ポケモンバトル その2 良人VS鈴

 いよいよ始まった良人さんの挑戦。

 挑戦というのは、ポケモン図鑑完成をかけた少年探偵団のメンバー全員とのポケモンバトルである。

 全員に勝利して、ポケモンを交換してもらい、図鑑を埋めるのが最終目標だ。

 しかし、前回は逸美ちゃんにあっさり負けてしまった良人さん。

 今回こそはと意気込む次の相手は、中学三年生の鈴ちゃんである。

「あたし、良人さんには負けませんよ」

「ボクだって! 女子中学生に負けたら情けないもんね」

「情けないのはいつものことでしょ」

 ぼそりとつっこむ凪の言葉は、もはや良人さんには聞こえていないようだ。

 俺は二人に確認する。

「二人共、準備はいい?」

「はい。いつでもオッケーですよ」

「ボクも。じゃあ始めようか」

 良人さんVS鈴ちゃんの真剣勝負が、いま始まった。

 両者の一匹目のポケモンは、フライゴンとプクリン。

「へえ。プクリンか。可愛いだけで強くはなさそうだけど、相性はよくないな」

 冷静に分析をしている良人さんに、鈴ちゃんが自信たっぷりに言う。

「あたしのマイケルくんはなかなかいい仕事しますよ」

「あれ? おみとおし? ボクのフライゴンのきあいのタスキのおみとおしされたってどういうこと?」

「プクリンの特性だよ。相手のポケモンが持っている持ち物がわかる。偵察役に適した面白い特性だね」

 凪の解説を聞き、良人さんは歯がゆい顔になる。

「別に問題はないけど、なんかやりにくいな」

「問題なくはないですよ、持ち物がバレたら相手のポケモンの型がバレてしまう。対策が取られやすくなるんですから」

 俺に言われて、良人さんはハッとする。

「なるほど! でも、ここは仕方ない。割り切ろう」

 鈴ちゃんはニヤリと微笑む。

 1ターン目。

 攻撃を仕掛ける前から鈴ちゃん有利に進んでいたが、先攻は良人さんのフライゴン。

 フライゴンはとんぼがえりをして、後ろに控えていたミロカロスに交換した。

「よし。これでどうだ」

 次に、後攻のプクリンの攻撃。

「マイケルくんのステルスロックです」

「なーんだ。なんにもしてこなかったや」

「そんなわけないでしょ。対戦相手ながら説明してあげますけど、ステルスロックは場にポケモンが出たときに、ダメージが入ってしまうようになる技なんです」

「ふーん。なんかまだピンとこないけど、大丈夫だろう」

 のんきに構えているけど、こういう技はのちのち結構響いてくるものだ。

 2ターン目。

 先攻はミロカロス。

 ミロカロスは水技ねっとうを繰り出した。

 この技ではプクリンの残りHPがギリギリ半分いかないくらいだ。

 続いて、プクリンの攻撃。

「安定のでんじはを打っておきますね」

「あぁ、麻痺した」

 ミロカロスは麻痺状態になった。これですばやさが半減してしまう。だが、もしミロカロスの特性がふしぎなうろこだった場合、状態異常のとき物理面の防御が上がってしまうので、麻痺でふしぎなうろこが発動していると物理アタッカーは厄介なことになる。

 3ターン目。

 プクリンのはたきおとす。

 これによって、ミロカロスの持ち物は落とされてしまう。とつげきチョッキは落とされた。

「え? なにそれ」

「はたきおとすです。相手が持っている持ち物を落とせるんですよ。なので、耐久力アップアイテムのとつげきチョッキは落とさせてもらいました」

「なんて卑劣なんだ」

「どこも卑劣じゃありませんっ」

 鈴ちゃんも頑張ってつっこんでいる。

 4ターン目。

 ミロカロスは再びねっとうでプクリンを落としに行く。だが、ギリギリのところで耐えられてしまった。

 今度はプクリンの攻撃。

 プクリンはほろびのうたを歌った。

「ほろびのうたってなんだい?」

 よくわかっていない良人さんに、凪が解説してやる。

「その技を使ったとき場に出ていたポケモンは、3ターン後にひんしになってしまうのさ」

「え? それって怖くない?」

「だから、それが嫌なら交換。3ターン以内にそのポケモンを切るつもりなら残してもいいって感じですね」

 鈴ちゃんが挑戦的に言った。

 良人さんは迷っているようだ。

「ボクのミロカロスは麻痺してるけどまだほとんどダメージを受けていない。はたきおとすのダメージも小さかったし、まだ体力的に活躍もできそうだ。どうしよう」

「交換しなくていいならそれはそれで美味しいですし、あたしはどっちでもいいですよ?」

 普段凪と言い合いをしたりするとき以外では、鈴ちゃんがこう意地悪な目で迫るのは珍しいことだ。

 単純な良人さんは、意を決した。

「よし。じゃあ一旦交換だ」

「ふふ」

 まんまと鈴ちゃんの作戦にハマってるな。鈴ちゃん相手にここまで翻弄されていると、駆け引き上手な作哉くんや奇策使いの凪相手じゃ、どうなることやら。

 5ターン目。

 ミロカロスと交換して場に出て来たのは、バシャーモだった。

 また、バシャーモが場に出ると共に、さっき撒いておいたステルスロックのダメージが入った。

「ええ! こんなに!?」

「炎タイプは岩タイプの技に弱いですからね」

 ステルスロックは岩タイプの技。タイプ相性による効果を受けるので、岩タイプが弱点のポケモンが場に出た場合は特に有効になる。

 良人さんは交換するのに1ターン使ったから、プクリンの攻撃になる。プクリンははたきおとすをした。

 だが、道具を落とすことはできなかった。

「あれ? どうして大丈夫だったの?」

「メガ進化させるためのアイテムは落とせないんです。まさか、もう三匹目見せちゃうとは思いませんでした」

 フライゴン読みのはたきおとすだったのだろう。きあいのタスキははたきおとすようなアイテムじゃないけど、フライゴンにはでんじはなどの電気技は効かないし。もし三匹目が出てもアイテムを落とせたらアドバンテージなので、これは良人さん運がよかった。

 6ターン目。

「ボクの想いに応えよ! シンカを超えろ! メガシンカ!」

 バシャーモはメガ進化して、まもるという技をした。これによって、バシャーモは特性を安全に発動させられる。毎ターンすばやさが上がるという非常に強力な特性なのだ。

「これで早くなったぞ」

「すばやさアップですか。でも、いまのは普通に攻撃で大丈夫でしたよ」

 鈴ちゃんの言う通りだ。前に俺が、「バシャーモはまもるから入ればすばやさが上がって、大抵どんな相手よりも早く攻撃できるようになりますよ」と教えたから、その通りにやっているのだ。元からすばやさで勝っているプクリン相手には無意味なのに。

 プクリンはでんじは。しかしこれはまもるで無効化される。

 7ターン目。

 バシャーモの攻撃で、プクリンはひんしになった。

「あはは! バシャーモ強い強い!」

 良人さんはやっと相手の一匹を倒して調子に乗っている。

 次に鈴ちゃんが繰り出したのは、スターミーだった。

「凪先輩にもらったクエーサーちゃんです」

「凪くんからもらったポケモンか。これは手応えありそうだ」

 8ターン目。

 バシャーモが攻撃。だが、炎技なのでスターミーは耐える。

スターミーのサイコキネシスはこうかはばつぐんだ。これで、逆にバシャーモが倒されてしまった。

「そんなぁー」

「まだ2匹いるじゃないですか」

「だね。いまのはバシャーモの炎技もかくとう技もこうかがいまひとつで相性が悪かっただけだ。ボクだって負けないぞー」

 このターンの終了時、スターミーはいのちのたまという火力アップアイテムの反動で、ダメージを受けた。

 次に良人さんが出したのはミロカロスだ。

 ミロカロスはステルスロックのダメージを受ける。ただし、岩タイプが弱点じゃないから大ダメージではないけど。

 9ターン目。

 先攻はスターミー。

 スターミーの10まんボルトはミロカロスにこうかはばつぐんだ。ミロカロスのHPが半分以下になった。約四分の一強といったところか。

「やばいよやばいよ! 10まんボルト覚えるの?」

「スターミーは技のデパートですから。色んな技覚えますよ」

 後攻のミロカロスの攻撃。

 ミロカロスははかいこうせんをした。

「うそ?」

 これには鈴ちゃんも驚きである。

「へへん、これが強いんだよ。やったー! スターミー撃破」

「これは予想外でした。めざめるパワー電気か草もあり得るかと思ってましたが、はかいこうせんとは」

 予想外の攻撃にスターミーが倒され、鈴ちゃんのポケモンは残り一匹になった。

「あたしの最後の一匹はこの子です。頑張って、ステファニーちゃん」

 鈴ちゃんのラスト一匹は、色違いチルタリスのステファニーちゃんだ。

「あー! 色違いだ。いいなー」

「黄色のチルタリスも可愛いでしょ」

 10ターン目。

 先攻はチルタリスだった。

 チルタリスのハイパーボイスで、ミロカロスは倒れてしまった。

「うん、いい感じ」

「やられちゃったか。でも、ボクのミロカロスも凪くんにもらったからね。なかなか強かったでしょ」

 誇らしげな良人さんに、凪がぽつりと言う。

「せっかくめざめるパワー電気にしたのに、勝手にめざめるパワー忘れさせてはかいこうせん入れておいてよく言うよ」

「ボクなりのアレンジだよ」

 続いて、フライゴンが場に出て、ステルスロックのダメージを受ける。じめんタイプは岩タイプのダメージを半減するから、ステルスロックのダメージも小さい。

「でも、これでタスキはつぶれましたよ」

 きあいのタスキはHPが満タンのときにしか発動しない。タスキをつぶすためにもステルスロックは有効なのだ。

「まだまだ。フライゴンは強いんだぞー」

11ターン目。

 すばやさはフライゴンの方が早いけど、メガ進化はすばやさに関係なく、ターンの始めに行われる。

まずはチルタリスがメガ進化した。

「うわっ! すごいモフモフしてる。強そうだなー。でも、これはこうかはばつぐんだもんね。いけっ! りゅうせいぐん!」

 攻撃はすばやさの高いポケモンからなので、フライゴンの攻撃から。

 しかし、チルタリスにはこうかがない。

「なんで? どうして? ホワイ?」

 両手を広げてのオーバーリアクションに、鈴ちゃんが答える。

「チルタリスはメガ進化するとタイプが変わるんです。ドラゴン・ひこうから、ドラゴン・フェアリータイプになります」

「ドラゴンタイプの技はフェアリータイプには無効ですからね。残念でした。このためにあえて鈴ちゃんは前のターンにメガ進化しなかったんですよ」

 俺の補足を聞いて、良人さんは「そんなー。とほほ」と肩を落とす。

チルタリスがメガ進化してフライゴンのりゅうせいぐんを透かし、今度はチルタリスの攻撃になる。

「ハイパーボイスで一撃ですね」

 ハイパーボイスがこうかばつぐんでフライゴンに入る。一撃でフライゴンは倒れてしまった。

「なんでこうかばつぐんなの?」

「チルタリスの特性で、ノーマルタイプの技がフェアリータイプになるからですよ」

「まさかそんなのまであるとは。奥が深いなー」

 これで、良人さんの手持ちのポケモンは三匹共ひんしになり、鈴ちゃんが勝利した。

 鈴ちゃんはペコリと頭を下げて、

「対戦ありがとうございました。バシャーモ警戒でしたが、なんとか勝ててよかったです」

「こちらこそ対戦ありがとう。ボク、また負けちゃった。しかも今度は女子中学生にだよ。とほほ」

 凪はやれやれと手を広げて、

「なに言ってんだか。これまでだって小学生のノノちゃんとじゅんたくんに負けてたくせに」

「凪くん、それは言わないでよ」

 落ち込んでいる良人さんに、鈴ちゃんは言った。

「でも、可哀想ですしポケモンは交換してあげます」

「本当かい? ありがとう鈴ちゃん」

 こうして、良人さんはまたお情けで交換してもらえることになった。

「そういえば、普段鈴ちゃんってどんなポケモン使ってるの? ボクとの対戦には登場しなかったポケモン教えてよ」

「あたしの手持ちは、一番のエースでパートナーのメタグロス・ウィリアムくん、チルタリスのステファニーちゃん、プクリンのマイケルくん、スターミーのクエーサーちゃん、アローラキュウコンのシェリーちゃん、グレイシアのアリシアちゃんです」

 鈴ちゃんもだけど、ガチのレーティングはやらないから、好きなポケモンで固めているだけになる。それでも、バトル施設で連勝できたりとなかなか強いメンバーなのだ。

 良人さんは図鑑に登録していないポケモンを交換してもらった。

「ふう。順調順調!」

「良人さん、これでいいんですか?」

 ジト目で聞く俺に、良人さんは苦笑いであははははと笑う。

「まあ、いいじゃないか! 次勝てばいいんだしさ。さーて、次は誰にしようかなー。そうだなー。よし、決めた。次は作哉くんだ」

 作哉くんはずっと興味なさそうにしていたが、ゲーム画面から顔を上げることなく答えた。

「わかった。相手してやるよ。けど、ちょっと待ってろ。いま対戦中だ」

「は、はい」

 作哉くんは現在レーティングの対戦をしていた。

 それが終わったら勝負だ。

 言われるがままにうなずき、なぜか良人さんは正座までして準備は万端だ。

 俺は凪にこそっと言う。

「この試合、意味あるかな?」

「ないだろうね。どうせ良人さん、絶対に負けるし。まあやらせてあげようよ。本人がやる気なんだしさ」

「そうだな」

 さて、この試合、どうなることか。

 次回は良人さんと作哉くんのガチバトル。

 果たして良人さんは、作哉くんの意表を突き勝利することができるのだろうか。

つづく


御涼鈴 イラスト

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

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