幕間短編 好きなポケットモンスターシリーズは?

 凪がごろごろしながらぽつりと言った。

「次のシリーズはやっぱり、金銀みたいにカントー地方に行けるといいな~」

「どうしてテメーはいつもカントーに行きたがるんだよ」

 作哉くんは下らないとでも言いたげな顔だ。

「だってカントーに行けたら嬉しいじゃないか」

「ざけんな。周回しにくくなんだろ」

 ここで作哉くんの言う周回とは、伝説のポケモンたちなど1ソフトにつき一匹しか手に入らないような珍しいポケモンを捕獲するのを目的に、再度ストーリーをやることをいう。

 ノノちゃんは俺に聞いた。

「金銀ってバーチャルコンソールでもありますけど、面白いですか?」

「うん。面白いよ」

「金銀が一番だ」

 と、凪が横から顔を出した。

「へえ。ノノ、いま出てる新しいのしかやったことないので他のもやってみたくなりました」

「やるといいよ」

 しかし、金銀を勧める凪にまた作哉くんからの横やりが入る。

「ノノ、悪いことは言わねェ。やるなら、ブラックホワイトにしろ」

「え?」

 どうしたらいいのかわからない表情になっているノノちゃんに代わりに、俺は作哉くんに言った。

「作哉くんはブラックホワイト派なんだね」

「正確には違う。ブラックホワイトからのブラック2ホワイト2。コレだよ! コレはマジでヤバかったぜ。こういうのだよ! こういうの出せよ」

 だが、凪はジト目のままつぶやく。

「でもやっぱり金銀がいいよ。カントーに行けるしハートゴールドソウルシルバーは連れ歩きまでできるんだ。連れ歩きサイコーだね」

「ホンッと、テメーみてーなカントーに行きたがるヤツと連れ歩きたがるヤツってなんなんだろうな」

 呆れたぜ、という作哉くんに、俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんが声を揃えて言った。

「連れ歩きは大事!」

 三人に言われて作哉くんは一瞬たじろぎ、

「お、おう。そうか」

 と答えた。

 凪の加勢というわけじゃないが、これに関しては鈴ちゃんが言う。

「連れ歩きって、バトルばっかりのバトル重視の人にはいらない要素かもしれませんけど、純粋に自分のポケモンと触れ合いたい人にはとっても嬉しい要素なんですよ」

「自分のポケモンちゃんがくっついて来てくれると可愛くてたまらないわよね」

 うちでは逸美ちゃんにしろ鈴ちゃんにしろ、特に女子ウケのいい要素に思える。

「俺ちょっと思ったんだけどさ、連れ歩きでポケモンがついてくる位置を選べたら嬉しくない? ただ後ろからじゃなく、ピカチュウはぴったり隣で、ルカリオは隣だけど半歩だけ後ろとか、リザードンは真後ろとかさ」

「それ面白いですね。あたしなら、グレイシアとかチコリータは隣にして、メタグロスは後ろかな。あ、ポッチャマは前をトコトコ歩くのも可愛いですね」

 連れ歩き機能について話していると、ノノちゃんが俺たちみんなに質問した。

「みなさんは金銀が一番好きなんですか?」

「ぼくはそうさ」

「オレはさっきも言ったが、ブラックホワイトだ」

 鈴ちゃんは顎に人差し指を当てて、

「うーん、あたしはダイヤモンドパールですかね。時間と空間。創造神アルセウス。色々詰まってますけど、あの一種独特の雰囲気もいいですよね」

「へえ。鈴ちゃんもイッシュの独特の雰囲気が好きなのか。作哉くんと一緒だ」

「はい?」

 一種とイッシュ地方をかけているのが、言われた当の本人は気付いてないらしい。

「わたしはルビーサファイヤエメラルドかしら~。アニメでも、ハルカちゃんがいいお姉ちゃんだったし」

 鈴ちゃんはぼそりと、

「アニメは関係なくないですか?」

「まあ、アニメも含めて雰囲気なんじゃない?」

 俺が適当なフォローを入れる。

「あと、ダイゴさんの存在も大きいですよね。チャンピオンとしての存在感とか、メタグロスとか。それと、どことなくパパに似てるカッコ良さもありますし……」

 と、最後の方はゴニョニョと小さな声になっていた鈴ちゃん。さすがファザコンだ。鈴ちゃんがメタグロス使いなのはその影響なのかどうかは聞けなかった。

 鈴ちゃんが誰も聞き取れない声でまだゴニョニョ言っているのはさておき、ノノちゃんが俺に聞いた。

「開さんはどのシリーズが好きですか?」

「俺? 俺はやっぱり、しょ――」

「初代はなし!」

 と、凪と作哉くんからつっこみが入る。

「あ、そうなの? なんか前にも好きな幻でミュウはダメって言うし」

「初代って答えちゃうと面白みがないからね」

「ああ。そうだ」

 凪と作哉くんがなぜかこんなときだけ意見が合っているのは、俺にも理解できない。

 俺は小さく息をついた。

「だったら、俺はXYかな。フランスをモチーフにしたカロス地方は旅してるだけで街の雰囲気を見て回るのが楽しくてさ。これまでのポケモンと違う街並みを、いままでずっと好きだったヒトカゲやエーフィと旅できて、リザードンがメガシンカするんだもん」

「ほうほう」

「なるほどな」

「ヨーロッパの雰囲気も素敵よね~。冒険中のメガシンカも興奮するしね」

 と、そう言ってくれる逸美ちゃんだけど、確か逸美ちゃんは未進化形が好きで終盤までメガシンカすらさせてなかったような……。まあそんなことはどっちでもいいか。

 みんなの話を聞き終えて、ノノちゃんは小首をかしげた。

「昔のシリーズやろうと思ったけど、どれもおもしろそうだし迷っちゃいます。結局、どれがいいんでしょう?」

 その質問に、みんながガヤガヤと答える。

 得意そうにアピールポイントをしゃべっている凪と作哉くん、そのシリーズの思い出を開くんがあのとき……などと延々としゃべる逸美ちゃん、まだひとりでパパがどうとかゴニョニョ言っている鈴ちゃん、その四人を無視して、俺はノノちゃんに聞き返した。

「ノノちゃんは、どのシリーズがやりたくなった?」

「えっと、ノノはどれも楽しそうだと思いましたが、誰も教えてくれなかった初代が気になりました」

「な、なるほど」

「はい。なので初代からやってみますね」

 このひと言で、みんなが正気に戻って言葉が止まった。静かになって、ノノちゃんが作哉くんに言った。

「作哉くん、初代のバーチャルコンソールをインストールしてもいいですか?」

「お、おう」

 ノノちゃんが初代を始めようとしたとき、またこちらを見て質問した。

「あの、赤緑青ピカチュウってありますけど、どれがいいんでしょう?」

 すると、凪がピッと人差し指を立てて、

「そりゃあもちろん、ピカチュウバージョンに決まってるさ」

「待て待て」

 と作哉くんが手を伸ばし、また四人がガヤガヤと説明を始めてしまった。

 やれやれ。

 俺は苦笑いでひとりその様子を眺めていると、ノノちゃんは四人の意見は諦めて、どれか選択したようだった。

「開さん、それでは始めますね」

「うん、頑張って」

 ノノちゃんは笑顔でうなずく。

「はい」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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