とんぼ
とんぼを見つけて、凪が指をくるくる回している。
それを見た近所の男の子、けーちゃんは、凪を見上げた。
凪はけーちゃんの視線に気づいて、
「これ? これはね、目を回して逃がさないようにしてるんだ。こうすれば、捕まえられるんだよ」
「んっ」
けーちゃんも凪のマネをして、とんぼに向かって指をくるくる回した。
現在、俺と凪とけーちゃんの三人で、家の庭で遊んでいた。
いつもだったら、けーちゃんは花音に一番なついているから花音もいっしょに連れて行きたがるけど、今日は出かけていた。
俺たち三人が部屋に戻ると、花音も帰ってきた。
同じタイミングで、お父さんも帰ってくる。
お父さんは独り言をつぶやく。
「チャンスが来たぞー!」
普段、お父さんは仕事の話を家でしないからなんのことかはわからないけど、いい波が来ているみたいだ。
そのとき、けーちゃんがお父さんに向かって指をくるくる回した。とんぼをつかまえるときみたいだ。
けーちゃんの様子に気づかないお父さんに代わって、花音が不思議そうに尋ねた。
「けーちゃん。なにしてるの?」
「んっ」
まだちゃんとはしゃべれないけーちゃん。
俺も最初はけーちゃんがなにをしたいのかわからなかったけど、見当がついたので言った。
「さっきいっしょにとんぼ取りしてて、つかまえる方法を凪に教わったんだ。きっと、逃げないようにしてくれてるんだよ」
「運が逃げないようにね」
と、凪が片目をつむって言った。
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