幕間短編 Bボタン
公園に来ていた。
俺と凪と逸美ちゃん、あとは作哉くんとノノちゃんの五人だ。
探偵事務所から近い公園なんだけど、わざわざ来たのには理由がある。
「ノノ、オレに見せたいものってなんだ? なんで公園なんかに来たんだ?」
作哉くんに聞かれて、ノノちゃんはドヤ顔で答える。
「それは、この公園には鉄棒があるからです」
ノノちゃんはたたたっと鉄棒の前まで走って行く。
俺たち四人もそれを追って移動した。
まだよくわからないという顔をしている作哉くんに、俺はこそっと言った。
「まあ、期待しててよ」
「成長したノノちゃんが見られるから」
と、逸美ちゃんも微笑む。
いよいよ、ノノちゃんは鉄棒の前に立ち、作哉くんに言った。
「作哉くん、いきますよー!」
ノノちゃんは鉄棒に手をかけ、勢いをつけて、
「それっ!」
逆上がりをした。
しかも一発で成功だ。
鉄棒から降りて、「ふう」と額の汗を拭く仕草をするノノちゃん。無事成功して、満足感と共に安堵しているようだ。
「マジか……! ノノ、スゲーぞ」
ノノちゃんはブイサインを作る。
「はい! 練習がんばりましたので!」
逸美ちゃんがノノちゃんの元に駆け寄り、頭をなでる。
「えらいわ~。本番でも成功ね」
「頑張ってよかったね」と俺も笑顔を向けた。
「えへへ。はい」
作哉くんはすっかり感激してジーンとしていたが。
「鬼の目にも涙か」
と、凪が作哉くんの顔を覗き込んで言った。
「誰が鬼だ! 涙も出てねェよ」
凪はノノちゃんを見やり、しみじみとつぶやく。
「でも、こういう子供の成長は嬉しさもあるけど、寂しさもあるよね」
「アン? なんでだよ。テキトーなこと言ってんじゃねェぞ。いいことしかねェだろ」
「いやいや。どんどん自分が知らないところで色々なことを覚え、できるようになってゆく」
「ちょ……! なに言ってやがる……」
「やがては自分の知っている姿とは違う姿になってしまう。そうこう言ってる間にも、……おや!? ノノちゃんのようすが……!」
作哉くんは慌てて周囲を見回して声を上げた。
「キャンセルッ! 進化キャンセルだ! Bボタン! Bボタンはどこだ!」
俺は振り返って言った。
「そんなのねーよ」
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