朝の星座占いはよく当たる
いつも通り探偵事務所で逸美ちゃんとのんびり過ごしていると、ウキウキした様子の鈴ちゃんがやってきた。
ただ楽しそうというより、わくわくしているような感じだ。
逸美ちゃんが聞いた。
「なにかいいことあったの? 鈴ちゃん」
「そんな風に見えます?」
「ニヤニヤしてるから~」
「ニヤニヤはしてませんっ」
つっこむときはちゃんとつっこむんだな。
俺も気になって、ちょっとした推測と合わせて尋ねる。
「いいことがあったってより、これからあるんじゃない? わくわくしてる感じするよ」
「遠足前の子供みたいにね」
と、逸美ちゃんも付け足した。
鈴ちゃんは改まったように、ごほんと咳払いをした。
「さすが開さん、探偵王子の観察眼は伊達じゃないですねっ」
この浮かれようには、相当いいことがあるに違いない。
「それで、そのいいことって?」
「実は、今朝の占いでおとめ座が一位だったんですよ! しかも、思いもよらないサプライズプレゼントがあるって」
「へえ。当たるといいね」
「占いか~。わたし見てないわ~。当たるのかしら?」
俺と逸美ちゃんの言葉に、鈴ちゃんはビシッと言った。
「当たります! 当たるって有名なんですよ。最近占いコーナーが一新されて、それから占いの的中率がすごいらしいんですよ」
「ふーん」
「星座占いでしょう?」と逸美ちゃん。
「あ、星座占いだからって甘く見てますね?」
「だって、全国のおとめ座の人に同じこと起こるなんてー」
信じてない逸美ちゃんに、鈴ちゃんは「う」と一瞬言葉に詰まる。
「で、でもっ! わかりませんよ? その出来事やその大きさが違うってことで」
そのとき、ノノちゃんと一緒に凪がやってきた。
「やっほ~」
「こんにちは」
俺は二人を振り返って、
「あれ? 二人で来るって珍しいね。作哉くんは?」
「作哉くんは今日、あとで迎えに来てくれます。凪さんとはちょうどそこで会いました」
「そうなんだ。あ、鈴ちゃん」
凪が和室に上がる。鈴ちゃんは凪を見上げて、
「なんですか?」
「これ、あげるよ」
「どっ、どうして急に」
照れ隠しにそっぽを見ながら言うが、すぐに鈴ちゃんの顔がぺかーと輝くほどの笑顔になる。
凪のことだから、どうせろくなものじゃないだろうな。そう思っていたが、鈴ちゃんが手渡された手のひらサイズの袋を開けると、そこにはクッキーが入っていた。
「クッキーですか」
「うん。家庭科の授業で作らされたんだ。鈴ちゃん、昨日クッキー食べたいって言ってたからさ」
「あ、ありがとうございます!」
すごく嬉しそうな鈴ちゃん。
にんまりニヤニヤと幸せそうな鈴ちゃんに、逸美ちゃんがこそっとささやいた。
「よかったね。占いも当たって」
「え? そ、そうですね」
と、しおらしくつぶやく。
俺は凪とノノちゃんに聞いてみる。
「二人は朝の占い見てる?」
「ノノは見てますよ。当たるって学校でも評判です」
「そうらしいね。ぼくは信じてないから見てないけど、当たるみたいだよ」
「マジで?」
どうもあんまり信じられないけど、証人が三人もいるし、少なくともよく当たるという噂があることは確からしい。
「そういえば、ノノきょうの占いではハンカチがラッキーアイテムだったんですけど、ハンカチのおかげでいいことありました」
ブイ、とピースサインをした。
「その占い、そんなに当たるのかな……?」
占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦。
当たらないだろうとは思っても、俺は朝の星座占いが気になっていた。
翌朝。
俺は普通に支度をして普通に学校に出かけた。
占いのことなんてすっかり忘れて学校生活を過ごし、放課後になってまっすぐ探偵事務所に向かった。
「あのね、今日いいことあったのよ」
探偵事務所に来るなり、逸美ちゃんがそう言った。
「へえ。なになに?」
「うふふ。実は、今日大学のお友達に開くんの写真見せたら、すごく褒められちゃったの。わたしも誇らしいっ」
「なにしてるの!」
思わずつっこんでしまった。
「それからね、彼氏か聞かれたから彼氏じゃないよって言ったら、今度紹介してって言われちゃって」
なんか色々と頭が痛い。
「ああそうかい。余計なことだけは言わないでよね」
「大丈夫。開くんに迷惑はかけないわ。可愛い弟みたいなもので彼氏じゃないけど、彼氏以上に大切な人だって言ったらもう言わなくなったわ」
俺はクッションに顔をうずめて言葉を失った。
はぁ。ため息がこぼれる。俺の知らないところでものすごく恥ずかしいことを言われていたけど、嫌じゃないし注意もできない。
なんてことだ。
すると、探偵事務所のドアが開いて凪と鈴ちゃんがやってきた。
今日も鈴ちゃんは占いについて話した。
「あたし、今日はちょっと運よくなくて。ただ、本当に災難が起こりそうになっても、ラッキーアイテムのすりごまのおかげでなんとか乗り越えられました」
「すりごま!?」
どんな占いなんだ? 違う意味で興味がわいてきた。
「ぼくは今日、いいことがあったよ」
「凪も?」
「うん。学校でさ、先生のカツラがずれているのをこっそり教えてあげたら、ぼくだけ課題が免除になったんだ。ラッキーだったな~」
「おまえそれ、占い関係ないだろ。教師脅してんじゃねーよ」
凪は無表情で、
「え? 占い?」
さらに翌日。
絶対に明日こそは占いを見てやる!
そう思っていたのに、気が付けば俺は探偵事務所に来ていた。もちろん朝の星座占いを見るのは忘れていた。
逸美ちゃんは今日も占いの話をしてくれた。
「それでね、学食のからあげがおっきかったの~」
「よかったね」
あんまり占い関係ない気がするけど、いいことあるって思い込みがラッキーを呼び込む秘訣なのかもしれない。
「そうそう、今日はわたし開くんのも分も見てきたのよ」
「そうなの?」
「うん。じゃじゃじゃじゃーん! 開くんの今日の運勢は、超ラッキー。親友との友情をさらに深められるよ。だって」
「逸美ちゃん、悪いけどやっぱり占いは当たらないよ。俺、今日そんなことなかったもん」
「まだわからないわよ。凪くん来てないし」
「あいつは親友ですらないけど」
そのあと、凪が鈴ちゃんと一緒に探偵事務所に来た。
鈴ちゃんがまた占いの話をしてくれて、当たったと本人は喜んでいるが、やはり当たるも八卦当たらぬも八卦だろう。
「あ、開。ちょっといい?」
「なに?」
「うん、ほんのちょっとでいいんだ」
「だからどうしたの?」
「これ、ほんのちょっとでいいからさ」
と、凪はてへぺろして学校の課題のノートを見せてきた。
「えーと、頑張ってね。ファイト」
しかし、凪は笑顔のまま俺にノートを差し出した。
「終わらせていかないと、明日帰らせてもらえないんだ。つまり……」
「つまり?」
「例の依頼に、ぼくだけ顔を出せない」
普段なら凪がいると邪魔なのに、明日は凪がいないと情報収集が追い付かないんだよな。
くそう!
俺は凪からノートを取り上げた。
「よーし! 終わらせるぞー!」
「おう! 頑張ろう~!」
凪が拳を突き上げる。
この課題の内容からして、逸美ちゃんも対応できない数学の難問ばかり。俺と凪しかこんなの解けるやついないから、やるっきゃない。
俺たちはこたつに入って問題集に取りかかった。
「先輩、問題集逆さまです」
逸美ちゃんはふふっと微笑む。
「占い当たってる。親友と難題に取り組んで、友情を深めてるね」
おわり
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