所長登場のエピローグ
あのあと、海に落下したキラリも無事つかまり、この宝石強盗事件は解決した。
後日。
事件も終わって、俺たちは表彰されることとなり、探偵王子の活躍はさらに世間に知れ渡ることとなる。
はずだった。
実際、探偵王子の評判は上がったけど、今回の件では、やたらとその周辺に関する話題が多いのだ。
その周辺とはつまり……
「開。見てよ、ぼくたちの記事がまた載ってるぜ。探偵王子の相棒登場! だってさ」
そう、勝手に相棒と紹介されている凪のことだ。
確かに凪がいなかったら危ないところもあったかもしれない。でも、だいたいは俺の活躍じゃないか。納得いかねー!
探偵事務所で凪が持ってきた雑誌を見せられて、俺はため息をつく。
逸美ちゃんは嬉しそうにニコニコ笑顔だ。
「すごいじゃな~い! 実は同級生、最強タッグ誕生! とか、色々言われてるわよね」
「こっちには、某名探偵Nさんの証言ってあるよ。なになに? ええと、『あの子には最高の相棒になることだろう。まだまだ未知数の可能性を持つ、相棒くん。二人が合わされば、この名探偵である私にもできないことができるかもしれないね。それはきっと、もっと先の話になるだろうけど』。だって。誰だろうね、この名探偵Nさんって」
俺は投げやりに答える。
「名探偵って呼ばれる探偵は、現在世界に一人しかいない。Nさんって、名前の頭文字がNだろ? 俺のことをよく知ってる人と言ったら、もうわかるんじゃない?」
凪はぽんと手を打った。
「ああ、ぼくいつのまにかこんなインタビューを受けていたのか。忘れてたよ。思い出してもないけど」
「ちげーよ! 名探偵っていったら鳴沢千秋! この探偵事務所の所長だ」
そのとき、急に探偵事務所のドアが開いた。
「やあ。みんな来ていたのか。凪くん、初めまして。私が鳴沢千秋だ」
噂をすればなんとやら。
所長、鳴沢千秋が登場した。
完璧に整った美貌を持ち、手足がスラリと長く、身長も一八〇センチ以上ある。長めの髪は後ろでまとめられていて、容貌が日本人離れしており、その雰囲気と存在感は人間離れしている。派手な白いスーツも目を引く、変人であり超人だ。年齢もいくつかわからないが、三十は超えてないと思われる。
そんな所長に、凪は軽く手を挙げた。
「どうも。ぼくは柳屋凪。こちらこそ初めまして。今日はどんなご依頼ですか?」
「ははっ。そうきたか。それじゃあひとつ、依頼させてもらおうかな」
「どうぞ。お構いなく。どんな依頼も探偵王子の開と相棒のぼくが承ります」
「これから開くんのことをよろしくね。凪くん」
「おう。頼まれた。それではご依頼料のご相談です」
「勝手に頼んだり頼まれたりするな! もう。所長おかえりなさい。所長がいない間に来た依頼人について調書、出しておきますね」
「ん。わかった」
逸美ちゃんは所長にお茶を淹れに行く。
凪は相変わらずマイペースに自分について書かれた雑誌を読んでいる。
所長は窓の外を見て、小さく微笑んだ。
「面白くなりそうだ」
おわり
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