原宿に服を買いに来た おまけ
日曜日。
みんなで原宿に買い物に行った翌日のこと。
俺は逸美ちゃんに昨日買ってもらった白いジャケットを着てみた。
姿見で確認したが、やっぱり似合ってる。
部屋に出て、お茶の間にいる花音に聞く。
「どう?」
テレビから視線をこちらに向けて、花音はうなずく。
「うん、いつものお兄ちゃんだけど」
「服だよ、服!」
「なんだ服か。いいんじゃない?」
「サンキュー! よし、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
やる気ない声で花音がそう言った。
俺は探偵事務所に到着すると、すぐに逸美ちゃんに聞いた。
「逸美ちゃん、どうかな? 買ってもらったジャケット! カッコイイ?」
「うん! よく似合っててステキ。喜んでもらえてわたしも嬉しいわ」
「ふふ。ありがとね」
「こちらこそ。わたしも着てきたんだ」
と、逸美ちゃんはソファーから立ち上がる。逸美ちゃんも昨日俺が選んであげた服で着てくれていた。
「やっぱり逸美ちゃんも似合ってるよ!」
「そうかしら~。うふ」
互いに褒め合ったあと、俺は気になって聞いた。
「ところで、それはなに?」
それというのは、さっき逸美ちゃんが立ち上がるまで逸美ちゃんの膝の上にあり、いまはテーブルの上に置かれた赤い塊である。
逸美ちゃんは嬉しそうに微笑んで、ばさっと広げた。
「どうかしら~? 開くんのために夜更かしして編んでみたの~」
目の下にクマがないのは、逸美ちゃんが夜更かしもよくするし得意だからだが、それ以上に俺は逸美ちゃんが編んだ物に衝撃が隠せない。
「なんかすごい縮こまっちゃってるけど大丈夫?」
「平気よ~。着てみて」
サイズがちょっと合わない気がするんだけど、着てみるか。
ジャケットだけ脱いで逸美ちゃんお手製のセーターを着た。
だが。
やはり、サイズが合わずピチピチで、鏡で見ると赤い毛糸で縛られているみたいだ。なんだかすごく貧相だよ……。
そのとき、探偵事務所のドアが開いた。
しまった。誰か来た。
誰が来ても嫌だけど、よりによってそれは一番嫌なやつだった。
「やあ。遊びに来たよ」
「こんにちは」
後ろには鈴ちゃんもいる。
鈴ちゃんは俺を見ると驚いた顔をしたが、凪は無表情で数秒俺と目を合わせたあと、にやりと笑った。
「フッ。開、昨日こっそりとそんなの買ったの? 哀れみを誘いたい相手でもいるのかい?」
笑いをこらえているのがまた腹立つ。
「これは逸美ちゃんが編んでくれたの!」
「いやはや。ごめんよ。そうだったとは知らず。くくっ」
「いっ、逸美しゃんの、愛情が、感じられますね。ふふ」
凪だけでなく、鈴ちゃんも笑いをこらえている。
もう! なんなんだよ。
すると、逸美ちゃんが二人に言った。
「開くんに作ってたら乗ってきちゃってね、二人にも昨日色んなお洋服見てて似合いそうものを編んで来たの~。着てみて」
逸美ちゃんの左右の手で持っている凪と鈴ちゃんの物と思われる服は、やはりサイズが合わず縮こまった青と水色の塊だった。
凪と鈴ちゃんがすごく困った顔で汗を浮かべて苦笑いをする。
「す、すごいね、それ……」
「あ、ありがとうございます……」
このあと、俺は二人のセーター姿を見て、笑いをこらえるのに必死だった。
そして、逸美ちゃんはにっこり笑う。
「うん、とっても似合っててみんな可愛いっ」
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