ツーカーの仲
今日は休日なので、俺と逸美ちゃんは探偵事務所の中を掃除していた。
あとからやってきた凪と鈴ちゃんにも手伝ってもらうことになった。
「わたしちょっとお料理するわね」
「うん、掃除は俺たちで引き続きやっておくね」
午前中からのお掃除で、お昼ごはんは逸美ちゃんが作ってくれている。
眠たそうな顔で凪は手を止めて、
「あーあ、掃除ってつまんないなー」
「つまらなくてもやらないといけないことなんだ。しゃべってないで手を動かせ」
凪に注意してすぐに掃除に戻る。
すると、俺は鈴ちゃんに呼びかけられる。
「あの、ドアをノックする音が聞こえた気がするんですが」
「そう? お客さんかな?」
ドアのほうへ向かう俺に、凪がぼそりと、
「やれやれ。いつもは細かいことにも気がつくのに。ぼーっとしてるねぇ」
「掃除に集中してた上に、いまはちょっと雑音が多いから仕方ないだろ」
それだけ言い返して「はーい」とドアを開けると、お隣さんだった。
お隣さんは、俺と同い年で同じ高校に通う少女。
名前は、浅見羽衣(あさみうい)。
身長も平均的だし顔も特別美人ってわけでもない。髪はちょっと長めかな。特筆すべきことはないけど、心優しい普通の少女だ。
「あ、開くん。回覧板だよ」
「ありがとね」
「いま掃除中?」
「うん、そうなんだ」
鈴ちゃんが掃除機をかけてくれているから、小さな声ではちょっと聞き取りにくいが、これくらいに普通のトーンなら問題ない。
「お掃除するのって気持ちいいよね」
「そうだね、掃除は気分転換になるしね」
「わたしも自分の部屋お掃除しないとなー」
ふと、俺は振り返る。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとごめん」
俺はタタタと走って、和室に上がる。
いまは鈴ちゃんが窓際で掃除機をかけているが、そっちじゃない。俺は窓とは反対側――戸棚の横に回った。
「ん?」
と、凪が顔を上げた。
「こら、凪! お菓子の盗み食いするな! もうすぐお昼ごはんだろ?」
「げっ! なんでわかったの」
「おまえのすることくらいお見通しだよ」
その様子を見ていた浅見さんが口に手を当て、
「さすがは探偵王子だね」
凪はおもしろくなさそうにぼやく。
「さっきまでドアをノックする音も聞こえなかったくせに、どうしてぼくのことになると目聡いんだ」
浅見さんはおかしそうにくすっと笑って、
「それってつまり、ツーカーの仲?」
「それか」
と納得する凪に、俺は言ってやる。
「ツーカーの仲なら、俺に怒られることしないだろ」
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