スキージャンプ

 自室で勉強していると、ドタドタと凪が走ってきた。

 バン、とドアを開ける。

「ノックしろよ」

「そんなことより大変なんだ、ばあちゃんがジャンプしようとしている!」

 凪のやつ、なに言ってんだ?

 訝しげに凪を見ると、座っている俺の手を引っ張り、連れ出された。

「どういうこと?」

 走りながら凪が説明する。

「だから、ばあちゃんが飛ぼうとしているのさ! いっしょにオリンピックのスキージャンプのニュース見てたら触発されたんだ」

 まさか。そんな馬鹿な。

 そして、凪に連れて来られたのは、玄関だった。

 二人で立ち止まってばあちゃんを見ると――

 ばあちゃんは、まるでスキージャンプする直前の助走時のように、後ろ手を組んで膝を曲げたあの独特の恰好をしていた。

「ほら、見ろ」

 凪にはそう言われたけど、俺は状況を把握して、言い返す。

「あれは、腰が曲がっているだけだ」

 玄関にある水槽――そこで飼っている金魚を見ているだけだった。

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

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