栄養ドリンクでスッキリ

 疲れているときや頑張らなくちゃいけないとき、気合を入れたいときなど、みんなも栄養ドリンクを飲むことがあると思う。

 ちょっとお疲れ気味の俺は、栄養ドリンクが飲みたくなった。


 俺の名前は明智開。

 世間からは探偵王子と呼ばれる高校二年生だ。

 今日は土曜。

 まだ朝だけど、俺はすでに探偵事務所に来ていた。

 探偵事務所が開く前の時間なので、当然依頼人の姿はない。そもそも、うちに依頼人が来ることなんてあんまりないんだけどね。

 この事務所の管理をしている探偵助手のお姉さん・逸美ちゃんは、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出して俺の分と自分の分の二つを持ってきた。

「開くんも飲んでね」

「ありがとう」

 ちなみに、他にも少年探偵団メンバーであるくせ毛の少年・凪と、金髪ツインテールの少女・鈴ちゃんも来ていたけど、栄養ドリンクはいらないとのことで俺と逸美ちゃんの二人分だけだ。

 逸美ちゃんはさっそく栄養ドリンクのビンを開けて、口をつけた。

「うん、美味しい」

 ごくごく飲んで、空きビンをテーブルに置いた。

「はぁ~。スッキリ~。効いたわ~。みるみる元気になっちゃうわね」

 俺はちょっと笑いながら逸美ちゃんに言った。

「逸美ちゃん、効くのちょっと早すぎない?」

 凪もそれを見て、ぽつりとつぶやく。

「あり得ねー」

「あはは。でも、気分の問題もありますよね」

 と、鈴ちゃんは苦笑い。

 ちょっと天然な逸美ちゃんは、栄養ドリンクのビンを手に持ってニコニコ微笑んで、

「気分だけじゃないわよ~。みんなも飲んだら? まだまだたくさんあるんだから。美味しいわよ」

「ぼくはいいや」

 と、凪が興味なさそうに答える。

 鈴ちゃんは中学三年生だけど礼儀正しく丁寧な子なので、丁重に断る。

「あたしも大丈夫です。栄養ドリンクの味が苦手っていう人もいますよね。あたしも嫌いじゃないですけど」

 うんうんとうなずいて俺も言う。

「俺、栄養ドリンクの味ってなんか好きなんだよね」

「たくさんあるから好きなだけ飲んでね」と逸美ちゃんが両手いっぱいに抱えて栄養ドリンクを持ってきた。

「いや、一本でいいよ」

 俺も栄養ドリンクを飲み干し、ビンを片付けた。

 逸美ちゃんは俺を見て、

「あら。ビンを捨てる開くんも顔色がよくなってる。凛としちゃって。うふふ」

 そんなにすぐ変わるかよ。

 すると、探偵事務所のドアが開いて、怖い顔の少年と小学生の女の子がやってきた。

 小学四年生の女の子はノノちゃん。これでも少年探偵団メンバーだ。いつも元気で天真爛漫な子だ。

 ノノちゃんは元気に挨拶した。

「おはようございます。お邪魔します」

「おう。来たぜ」

 いっしょにきたこの怖い顔の少年は作哉くん。ぶっきらぼうで腕っぷしも強いけど実は心優しいところもある高校二年生だ。ノノちゃんとは兄妹のような感じで、訳あっていっしょに暮している。また、俺や凪も高校二年生だから同い年でもある。

 これで少年探偵団メンバーがそろった。

「いらっしゃい」

 と、俺たち四人は迎えた。

 ノノちゃんはすぐに和室に行き、作哉くんはコンビニでなにか買ってきたらしく、ビニール袋をテーブルに置いた。

 作哉くんはビニール袋の中からお菓子と栄養ドリンクを取り出す。

「この菓子は差し入れだ」

 と言って、作哉くんは栄養ドリンクを手に取ってキャップを開けた。

 が。

 置いてある空きビンを見て、作哉くんの動きが止まった。

「あったのか」

「いっぱいあるわよ~」

 満面の笑みで答える逸美ちゃんである。

 わざわざ買わなくてもよかったな、作哉くん。しかし、作哉くんは自分で買ってきた分をごくごくと一気に飲み干し、ふうと息をつく。

「炭酸が効いててスッキリしたぜ」

 逸美ちゃんは同士を見る目で、

「作哉くんも? 栄養ドリンクを飲むとすぐにスッキリ元気になるわよね~。作哉くんも顔色がよくなった」

「ハ? なに言ってんだ」

 よくわからない顔になっている作哉くんに、俺は説明を挟む。

「さっき俺と逸美ちゃんは栄養ドリンクを飲んだんだよ。でも逸美ちゃん、飲んだ直後に効く~とか元気になっちゃったとか言ってさ」

「それで、みんなでそんなに早くは効かないって話してたんです」

 鈴ちゃんも苦笑交じりに補足してくれたが、逸美ちゃんはそうは思ってないらしい。

「そんなことないわよねー? すぐにシャキッとなるもん。さっきだって開くんも、飲んだらすぐに眉毛がキリッとして、カッコよくなっちゃったのよ」

「いや、ならねェよ」

 と、作哉くんがぼそりと言った。

 本当に、逸美ちゃんは幼なじみでもある俺を弟みたいに溺愛しているから、妄想が交じっているんだと思う。

 作哉くんは呆れた顔で、

「つーかそれ、効き始めるのは三十分後だぞ」

「え?」

 作哉くんに衝撃の事実を突きつけられ、固まる逸美ちゃん。

 俺はいつまでも立ち尽くしたまま固まっている逸美ちゃんを、とりあえず座らせてあげた。

「逸美ちゃん? たぶんシャキッとしたのは炭酸のおかげだよ。あながち勘違いじゃないって」

「う、うん。そうよね」

 複雑そうな苦笑いで逸美ちゃんが納得しようとしている。

 この様子を見て、凪はやれやれと手を広げた。

「まったく、逸美さん本人が元気になったと思ってるんだから、そっとしておけばいいものを。病は気からですな」

「おい凪。そのことわざ、使い方違うぞ」

 ニュアンスは伝わるけど結果が逆だ。

 固まっている逸美ちゃんの代わりに、鈴ちゃんが緑茶を淹れて持ってきた。

「先輩はこれでしょ」

「うん、ぼくといえばこれだ。ありがとう、鈴ちゃん。ぼくは『朝茶は七里帰っても飲め』のほうが性に合ってるや」

 そう言って、凪は緑茶をすすり清々しい顔でひと息ついた。

 みんなも、栄養ドリンクもいいけど緑茶もね!


おわり

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