ポケモンバトル その6 良人VSノノ
良人さんとノノちゃん。
この二人は、前にも一度戦ったことがある。
だが、そのときは凪の作戦にノノちゃんが乗って戦ったので、二人だけの真剣勝負は今回が初めてといってもいいだろう。
ノノちゃんも良人さんもポケモンを選び、いよいよバトルが始まった。
まず、ノノちゃんの先発はゲンガーだった。
「ノノはゲンガーのがーちゃんです」
メスのゲンガーで、ニックネームはがーちゃん。よく見ないとわからない人もいるかもしれないが、がーちゃんは色違いだ。
「ボクのトップバッターはフライゴン、キミに決めた!」
良人さんのフライゴンは、前回のノノちゃんとのバトル後にノノちゃんにもらったナックラーが進化したポケモン。
「フライゴンですか」
ずっと共に戦ってきたポケモンだけに、せっかくのこの勝負で使いたかったのだろう。
1ターン目。
すばやさで勝っているのはゲンガー。
ただその前に、ゲンガーはメガシンカした。
メガゲンガーになる。メガゲンガーは色違いだと紫から白になるから、違いがはっきりわかるようになるのだ。
「白いゲンガーってなんか、プレミア感あるね」
「はい。ノノが頑張って作った色違いはキテルグマのテディとこのがーちゃんだけなので、お気に入りです」
おそらく、ゲンガーとキテルグマはタイプ相性の補完がいいから、テディも出るだろう。残り一匹が気になるところだ。
メガシンカして、メガゲンガーの攻撃。
「おにびです」
「鬼火? やけどになるんだよね」
「はい」
フライゴンはやけどになった。
「ノノちゃん、さいみんじゅつは使わないのにおにびは使うんだね」
良人さんが苦笑いしているけど、ノノちゃんは笑顔でうなずく。
「はい。さいみんじゅつよりは、嫌がられないかなと思いまして」
「思考停止のさいみんゲーは面白くないからね。ぼくの賛成だよ」
凪が賛成を示したところで、後攻のフライゴンの攻撃。
「フライゴン、じしん」
じめんタイプの技はゲンガーにこうかはばつぐん。
しかし、おにびの効果で攻撃が半減していたのもあり、ゲンガーはHPを半分ほど残して余裕でじしんを耐える。
「くそう! やっぱりやけどが痛いか」
悔しそうな良人さんだが、ここはノノちゃんの選択がよかった。
2ターン目。
メガゲンガーが一度下がる。
出てきたのはニンフィアだった。
「ニンフィアのニアくんです」
「あ、しまった」
と、良人さんは指をくわえる。
フライゴンの攻撃は、りゅうせいぐん。もう一発でメガゲンガーを落としに行きたかったのだろう。こうかはばつぐんだけどやけどで攻撃が半減しているじしんより、特殊技のりゅうせいぐんを打ってとんぼがえりをしたかったのだろうが、これは残念だ。ニンフィアはフェアリータイプなのでドラゴンタイプの技は無効なのである。
3ターン目。
良人さんは交代せずにフライゴンで突っ張ってきた。
「もうこのフライゴンにできることはあんまりない! 最後の攻撃だ!」
フライゴンは一撃必殺技、じわれをした。
が。
一撃必殺は命中率がさいみんじゅつよりも低い。三割でしか命中しないのだ。
ここでは運を掴めず、じわれは外れた。
ノノちゃんはほっと胸を撫で下ろした。
「よかったです。ニンフィアはハイパーボイスです」
後攻のニンフィアはハイパーボイスをした。
これにより、フライゴンは倒れてしまった。
「あー。やられちゃったか。でもゲンガーにダメージを与えられたし、よく頑張ったよ」
そして、良人さんが次に場に出したのはバシャーモだ。
4ターン目。
最初に、バシャーモがメガシンカした。
そして、今回のバシャーモはまもるをせずに攻撃してきた。
すばやさの高いバシャーモが先攻。
バシャーモはフレアドライブをした。
「あー! 惜しい!」
「ふぇ! びっくりしました。残り1だけ耐えましたね」
なんと、ニンフィアは残りHP1だけ耐えた。
「一回攻撃できてよかったです」
また、フレアドライブは高威力の技である代わりに反動ダメージを受けるので、バシャーモのHPが削られた。
後攻のニンフィアの攻撃はサイコショック。エスパー技なのでバシャーモにこうかはばつぐんだ。
「耐えて! お願い!」
しかし、バシャーモはフレアドライブの反動を受けていたので、サイコショックのダメージでひんしになってしまった。
「うわぁぁ! バシャーモがー! ノノちゃんのポケモン、まだ一匹も倒してないのに……。とほほ」
「良人さんの最後はどの子ですか?」
「ボクの最後はこの子さ。いっておいで、エレキブル!」
エレキブルか。
5ターン目。
先に攻撃したのはニンフィアだった。先制技のでんこうせっかで、エレキブルにわずかなダメージを与える。
返しのエレキブルの攻撃はじしん。これでニンフィアは倒れた。
「よしっ! よしっ! まずは一匹」
「ニアくん頑張ったね。では、次のポケモンを出します」
ノノちゃんが出したのは、メガゲンガーだ。
「がーちゃん、よろしくね」
6ターン目。
先に動いたのはメガゲンガー。
メガゲンガーのヘドロばくだん。
「うげっ。でもまだまだ耐えるぞ」
「がーちゃんも厳しいかな?」
「いけっ! じしん」
これで、メガゲンガーは倒れた。
凪は残念そうにつぶやく。
「惜しいな。これでみちづれがあったらここで勝てたのに」
「ん? 凪くん、みちづれってなんだい?」
良人さんの質問に、凪がさらりと答える。
「簡単に言うと、自分がひんしになったら相手もみちづれにしてひんしにするって技。ノノちゃんはまだ一匹残ってるからいまの二匹がひんしになったらノノちゃんの勝ちってわけさ」
「なるほど。怖い技だね」
「きっとほろびのうたを入れてたんだね。そっちだと即効性がないから攻撃した方が早いし」
俺が付け加えると、ノノちゃんはうなずく。
「はい。でも、みちづれにしておけばよかったです」
さて、これで両者残り一匹ずつ。
ノノちゃんが最後に出したのはキテルグマだった。
「色違いのキテルグマ、テディです。ノノの相棒なんです」
「うほっ。これがテディか。黄色のキテルグマも可愛いね」
「ありがとうございます」
丁寧に律儀に良人さんにお礼を言って、ノノちゃんは技を選択する。
7ターン目。
このターン、先攻はエレキブルだ。
エレキブルはZ技を繰り出す。
「スチャ、スチャ、シャキーン!」
良人さんはゲーム中の主人公の動きに合わせて自分もポーズを決めて叫んだ。
「くらえ! ボクたちの全力だー! スパーキングギガボルト」
「うぅ」
ノノちゃんが身体を縮こめて画面を見ている。
エレキブルのZ技は強力だった。一気にHPゲージが削れていく。
「うおおぉっ!」
エレキブルと一心同体になった良人さんは、胸を張って上体をそらして大声を上げる。
気持ちが入るのは分かるが、ちょっとうるさいな。
凪はテレビでも見るような調子でおせんべいを片手に、
「ポケモンは気合いが大事なんだ。いまの気合いじゃあギリギリ一撃でもっていけないよ」
「そんな非論理的なことがあるわけ……」
しかし、俺がそう言いかけた途中で、キテルグマはギリギリで耐える。
「ふぁ、残りHPがまた3です。ギリギリでした」
「ぬわぁぁ! なんでいつもギリギリ足りないんだー! やっぱり気合いかー!」
と、良人さんは頭を抱えて身体をくねらせた。
凪はそれを見て、
「そうそう。ぼくなんて大事な試合では気合いが入り過ぎて暴れ出すくらいだからね」
「そんな姿見たことねーよ」
凪のボケにつっこむ余裕のない良人さんに代わり、俺が横から軽くつっこんでやった。
「まあそれはぼくのアローラの姿だからね」
やれやれ。なに言ってんだか。
さて、後攻のキテルグマの攻撃はばかぢから。
「お願いしますっ!」
ノノちゃんの祈りも通じて、エレキブルは倒れた。
俺はジャッジを下す。
「エレキブル戦闘不能! よって、この勝負ノノちゃんの勝ちー!」
「わーい! やりました! 勝てましたー」
バンザイするノノちゃんに、みんなが笑顔で拍手する。
「頑張ったわね、ノノちゃん」
「なかなかやるじゃない」
逸美ちゃんと鈴ちゃんの言葉に、ノノちゃんは「ありがとうございます」とお礼を述べる。
「ノノちゃん、おめでとう」
「おめでとう。やったね!」
「はい。開さんも沙耶さんもありがとうございます」
「ぼくたちの訓練の日々も無駄じゃなかったね」
「はい。凪さんもいつもいろいろ教えてくれてありがとうございました」
ひとり取り残されたようにぽつんとしている良人さんに、ノノちゃんは手を差し伸べた。
「対戦ありがとうございました。良人さん、とっても強かったです」
そう言われて、良人さんは急につぶらな瞳に輝きが戻った。
「そ、そうかな? いやー、ノノちゃんもすっごく強かったよ。いい勝負だったね! ボクも惜しかったよ」
ノノちゃんの手を取り握手して、良人さんはお調子に乗って続ける。
「ボクのZ技があとちょっとだけダメージ入っていたらわからなかったしね。いい勝負だった。これを教訓にボクももっと頑張らないと」
「はい。ノノも危なかったので、がーちゃんにみちづれを覚えさせたり、反省を生かします」
「……ボ、ボクも反省を生かさないと。あはは」
完全にノノちゃんの方が上だな。運が悪かったとかの問題ではなく、おそらくもう一度やっても良人さんはノノちゃんに勝てない気がした。
「良人さん、ノノも交換してあげます」
「そう? ありがとう! ボクの図鑑もまた埋まるや」
またお情けで交換してもらい、良人さんは図鑑に三匹のポケモンを登録した。
俺は良人さんに聞いた。
「さあ。最後は俺とのバトルですね。どうしますか? じっくり反省会してから、あとでにします?」
「いいや! ボクはもうやるよ。最後に勝って笑うんだ」
「準備万端ってことですね」
「もちろんさ」
だが、俺はバトルの前にひとつ言っておく。
「いいですよ。さっそくバトルしましょう。ただ、俺のポケモンは沙耶さんが使ったポケモンと同じです。選出も同じになったらつまらないので、今回俺が使うのは別のポケモンにしようと思ってます」
「おっ! つまり、エーフィとリザードンじゃないんだね」
「はい。相棒の二匹じゃないパターンでいきます」
「楽しみだな」
と、良人さんはカッコつけて言った。
「うん、良人さんが負けてリアクション芸をするのは、ぼくも楽しみだな」
と、凪が付け足すように言った。
「ボクはリアクション芸人じゃないって言ってるでしょ!」
すると、凪が悲しそうな顔してうつむいた。
「え? どうしたの? ごめんね、凪くん。ボク言い過ぎちゃった?」
「そうじゃなくてさ、リアクション芸人じゃないならぼくはこれから良人さんを一体何者だと思えばいいのかと思って」
「普通の大学生です!」
きっぱり言われて、凪は呆れた顔でつぶやく。
「やれやれ。普通じゃない人に限って自分のことを普通っていうんだよね。良人さんレベルの人が普通じゃあ普通人間のぼくの立場がないよ」
「おまえのどこが普通だよ」
俺がつっこむ。この中で一番の変人のくせに、どの口が言うか。
沙耶さんが俺に聞く。
「ところで、それじゃあ開ちゃんはどの子使うの?」
「わたしも開くんが使うポケモンちゃん気になる~」
沙耶さんと逸美ちゃんには教えてもいいかと思ったけど、せっかくだし良人さんに宣言してやろう。
「俺は先発ガブリアスでいくよ。良人さん、ガブリアスはフライゴンと同じドラゴン・じめんタイプです。勝負しませんか?」
「なんだって? おう、やってやろうじゃないか。ボクのフライゴンは強いんだ!」
「よし、話は決まりましたね。ただ教えておくと、ガブリアスはフライゴンよりすばやさが高いです。どう対策するかは凪と相談しても構いません」
これだけ聞いて、良人さんはすでにお調子に乗っている。
「そこまで教えちゃっていいのー? ボク勝っちゃうよ。ね、凪くん?」
凪に振るが、凪はため息をついた。
「ぼくに難題を振らないでおくれよ。開のガブはどうせタスキだから勝てないよ。そういうことでぼくはちょっと寝るね」
「待って! 待ってよ凪くん! お願~い。いいでしょ? 凪く~ん」
すり寄ってくる良人さんをこたつに潜ってかわして、さらに追いかけられる凪。
「わかった。わかったよ。お互い先発同士。なにかないか考えよう」
「ありがとう! 心の友よ!」
「うわあ。良人さん、暑苦しいよ。離れておくれよ」
「なにやってるんですか、先輩」
はぁ、と凪を見てため息をつく鈴ちゃんに、凪も言い返す。
「違うよ。良人さんが暑苦しいんだ。鈴ちゃん、助けて」
「嫌ですよ」
良人さんの少年探偵団メンバーとのバトルも、ついに次でクライマックス。
果たして、良人さんは俺に勝って一勝をもぎ取ることができるのだろうか。
はたまた七連敗を遂げてしまうのだろうか。
最初は気持ちよく勝たせてやろうと思ってた俺だけど、みんなのバトルを見てたら俺も負けられなくなってきた。
凪の入れ知恵も面白そうだ。
二人がなにやらしゃべっている間に、俺は残りの二匹のポケモンも決めた。
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