアドライブはキングシールドでまもられる。

「あれ? 防がれちゃった。しかも、こうげきが下がっちゃったよ。どうして?」

「キングシールドは、バシャーモがよくするまもると同じで相手の攻撃を防げるんだ。さらに、直接攻撃をしてきた相手の攻撃を下げるおまけもある」

 凪が端的に説明すると、良人さんはガクッと首をもたげた。

「なんて強いんだ」

「なんだ? 降参か?」

「いや! 降参はしない! ボクは最後まで諦めないぞ!」

「負け犬根性で頑張れ」と凪が応援する。

「ちょっと凪くん、応援になってないよそれ。負け犬根性じゃボクが負けっぱなしみたいじゃないか」

「そうでしょ?」

「そ、そうだった」

 またうなだれる良人さんに、作哉くんが言った。

「落ち込んでるヒマなんてないぜ?」

「ああ、わかってる!」

 15ターン目。

 今度も先に動いたのはギルガルドだった。

ギルガルドは先制技のかげうちをした。

「耐えて! 耐えて! うわー、耐えなかったー! ガクッ」

 ギリギリ耐えるかに思われたが、バシャーモは耐えられずひんしになった。

 俺は作哉くんに言った。

「作哉くんも隙がないね。さっきのターンでかげうちしてもいけたと思うけど、念のためにキングシールドして攻撃下げておくんだもん」

「まあな。負けのリスクは最小限に抑える。手抜きはしねェよ」

 さすが、駆け引き上手なだけでなく、ぬかりがない。

 16ターン目。

 長引いてきた試合も、良人さんは残すところあと一匹だ。

 リーフィアが場に出る。

「いくぞ! リーフィアたん」

 だが、ギルガルドがキングシールドでまもって、リーフブレードをしたリーフィアの攻撃が下がる。

「またやられた」

「まあ、バシャは飛ばしたし、ここまで来れば負けはないだろ」

 と、作哉くんは小さく息をつく。

「そんなのまだわからないじゃないか」

「とどめはどいつで刺されたい?」

「く、くうぅ」

 良人さんは悔しそうな顔をして、

「でも、せめて一匹くらいは倒してやる! 作哉くん、サンダースを出してくれ」

「その最後まで食らいつくところは悪くねェが、一番落としやすいポケモンを相手に注文してるようじゃカッコがつかねェぜ」

 結局、良人さんはそのままギルガルドにやられてしまった。

「したがって、この勝負は作哉くんの勝ちー」

「わーい」

 と、ノノちゃんと凪がバンザイしている。

 逆に良人さんに残念だったねと言う人もいない。最初から作哉くんの勝ちはわかっていたことだしな。こんな一方的にやられるとは思わなかったが。

「ボクはせめて一匹だけでも倒したかったよ。全員生きてるんだもん。作哉くんって普段、他にどんなポケモン使ってるんだい?」

「オレか? 普段だと他に、カメックス、ギャラドス、エアームド辺りか。あとは、ハッサム、プテラ、スピアー、ヘルガー辺りも使うな」

「色々使うんだね」

「準伝も入れたらキリがないけどな」

 作哉くんは本当に色々なポケモンを使うけど、気に入っているのがその辺なのだ。

「でも、いい勝負だったよ」

 と、良人さんが握手をしようと手を伸ばすが、作哉くんは立ち上がった。

「それじゃあな。オレちょっと用事があるんだ。ノノのこと頼んだぜ」

「うん。じゃあね」

「作哉くん、いってらっしゃい」

 俺とノノちゃんが手を振った。

「おう。ノノ、オレの使ってテキトーに交換してやっていいぜ。諦めずに、最後まで頑張ってたからな」

 良人さんは握手するために伸ばした手をあたかも最初から手を振るつもりだったかのように動かして手を振った。

「ありがとう! 作哉くん、ありがとう! ボク頑張ったよ!」

「ああ、わかったから落ち着け。次やるときはもっと強くなってろよ。じゃあな」

「ボク強くなるよ! じゃあね!」

 見送ったあと、良人さんはあぐらで座って目をつむった。

 瞑想でもしてるのか?

 その様子を見て凪がつぶやく。

「早い、もう寝てる。さっきの対戦がよっぽどハードだったのか。あれだけコテンパンにされたら仕方ないけど」

「もう! こんな体勢で寝ないよ! 精神集中してるの!」

「え、ヘンシンちゅっちゅ?」

「どんな耳してるの! せ・い・し・ん・しゅう・ちゅう!」

「ほうほう。いい具合に集中できたかい?」

「キミのせいでできるものもできなかったよ」

 凪はやれやれと手を広げて、

「出るものも出なかったとか、良人さんのおトイレの話は聞きたくなかったよ」

「だからちがーう!」

 俺は待ちきれずに聞いた。

「それで? 良人さんは次、誰と対戦します? それとも、ギブアップですか?」

「もちろん戦うよ! じゃあ次は、凪くん! キミに決めた」

 おお、ついに凪と戦う気になったか。

「ボクは三度も戦い、その度に強くなった。今度こそ初勝利をもぎとるんだ。キミには勝ってみせる」

 カッコつけてビシッと凪を指差す良人さんだったが、その先に凪はいなかった。

「あれ? どこいった?」

「ノノちゃん、ちょっとアイスでも買ってこようぜ。良人さん寝ちゃったから、しばらく時間ありそうだし」

「はい」

 ノノちゃんと話している凪の肩をつかみ、良人さんは宣戦布告した。

「決めた! 絶対凪くんと勝負する! そして勝つ! もうおちょくられないように、年上の威厳を見せつけるんだ」

「そこまで言うなら仕方ない。どっちが年上かをかけて勝負してやろう」

「あの……、年上はボクなんだけど」

 かくして、良人さんの次の対戦相手は凪に決まった。

 凪はどんなポケモンを使うのか、どんな奇策を使ってくるのか、それはバトルが始まるまでのお楽しみだ。


つづく

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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