足つぼ健康法
足つぼを刺激する、板状のボード。それに乗ると、足裏の痛い場所で身体のどこが不健康かわかる。よく温泉なんかに置いてあるアレだ。
夕食後。
明智家のお茶の間では。
あの足つぼの板に、テレビでタレントが乗っているのを見ていた。
『これに毎日乗るだけで、わたしはずっと健康なんですよ!』
そう言っているのは、とても七十過ぎには見えないおじいさんだ。こういう見た目以上に若い人が言うと説得力があるというものである。
しかし。
「あれってなかなか続かないんだよな」
俺がつぶやくと、凪が人差し指を立てる。
「乗る習慣をつけないと」
「習慣って言っても、気力が続かないよ」
苦笑いで俺が反論したら、お風呂場から「いたーい!」と花音の声がする。
「なんだ?」
と、お父さんがお風呂場のほうへ顔を向ける。むろん、お茶の間の襖はしまっているし位置の関係上見えないのだが。
何事かと思っていると、髪を濡らしたままの花音がバタバタとやってきた。一応、パジャマは着ているようである。
「ちょっとっ!」
なんか怒っているみたいだ。
「凪ちゃんでしょ!」
花音が凪をにらむと、凪は平然と見返して、
「ぼくは凪だが?」
「そんなの知ってる! 凪ちゃん、またイタズラしたでしょ!」
凪は花音に手のひらを向けて、自己防衛するように肩をすくめた。
「やめてよ。ぼくがなにをしたって言うのさ。言いがかりはよしてよね」
「言いがかりじゃないの! 凪ちゃん、体重計に足つぼの痛いやつ置いたでしょ!? あたし痛かったんだからね!」
顎に手をやって、凪はうなずく。
「ほうほう。それは大変だ。内臓が悪い可能性もある。それで、どこが痛かったんだい?」
「え? うーんと、土踏まずのところ……かな」
「それはきっと胃がよくないぞ」
凪がお茶の間を飛び出して、脱衣所に駆けて行った。
俺と花音も凪を追って行くと、凪は体重計の上に乗った足つぼの板を確認していた。
「やっぱり。胃だ。花音ちゃん、食べ過ぎだよ。昨日うちのみんなで焼肉に行ったとき、開と花音ちゃんはカルビラーメンまで食べただろう?」
さらりと凪が明智家のことを自分の家みたいに「うちのみんなで」と言っているが、こいつもなぜだかいっしょに来たのである。
「二人は、お調子に乗って食べ過ぎてしまった。それが原因さ」
「そっか」
花音は納得したらしい。さっきまで怒っていたのに、なんか話をずらされてるぞ。
しかし、凪の言っていた習慣にするってのは、こういうことだったのか。確かに体重計に乗るのが習慣ならついでに足つぼも習慣になるからな。くだらないことをよく考えるもんだ。板の分だけ体重計から重さも引いているし、律儀なやつである。
凪は俺と花音の肩に手を置いた。
「二人共、お調子に乗らず、体重計に乗りなさい。健康にいいよ」
人んちの焼肉にまでついてくるお調子者がよく言うもんだ。
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