幕間短編 色違いブーム
ポケモンには色違いというものが存在する。同じポケモンでも通常の配色とは違う、非常に珍しいポケモンのことだ。
これをタマゴで孵化する大変さは、俺たちみんな知っていた。
というのも、俺たち少年探偵団のメンバーの中で、色違いブームがあったからだ。
みんなでこぞって色違いをタマゴから出そうと頑張ったのである。
時系列としては、良人さんがポケモンを始める前になる。
「確率っていまは4000分1くらいだっけ?」
凪が眠たげな眼差しで聞いた。
「そう。ひかるおまもりで三倍出やすくなるし、あとは両親のどちらかを海外産のポケモンにしてタマゴを作るとかなり出やすくなる」
「だよね~。ぼくのは海外産じゃないのかな~?」
かなり疲れた顔でタマゴの孵化作業をしている凪。今日でもう二週間が経つ。
みんな一匹は色違いを出したのに、凪だけまだ作れていないのだ。
「でも、たまに海外産に見せかけた日本産っていうのもありますしね」
鈴ちゃんの言っているのは、海外産だとどの国で生まれたかのマークがつくが、それが卵を受け取った国と合致しない場合を指す。
「俺も、それで生まれないのかなーって思ったこともあったよ。出ないときはそういう可能性考えちゃうよね」
「あたしも思っちゃいます。でも、ちゃんと生まれてよかったですよ」
「鈴ちゃんはメタグロス作って、今度はチルタリス狙いだっけ?」
「はい。チルタリスも可愛いので、なんとか色違いをゲットしたいなと」
と、鈴ちゃんは拳を握って胸の前にやりやる気を見せる。
「わたしはサーナイトちゃん作れたから、今度はポカブちゃん作ろうと思ってるわ。うふふ」
逸美ちゃんもいまは二匹目にチャレンジしている。
「ノノはテディがいればいいです」
「でも、いまもタマゴ作ってるよね?」
「はい。いまはゲンガーを育てようと思ってて、走ってるところです。ふぇ? あぁ! タマゴから、ちょうど色違いのゴースが生まれました!」
「ほんと?」
「どれ?」
俺と鈴ちゃんが画面を見る。遅れて逸美ちゃんも見た。
「すごい。よかったね、ノノちゃん」
「はい!」
「おめでとう。使うしかないじゃない」
「ありがとうございます。使います!」
「おめでとう、ノノちゃん。わたしも早く生まれないかな~」
「ありがとうございます。逸美さんも早く色違い出るといいですね」
ノノちゃんは生まれたゴースに、「ゲンガーだから……ゲン……ガー……。がーちゃんにしょうっと」とニックネームをつけていた。ノノちゃんは国際孵化じゃないのに色違いが出て、ラッキーだったな。
すると、今度は凪が声を上げた。
「やったー! ぼくは長く苦しい戦いに勝ったのだ。よかったー。ぐでん」
見れば凪の方も色違いのイーブイが生まれていた。
本人は横になってぐったりしている。
「凪もよかったじゃん」
「おめでとうございます、凪さん」
「凪くんもおめでとう」
「先輩、頑張ってましたもんね」
凪は顔を上げて、
「みんなありがとう。さて、特性は……あっ! これじゃないんだ」
頭をもたげて、凪はまた倒れた。
「やり直しだー」
あはは。頑張ってくれ。俺は苦笑いでなにも言えなかった。
後日、また凪が色違いのイーブイを出した。
「よーし、今度こそは……」
凪は顔をのけぞらせるようにして、怖いものでも見るみたいにチラっと見る。
「んー? あー……。またか。また特性が違う」
「あはは、凪お疲れ」
「ホント疲れたよ~。開代わりにやって」
「やだよ。でも別にいいんじゃない? 特性としてもブラッキーと相性悪くないし、使い方次第だよ」
「そうかなぁ?」
俺は凪にそっちの特性ではどう使ったらいいかなど話して、ちょっと凪と戦いについて話し合っていた。
そのとき、逸美ちゃんがぐっと右腕を伸ばして、
「また出てくれたわ~。ポカブちゃんも昨日ゲットしたばかりなのに、今日はヨーテリーちゃんも出てくれたし、次はまた別の子を作ろうかしら」
「逸美ちゃんやったね。すごいよ、もう三匹なんて」
「開くんも色違い出やすいわよね。狙ってなくてもイーブイちゃん出たしね」
「うん。だからイーブイはイーブイのまま観賞用で置いてるけどね」
しかし凪は出が悪いというか、ひとりだけ興味なかった作哉くんもサザンドラを作ったけど、凪は作りたくてもやっとだったのだ。
そして。
約三週間後。
少年探偵団メンバーの色違いブームも終わり、色違い作りにハマった鈴ちゃん以外は色違い作りをしなくなったとき。
凪はグライガーの色違い厳選をしていたらしかった。
「くぅ~。ぼくの苦労が実った」
「先輩、よかったですね」
「凪、三週間くらいかかった?」
「その通りさ」
「で、次はマリルリ作りたいんだっけ?」
しばらく前にそんなこと言ってた気がして聞くと、
「いや、いま出たのがマリルの色違いだよ」
と、凪はぐったりした様子で答えた。
「あれ? グライガーで作ってたじゃん」
「うん。でもマリルが出来たんだ」
なんでそうなったんだ。やっぱりこいつの行動はよくわからない。
「ふーん。じゃあ次グライガーで作るんだね」
しかし、凪はばたりと倒れて言った。
「いいや。もう色違いはこりごりだ」
かなりお疲れな凪だった。
このあと結局、残っていたタマゴから色違いのグライガーも生まれてくれたらしい。
つづく
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