お父さんに貼り薬
お父さんがおもむろに背中を出した。
パジャマの背中をめくって、俺と凪に見せてきたのだ。
「開、凪。どっちでもいいから、ちょっと貼ってくれ」
すっくと立ち上がって、俺はお父さんのためにシップを探す。
凪はそそくさとお茶の間を出て行った。あいつ、探すの面倒だから逃げたのか? いや、寝室とか別の場所を探しに行ったのだろうか。
俺は薬箱を探しながら、
「お父さん、背中が凝ってるの?」
「そうなんだ。ちっとな」
うちのお父さんは立派なことに、仕事の愚痴を一切言わない。お酒を飲んで酔っ払うと扱いが面倒だけど基本的には素晴らしい父なので、俺もお父さんのために一生懸命にシップを探してやる。
しかし。
「見つからないなぁ。花音、知らない?」
「え? なにが?」
ちょうどお風呂から上がってお茶の間に来たばかりの花音は、小首をかしげた。
そのとき、一度お茶の間を出た凪がいそいそと戻ってきた。
「あ、凪ちゃん。見つかったの?」
「うん」
「そっか。よかったね」
花音はそのままこたつに座った。
さて。凪が戻ってきたことだし、俺も座らせてもらおう。
お父さんが凪に背中を向けて、
「凪、頼む」
「ほい」
と、凪がペタと貼った。
すでに俺と花音はテレビを観ていたけど、お父さんは背中を服で隠して嬉しそうなうなり声を上げた。
「ふぅ~! 効くね~! ジンジンして、あったかくなってきた」
「ほうほう」
「ありがとな、凪! おかげで気持ちいいぞ」
「そうか。それならよかったよ」
すると。
お母さんが寝室からお茶の間にやってきて、凪に言った。
「ところで凪ちゃん。さっきホッカイロ持っていったけど、なにに使うの?」
花音は状況がよくわからずすぐにテレビに向き直ったが、俺はジト目になる。あいつ、直に貼ったのか。
まあ、お父さんが効いたと思ってるならいいか。
「ふぅ~! ほんと効くね~! でもこれ、ちっと熱すぎないかい?」
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