母と祖母は噛み合わない

 うちの母はリアクションが大きい。

 俺の所属する少年探偵団のメンバーである鈴ちゃんもリアクションが大きいけれど、結構いい勝負をするんじゃなかろうか。二人共芸人級にオーバーリアクションだからな。

 ただし、一口にリアクションといっても、種類が違う。

 鈴ちゃんが怖がりで驚きやすいのに対して、うちの母はただ大きなリアクションを取るのである。

「お母さん、ウインナー安いよ!」

 スーパーに買い物に行ったときに花音がそう言ったら、お母さんは「なに?」とウインナーの値札を見て、

「ぎょえー」

 と、わざとらしくのけぞってリアクションをした。

「こんなに安いのー!?」

 そんな具合でリアクションを取るのが趣味なのかと思う人なのだけれど、逆に自分が興味のないことだと、次のようになる。

「お母さん、あたし足細くなったかも」

 花音が運動後に脚を見せるが、そのときのお母さんのリアクションは、

「へー」

 の一言だった。

 まあ、総じて悪気があるわけでもなく、関心のあることへのリアクションが大きいタイプだということだ。


 ある日。

 夕飯を食べながらお茶の間でテレビを観ていたとき、俺や花音のよく知らない古い演歌歌手が出てきた。

 歌っているあいだ、俺も花音も興味がないので、別の話をしていた。

「お兄ちゃん、あたし昼間さ、アイス食べたら当たりが出たんだよ!」

「おお! すごいじゃん!」

 俺がそう言うと、凪も続けて、

「花音ちゃん、やるぅ~」

「俺と凪はこれくらいのリアクションだけどさ、お母さんが聞いたら絶対驚くよね」

「あー、絶対驚くね!」

 と、花音は笑った。

「お母さん、リアクション大きいからね~」

 凪が頭の後ろで手を組んで言うと、ばあちゃんがこちらを見て、

「ね~」

 と同意した。

 テレビに集中してると思ったけど、意外と話聞いてたんだな、ばあちゃん。

 だが、そうでもなかったらしい。

「飛び降りちゃったからね」

 ん? 飛び降りる?

 俺と凪と花音の目が点になった。

「どんだけリアクションでかいんだよ」

 一拍遅れてしまったが、笑いながらつっこむと、ばあちゃんも笑った。

「飛び降りて自殺しちゃったから」

 リアクションの域超えすぎだろ。

 どうやらばあちゃんは、いまテレビで歌っている演歌歌手の家族だか知人だかの話をしているらしかった。

 凪は真剣に考えるようにして、

「お母さん、すごいな」

 俺は呆れてつっこむ。

「テレビの話だよ。リアクションで死ぬやついないよ」

 ばあちゃんはテレビを観ながらまだ言っている。

「なんで飛び降りちゃったんだろうね」

 すると、お父さんがチラッとばあちゃんを見て言った。

「その家族が飛び降りたってのは、この人じゃねえぞ、ばあちゃん」

「なにー!? ばあちゃんが飛び降りた!?」

 間髪入れずにお母さんがやってきた。台所でデザートのリンゴを切っていたから包丁を持ったままだ。かなり慌てた様子である。さっきまで顔合わせていた相手がどうやって飛び降りるのかというのに。

 しかしお母さんの声はばあちゃんの耳には届いていなかった。

 お母さんはお茶の間を見回して、

「ばあちゃんが飛び降りたの?」

 ばあちゃんはテレビから視線を離さず言った。

「自殺しました」

 微妙にセリフのタイミングが合うばあちゃんである。

 お母さんはばあちゃんを見て、興味なさそうにつぶやいた。

「へー」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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