防犯ブザーを持とう 鈴編

 鈴ちゃん以外の少年探偵団のメンバーが防犯ブザーを持った結果、誰もうまく利用できているようには思えなかった。

 なにかしらトラブルが付いて回っていた。

 現在探偵事務所にいるのは、俺と凪と逸美ちゃんと鈴ちゃんとノノちゃんの五人だ。

「みなさん、防犯ブザーなんて普通に使えばいいんです」

 得意そうな鈴ちゃんに、凪が気だるげに聞く。

「普通って?」

「普通は普通です。怪しい人がいたら鳴らす。それだけです」

「やれやれ。子供騙しだな」

 呆れた素振りの凪に、鈴ちゃんがビシッと宣言する。

「そこまで言うならわかりました、あたしが手本をお見せしましょう!」

 手本って言われてもなぁ。

 俺と逸美ちゃんとノノちゃんは困り顔だが、鈴ちゃんはドヤ顔でやる気満々。そして凪は飄々として言った。

「なるほど。じゃあ見せてもらおうか」

 ということで、俺たち五人は外に出た。

 探偵事務所の前の通りで、鈴ちゃんはキョロキョロと周囲を見回す。

「やっぱり、防犯ブザーを使うような怪しい人なんてそうそういないですね」

「まあ、それはね。怪しい人がそんなにいたら大問題だよ」

 俺がそう言っているあいだにも、凪はもう飽きたのか、探偵事務所の向かいの良人さんの家のチャイムを鳴らしている。

「凪、おまえなにやってんだ」

「ん? ぼくは、怪しい人役をやってくれる人を探そうと思ったのさ」

「ああ、そうか。良人さんにやってもらおうってことか」

 ノノちゃんが良人さんの家のドアを見てつぶやく。

「良人さん、いないんでしょうか?」

「そうね~。この時間は大学かもしれないわね~」

 同じく大学生の逸美ちゃんは、もう今日の授業は終わったらしい。

 俺は、横を見る。

 この探偵事務所まで続くだらだら坂を登ってくる人影があった。

 あれは、作哉くんか。

 急いでいるのか、走っている。

 おーい、と俺が手を振ろうとしたとき、鈴ちゃんも作哉くんがいる方を見た。

 そして、作哉くんの存在に気づき、悲鳴を上げた。

「キャー!」

 手に持っていた防犯ブザーを放り投げ、作哉くんがいる方とは反対方向へと走って逃げ去ってしまった。

 やっと作哉くんが俺たちの元に来ると、ちょうど鈴ちゃんが放り投げた防犯ブザーが空から落ちてきて、作哉くんがキャッチした。

「ワリー、急ぎでちっと聞きてェことがあってよ。アン? なんだ? これ」

 不思議そうに防犯ブザーを指でつまむ作哉くん。

「それは防犯ブザーです」

 と、ノノちゃんが教えるが、作哉くんは目を点にして、

「そりゃあ、見りゃわかるけどよ……」

 凪は走り去ってゆく鈴ちゃんの背中を遠い目で見て、

「結局――防犯ブザー、役に立たなかったね」

 俺も遠い目でうなずく。

「うん。使ってすらなかったからね」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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