フィギュア
オリンピックを見にお茶の間に入ると、凪が感嘆の声を上げた。
「ほ~!」
どうしたんだろう。俺はテレビに顔を向ける。
「なにかあった?」
「このフィギュアがさ、すごいんだ」
「へえ」
どんなパフォーマンスを見せてくれるか、楽しみだ。
チラと凪を見ると、カメラまで構えている。
あはは、と笑いながら俺はテレビの前に座った。
「なにもカメラで撮らなくても、録画すればいいじゃん」
男子フィギュアのダイナミックかつ華麗な演技を見ていると、俺の後ろで凪が興奮したように声を漏らす。
「半回転っ! おぉ! さらに一回転しちゃったよ」
ん? 別に、まだ回転なんかしてないぞ。ステップを踏んでるだけだ。
凪はまた嬉々として言った。
「いや~。これは芸術点をあげたいね。足もこんなに上がってる」
「おい、凪。この選手、足なんて上げてないよ」
一笑に付して、俺は振り返り、凪を見た。
すると、凪がなにやらオモチャをいじっているのが見えた。
「こいつ、ロボットなのにこんなに足が上がってるじゃないか。それに見てよ、ここの腕が、こんな向きなのに半回転どころか一回転したんだぜ? すごいだろ」
へへ、と得意顔の凪。
俺はジト目で凪に言った。
「フィギュアって、そっちかよ」
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