カーリング
テレビでは、冬季オリンピックのカーリングの中継が流れていた。
今日も探偵事務所で放課後を過ごす俺は、和室に上がって、凪、逸美ちゃん、鈴ちゃん、作哉くん、ノノちゃんとこたつに入っていた。
「なんか、カーリングならわたしたちでもできそうじゃない? 練習すれば」
逸美ちゃんがふわふわした笑顔でそう言った。
「カーリングって頭使うし、ちょっとの練習じゃ難しいよ」
「そうかしら~。カーリングはね、氷上のチェスって言われる、頭脳戦なのよ。理詰めの試合展開が魅力なの。だから、頭のいい開くんが指示出せばいける気がするの~」
「そ、そうかな?」
えへへ、と俺が頭をぽりぽりかく。
俺の横では、なぜか凪が「ん~?」と鈴ちゃんをじぃっと刺すような視線で見つめる。
「きゃっ! せっ、先輩! なんですか?」
顔を両手で押さえて、鈴ちゃんがそっぽを向く。
「鈴ちゃんはパパからチェスの手ほどきを受けたと聞いたから試してみたんだ。表情でチェスをしようとね」
「表情じゃなくて、氷の上って書いて氷上だよ」
と、俺は呆れ顔になる。
「これじゃ、どっちが勝ったかわかんないや」
やれやれ、と手を広げる凪。
たぶんだけど、リアクション的に鈴ちゃんが負けたであろうことはわかった。
ノノちゃんが和室から出て、ブラシを取り出した。
応接間の床をブラシでこすり出す。
「あら? ノノちゃん、お掃除?」
「偉いじゃねェか!」
逸美ちゃんと作哉くんが感心した。
「見てたらノノもカーリングがしたくなりました。だからこする練習してるんです。ゴシゴシ、ゴシゴシ」
と、ノノちゃんはドヤ顔で掃除している。
すぐに影響を受けちゃうなんて、小学生って感じでかわいいもんだ。
みんながノノちゃんの姿に和んでいると、凪も和室から出て、ノノちゃんといっしょにブラシで掃除を始めた。
「お? 情報屋、テメーも掃除か」
「うん。ぼくもやりたくなってね」
精神年齢が高い大人な俺はともかく、高校生も世間的には十分子供だからな。凪がマネしたくなっても仕方ない。
「作哉くん、なんだかやりたそうだね」
凪に言われて、作哉くんは「うっ」と言葉を詰まらせる。
「ち、ちげーしよ。オレは興味ねェぜ」
「作哉くんもやりましょう!」
ノノちゃんに誘われて、作哉くんは一秒も悩むことなく立ち上がった。
「ったく、しゃあねェ。ノノに頼まれたんじゃ、やってやるか」
あはは、作哉くんもカーリングごっこやりたかったんだな。
俺が苦笑いを浮かべると、今度は俺がノノちゃんに誘われた。
「開さんもやりましょう! お掃除にもなって、一石二鳥です」
「それじゃ、ちゃんとしたお掃除にならないよ? まあ、仕方ないから、俺がちょっとお掃除もしてあげるよ」
やれやれ、付き合ってやるとするか。
重い腰を上げて俺も和室を出ると、鈴ちゃんが逸美ちゃんに笑いかけた。
「男子っていつまで経っても子供ですよね、逸美さん。て、え? あれ? 逸美さんも?」
逸美ちゃんは俺の横に来て、
「わたしもやる~! 開くん、いっしょにやろ?」
「べ、別に、掃除くらいいっしょにやらなくてもいいって」
どんだけ仲良しだよ、みんなの前で恥ずかしいじゃないか。
結局。
「先輩、あたしにも貸してください。せっかくならお掃除もしちゃいましょう」
鈴ちゃんも加わり、みんなでカーリングごっこみたいになってしまった。
応接間の床もツルツルピカピカになったあと、俺たちは和室に舞い戻った。
こたつでカーリングの中継の続きを見る。
すると、ここに探偵事務所のお向かいさんの良人さんがやってきた。
「やあ。みんな、いまのカーリング見た? ボク、ついやりたくなっちゃったよ。あはは」
楽しそうに和室に上がって、良人さんもこたつに入った。
「ここからの展開も楽しみですね」
と、俺が言うと、良人さんは得意げにニヤリとして、
「ストーン、と相手のストーンをはじいてほしいよね!」
「……」
シーン。
みんなが黙ってしまった。
良人さんは背中を丸める。
「とほほ。今日は一段とすべるなぁ」
凪がポンと良人さんの肩を叩いて、
「さっき床を磨いたので」
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