ポケモンバトル その7 良人VS開

 俺と良人さんのポケモンバトルが始まった。

 まず、俺が場に出したのはガブリアス。宣言通りだ。

 そして良人さんもフライゴンを場に出した。

「ちゃんとフライゴンで来てくれたんですね」

「もちろんさ」

 1ターン目。

 すばやさではガブリアスの方が上。しかし、あるアイテムを持たせると、すばやさを上げることができる。

 そのアイテムを持たせていたりするだろうか。

 すると、先にフライゴンが動いた。

 こだわりスカーフという、技は最初に選んだ技しか出せなくなるけどすばやさが1・5倍になるアイテムを持たせたらしい。

 そこからのとんぼがえり。

 ダメージを与えつつ交換できるから、有利な対面を作れる。

 こだわりスカーフと相性のよい技だ。

「やっぱりとんぼがえりですか」

「まあ、これくらいは普通だね」

 もう勝ったかのようなしたり顔の良人さん。

 フライゴンは、ガブリアスの特性さめはだで、攻撃をしたときに少しのダメージを受けた。

 代わって場に出たのは、クチートだった。

 おそらく、ガブリアスのげきりん読みだろう。げきりんという技はドラゴンタイプの技なので、フェアリータイプのクチートをノーダメージで場に出せる。

 いくつかの想定していたパターンのうちのひとつだ。

「後攻のガブリアスの攻撃です」

 ガブリアスはがんせきふうじという技を出した。これは、相手のすばやさを下げることができる岩タイプの技だ。

「あれ? 凪くん、げきりんじゃないよ」

「その可能性もあるって言ったでしょ?」

「うん、言った。でも、クチートたんはあんまりダメージを受けてないから余裕だね」

「まあ、がんせきふうじは交代先に打って損ない手ではあるけど、クチートには少し効果が薄いよね。それに、いくら読みが得意な開でも、さすがにクチート読みでもじしんは打てなかったようだね」

 凪に俺の考えていることをそのまま言われてしまう。

「まあね。フライゴンは特性ふゆうでじめん技は無効だし、いくら交代読みしてもフライゴンで攻撃してこられたら相手にアド取らせるし」

 アドはアドバンテージの略。相手が大きく有利になる。

「凪はどこまで良人さんに作戦を与えた?」

「ぼくはたいしたこと言ってないよ。スカーフ持たせて交代すれば? って言ったのさ。ガブリアスの技構成を教えつつね」

「なるほど。じゃあ良人さんが自分で考えてクチートを出したのか」

「そう。なかなか成長したよね」

「うん」

 俺と凪でそんな話をしていると、良人さんはなぜか涙を浮かべて腕で拭っている。

「ありがとう! ボクが成長できたのは二人のおかげだよ」

「まあ、俺のガブリアスのじしんで次のターンクチートは落ちるんですけどね」

「ふむ。もし仮にフライゴンが初手りゅうせいぐんでも、がんせきふうじですばやさが逆転してガブリアスにやられるし、2ターン目はクチートの攻撃は相性よくてもすばやさの関係で後攻になり、先攻のガブリアスの攻撃で落ちる。バシャーモはガブリアスの攻撃を耐えられないだろうし、すばやさ操作されると厳しい。ミロカロスも後出しは安定しない。エレキブルはでんきタイプだから相性が悪い。ベストはリーフィアだったかもね」

「そんな~。凪くん、教えてよ」

「ダメだよ。そんなこと教えたらフェアじゃない」

「とほほ」

 2ターン目。

 先攻ガブリアスの攻撃。

「じしんで一撃かな」

 ふう。まずは一体。

「頑張れー! 耐えろー! うおぉぉー!」

 良人さんが叫ぶのを横目に俺は画面を見ていた。

 が、予想外のことに俺は言葉が出なかった。

「よーしよし! 耐えた! 耐えたぞー!」

「うそ……」

 残りHPは1だった。

「1だけ残して耐えるなんて、ボクのためになんていい子なんだクチートたん」

「クチートってこんなに耐久あったの……?」

 凪がパソコンをいじっていたと思ったら、俺にパソコンの画面を見せてきた。

「ほら。こうなるみたい。計算したところ、クチートのガブリアスへのダメージ幅はこうなるから、半分近い確率で良人さんのクチートは耐えるんだね。良人さん、気合いの勝利だよ。ポケモンはやっぱり気合いが大事なんだ」

「そうだよね! ありがとう凪くん! ありがとうクチートたん! ありがとうクチートたんをくれた鈴ちゃん!」

 鈴ちゃんはにこやかに笑って、

「あたしのクチートが役立ったようでよかったです」

 俺は肩を落とした。

「相性的にいけると思ったんだけどな」

「次があるわよ」

 と逸美ちゃんが元気づけてくれるが、俺は苦笑いだ。

「いや、ガブのさめはだでクチートもダメージを受けるから相打ちだけどね」

 後攻のクチートはガブリアスに相性のいいフェアリータイプの技でガブリアスを一撃で倒した。

「よっしゃあぁ! ガブリアス撃破! あはははは」

 しかし、同時にガブリアスの特性さめはだでクチートもダメージを受け、残り1しかなかったHPも削れてひんしになってしまった。

「ぬわぁぁ! クチートたんも!?」

「あはは。残念でした、良人さん」

 俺がニッと笑うと、良人さんは「うぐー」と悔しそうな顔をした。

 これで、互い残り二匹。

 俺は手持ちの残り二匹を見て、フライゴンに対して相性のよいほうを選ぶ。

「じゃあ、俺はこいつで」

 場に出したのは、ピクシーだ。

「フェイトくんです」

 フェアリータイプのポケモン。

「可愛い~。ボク、ピッピは前から知ってたから、一度使ってみたかったんだよね」

「ぼくだったらニックネームはギエ……」

 俺は凪が言い終わる前に肉まんを凪の口に突っ込んだ。

「あー。ボクの肉まんが……。とほほ」

「ご、ごめんなさい。つい」

 言わせたくなかったから凪の口をふさいだけど、申し訳ない。ちなみに良人さんの肉まんは猫舌なので冷めるまで待っている、ということで置きっぱなしだったのだ。もうだいぶ冷めちゃってると思うが。

良人さんが場に出したのは、フライゴンだった。

「フライゴンだと相性が悪いよね?」

「そうですね。って、対戦相手に聞かないでくださいよ」

 と、俺は笑った。

 実際、フライゴンからの攻撃は耐えられるし、フライゴンへの攻撃は一撃で倒せる。

 3ターン目。

 予想通り、フライゴンはとんぼがえりをして手持ちに逃げた。

 代わりに場に出たのは、リーフィアだった。

「なるほど。リーフィアで来たんですね」

「当然! ボクの一番の相棒はリーフィアたんだからね! 最終戦はこの子と一緒じゃないと」

 後攻のピクシーの攻撃はフェアリータイプの技ムーンフォース。

 リーフィアへのダメージは半分ちょい入った。

「へえ。ピクシーも強いんだね」

 感心している良人さんに教えてあげる。

「ピクシーは、元々の特攻はあまり高くないんですけど、特性マジックガードのおかげで火力アップアイテムのいのちのたまを持たせてもダメージの反動なく使えるんです」

「ああ、その道具って鈴ちゃんがスターミーに持たせてたよね」

「それです」

「いのちのたまは技選択もできるところがいいですよね」

 と、鈴ちゃんも相槌を打つ。

「ボクも持たせてみようかな~」

 凪がパソコンをいじりながら、ピクシーについての解説をしてくれる。

「ピクシーって、ちいさくなるっていう技を持っててね、それをすると回避率が上がるんだ。そういうことするピクシーは害悪戦法として嫌われるんだけど、いのちのたまを持ったアタッカーもなかなか強いんだよね。マジックガードはやけどやどくも効かないのがいい。特性てんねんも積みアタッカーには強いから育てる場合迷うよ」

「そうだね。でも俺はちいさくなる戦法は好きじゃないから、マジックガードで使ってるよ」

 4ターン目。

 先攻はリーフィア。

 リーフィアはZ技を繰り出してきた。

「ササッ、うーっ、にょき!」

 と、主人公の動きに合わせてポーズを決める。両手を上げたところで、綺麗な演出と共にリーフィアが攻撃を出した。

「いっけー!」

 良人さんの気合が通じたのか、ピクシーは一撃で倒れた。

「これは一撃で倒せるかギリギリのところだったね。気合の勝利だ」

「そうだね、凪くん! 気合!」

 と、良人さんは力こぶを作った。

 もしかしたら、本当に気合って大事なのかもしれない、と思ったところで、良人さんはまだ「気合だ!」とか言ってむせていた。

 なにやってんだか。

 俺は最後の一匹を場に出した。

「最後はこの子です」

 ラストはデンリュウだ。でんきタイプだからフライゴンとリーフィアには相性が悪いけど、使いたかったんだから仕方ない。

「なかなかいい見た目だね」

「でしょ?」

 俺の好きなポケモンの中の一匹なのだ。

「でも……」

 と、腑に落ちない表情の良人さんに、俺は聞いた。

「なんですか?」

「どうしてニックネームがモコなの? どこもモコモコしてないよね?」

「ああ、それですか。実は、デンリュウはメガシンカするとモコモコになるんですよ。俺のデンリュウはメガシンカするので、楽しみにしててください」

「ほほう! 作戦を言うなんて愚かだね、開くん。デンリュウはでんきタイプだし、断然こっちが有利。ボクは負けないよ?」

 デンリュウを甘く見た良人さんの方が愚かだということを、思い知らせてあげよう。

 5ターン目。

 ターンの最初に、デンリュウがメガシンカした。

 恐竜っぽかった見た目に、モコモコの綿をまとう。

「ほんとだ! モコモコになった。モコって感じになったね」

「モコちゃんはメガシンカしても可愛いわね」

 逸美ちゃんもデンリュウのメガシンカを楽しそうに見ている。

 ここで、先攻はリーフィア。

「リーフブレード!」

 しかし、これは大したダメージを与えられない。

「デンリュウは防御面も結構優秀なんですよ。メガシンカでドラゴンタイプも追加されたから、草技は半減です」

「えー! どおりであんまりダメージを与えられないと思ったよ。とほほ」

「今度はデンリュウの攻撃です。りゅうのはどう!」

 デンリュウはドラゴンタイプにもなったから、ドラゴンタイプの技の威力も上がるのだ。

 ピクシーがすでに削ってくれていたこともあり、リーフィアは倒れた。

「リーフィアたんが……。ぐすん。でも、ボクには歴戦の友、フライゴンがいるんだもんね。ボクのフライゴンは強いんだ!」

 良人さんの最後の一匹はフライゴン。

 最初にガブリアスの特性さめはだで少しHPが削れているから、戦況は五分五分といったところだろうか。

 6ターン目。

 先攻はフライゴン。

「フライゴン、りゅうせいぐん!」

 りゅうせいぐんはドラゴンタイプになったデンリュウにはこうかはばつぐんだ。しかし、デンリュウはここでもしっかり耐える。

「そ、そんな……! りゅうせいぐんで倒せないなんて」

「ハンパなばつぐん程度じゃ耐えちゃいますよ! こっちもドラゴン技でいきます。りゅうのはどう!」

 技としての威力はりゅうせいぐんよりも低いが、元々持っている特攻のステータスは断然デンリュウの方が高い。

 これにより、フライゴンは倒れた。

 凪が手を挙げて、

「フライゴン戦闘不能! よってこの勝負、開の勝ち~!」

「やったー! 勝ったよ!」

「開くんすごーい。おめでとう」

 俺の頭に手をやりながらくっついてくる逸美ちゃん。

「ちょっとやめてよ、恥ずかしい」

「デンリュウやピクシーも活躍させてあげられて、いい勝負だったじゃん」

「沙耶さんもデンリュウとピクシー好きだもんね。ガブリアスもか」

「うん。あと、実はガブリアスより進化前のガバイトの方が好きだけど」

「あ、わかる! 俺もガバイト気に入って捕まえて、連れて歩いてたらガブリアスに進化してさ。強くて驚いたよ」

「旅パだとかなり強いよね」

 沙耶さんの言う旅パは、シナリオを進める旅を共にするパーティーのことだ。

「開さんのデンリュウとピクシー、可愛かったです」

「ありがとう、ノノちゃん」

「開さんおめでとうございます。良人さんは残念でしたね」

 鈴ちゃんは良人さんのことも労ってあげていたが、良人さんは七連敗にがっくりしている。

 凪はなにも言わずにじーっと良人さんを観察していた。声くらいかけてやれよ。

 改めて俺も良人さんに向き直って、

「対戦ありがとうございました。いい勝負でしたね」

「開くん。ボク、結局誰にも勝てなかったよ」

「しょうがないですよ。まだポケモン始めたばかりじゃないですか。俺も交換してあげるので、元気出してください」

「え、ほんとに? いいの? ひゃっほう!」

「……」

 本来の目的はポケモン図鑑を埋めることとはいえ、負けてお情けで交換してあげると言われてこれだけすぐに立ち直って喜べる人もそうそういないだろう。

 俺は思わず苦笑しながらも、交換してあげた。

 みんな真剣に戦って良人さんは七連敗しちゃったけど、良人さんは図鑑も埋められて満足そうだし、まあいっか。

「この勢いで図鑑も完成させちゃうぞー。オー!」

 良人さんが楽しそうに叫んだ。



明智開 イラスト

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

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