来年受験か
「今回のテストはちょっと微妙だったな。化学が足引っ張っちゃった」
俺は今日返された自分のテストを見直す。
すると、俺より二つ年上で大学一年生のお姉さんでもある逸美(いつみ)ちゃんが、俺のテストを手に取ってざっと見る。
「でも、この試験問題すごく難しかったし、これだけ正解できたらまあまあじゃない?」
「そうかな?」
「うん。受験まであと一年あるし、まだまだ伸びるよ!」
と、逸美ちゃんがうなずく。
逸美ちゃんは俺とは幼なじみで、俺のことを弟みたいに思っているのだけれど、いつも元気づけてくれたり応援してくれる頼れるお姉ちゃんなのだ。
日に日に寒さを増す十二月の話――。
俺の名前は明智開(あけちかい)。
世間からは探偵王子と呼ばれる高校二年生だ。
つまり受験までまだ時間が残されているけど、とにかく大事な時期なのである。
普段は探偵事務所で探偵として働いている俺も、来年のいまごろはセンター試験まであと一ヶ月になるのかと思うと、気が引き締まる思いがする。一年後は気が気がじゃないのかなとか、不安が胸中をうずまく。
でも、逸美ちゃんもついているし頑張るしかない。
「逸美ちゃん、俺頑張るよ!」
「うん、お姉ちゃん応援してる!」
俺はまだ二年生、あと一年あるんだし落ち込んでないで次頑張ろう。
「よし! さっそく勉強するか!」
現在、俺は探偵事務所で逸美ちゃんとのんびり過ごしていた。
ちなみに、俺は探偵をしているけど逸美ちゃんはこの事務所の管理と探偵助手をしている。
そんなうちの事務所には和室もあるのだけれど、気合を入れて俺が勉強に取りかかったとき、少年探偵団メンバーでくせ毛の少年・凪(なぎ)が和室から顔を出して、
「ふーん。そっか。開は来年受験か~。勉強頑張ってるもんな。やっぱり努力してる人は違うな~」
と、他人事のように言った。
凪は俺と同じ高校二年生で、別の高校に通っている。そんな凪に探偵事務所のお向かいに住む大学一年生の良人(よしひと)さんが言った。
「もしもし。キミも来年受験だよ」
凪が驚いた顔で良人さんを振り返る。
「え? 良人さん、ぼくの受験票勝手に出しちゃったの?」
「いや、出してはないけど……。第一、キミの受験する学校知らないし、まだ願書の受け付けなんてしてないし」
良人さんも予想外の凪の言葉に困ってる。
「なーんだ。びっくりした」
「むしろボクにはどうでもよさげに聞こえるんだけど。そもそも、凪くん勉強してるの?」
「してないよ」
と、凪が平然と答える。
「ダメだよ? 早くから勉強しないと。あとで絶対苦労するから」
「なるほど。一浪してる良人さんが言うと説得力があるぅ~」
「悪かったね……」
さすがいい人な良人さん、怒りを抑えている。
ココだけの話、良人さんは一浪して大学に入ったのけれど、その大学は俺もよく知らない大学だった。
凪は腕組して、
「そうだね。ぼくも、良人さんみたいにならないように頑張るよ」
「そうだね、ボクみたいにならないように頑張ってね!」
良人さんは泣きながらエールを凪に送ってやっていた。
あんな事言われたのに、なんて人がいいんだ。じゃなかった。なんていい人なんだ。名前の通り本当にいい人だ。
ただ。
俺は二人を一瞥して言った。
「どうでもいいけど、二人共うるさいから帰ってくれないかな? 俺、勉強するんだ」
凪と良人さんはぼそりと答える。
「はい、ごめんなさい」
おわり
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