運転免許を取りに行こう その2

 前回、逸美ちゃんが運転免許を取りに行くということで俺は付き添いとして教習所までいっしょにやってきた。

 そこには良人さんもいて、凪がふらりと登場し、四人で待合室にいた。

「そろそろかしら?」

 逸美ちゃんに聞かれて、俺は掛け時計を見る。

「うん。十時からって言ってたよね」

「開くん、空いた時間ヒマだったら外出ててもいいわよ。凪くんもいるんだし」

「いや、いいよ」

 しかし、俺がそう言っても、凪が俺の肩に腕を回して、

「お構いなく~。でもそこまで言われちゃ、出ないわけにはいかないか。ちょっとそこまで散歩してくるよ。逸美さん、相棒を借りていくね」

「どうぞ。凪くん、開くんのことお願いね」

「お任せを」

「ふふっ。よろしくね」

 凪みたいなやつになにお願いしてるんだよ。こっちが面倒見てやるだけになるってのに。

 まあ、凪が良人さんの邪魔をするついでに逸美ちゃんの邪魔までする可能性だってあるし、危害が及ばないように凪は外に連れ出すか。

「確かお昼前に終わるんだよね」

「そうよ。だから、お昼ごはんはいっしょに食べましょ」

「うん。逸美ちゃん、頑張ってね!」

「ありがとう。開くんの言葉で元気百倍よ」

「良人さんも頑張ってください」

「ありがとう。ボクも元気が出たよ。頑張るぞー」

 最後に凪が二人に向かって、

「寝るなよ」

「寝ないよっ」

 と、良人さんに返される。

 そして、俺と凪は教習所を出てちょっと外をプラプラすることにした。

 近所にはいくつかお店もある。

 一時間くらいのヒマならつぶせるだろう。

「凪、どこ行く?」

「ぼく? ぼくは別に~」

「別にって、おまえが外に出たいって言ったんだろ?」

「開はどうするの? ぼく、二人に開のおもり頼まれちゃったから、キミの目付け役しないといけないんだ」

「誰もおまえにおもりなんて頼んでねーよ」

 俺が歩くのに凪がついてくる。

 そうしてすぐ、小さなおもちゃ屋さんがあった。

「入ってみよう」

「おい凪」

 呼んでもこっちを見もしない。まったく、仕方ないな……。ついていってやるか。

 俺も凪に続いておもちゃ屋さんに入った。

「ほうほう。どれもいいな~」

「俺たち、もうおもちゃで遊ぶ年でもないだろ?」

「そんなことないよ。いくつになっても、おもちゃにときめいたりできたらステキじゃないか。コレクターって人たちもいるくらいだしね」

「あれは特別な人だよ。ちょっと敷居が高いって」

 そうは言いつつも、おもちゃ屋さんに並ぶおもちゃを見るのも面白い。久しぶりにいろんなおもちゃを見たかも!

 ちょっと楽しくなってきた。

 そのとき、凪が声を上げた。

「あっ」

「どうしたの?」

 指差す先を見ると、そこにはミニカーがあった。種類もたくさんある。

「へえ。いろんなのがあって綺麗」

「車に綺麗って、変な感想」

「ほっとけ」

 二人でじっくりとミニカーを見る。

「よくできてるね」

「そうさ。いまのミニカーはすごいんだ。昔から完成度の高い物は多かったけど、いまではさらに種類の豊富さなんかもポイントだね」

 と、凪が滔々と説明した。

「ふーん。あ、そうだ」

「なんだい?」

 凪に聞かれて、俺は笑顔になって答える。

「せっかく逸美ちゃんが教習所に通うことになって頑張ってるし、お土産に一つ買っていってあげようかなって思って」

「開、それいいよ。面白い。ならぼくは良人さんの付き添いで来たし、良人さんの分を買ってやるか」

 凪、おまえ良人さんの付き添いだったのか。ただ冷やかしに来ただけのような気もするけど、プレゼントされたらきっと嬉しいよな。

「わかった。じゃあそれぞれ選んで、お互い見せないようにしよう。で、お昼ごはんのときに、プレゼントするときまでお互いが選んだ物がわからないようにする。どう?」

「ふむ。乗った。車だけに。じゃあ選んでしまおう」

「うん」

 それから俺と凪はミニカー選びに熱中した。

 しばらくして、俺がミニカーのコーナーを離れている隙に凪が良人さんへの分を買ってきて、今度は俺が逸美ちゃんの分を買った。

 よし、これでわからないぞ。

 時間もいい頃合いになったので教習所に戻ってみると、五分もしたら逸美ちゃんと良人さんも学科の講習を終えたようだった。

 逸美ちゃんが笑顔なのに比べ、良人さんは眠そうだ。

「ふあぁ~あ」

 大きなあくびまでしている。

「良人さん、寝てたの?」

「違うよ。でも凪くんの言う通り、寝ないように気を付けないとね。教えてくれるおじいちゃんの先生、なんか言葉が眠くなっちゃうんだよね」

「だから言ったのに~」

 と、凪に言われて、良人さんは照れ笑いした。

「あはは。本当にね。次からはもっと気を付けます」

「頑張れよ」

「はい」

 良人さんが敬礼した。

 なんか凪への構い方とか、ホント人がいいよな。じゃなくて、いい人だよな。

 さて、俺たちはお昼ごはんを食べに行くことにした。

 近くにはファミレスもあり、そこで食べることになった。元々は逸美ちゃんが俺と自分の分のお弁当を作るつもりだったらしいんだけど、教習所内にいっしょに食べる場所があるかわからないからということで、外で食べることにしていたのだ。

 そこに凪たちも加わって、俺たちはファミレスで食事を始めた。

 それぞれ俺がハンバーグで逸美ちゃんがパスタ、凪がステーキ、良人さんがピザだ。

 注文したモノを待っている間、俺は逸美ちゃんと良人さんに言った。

「あのね、さっき凪と二人で外歩いてるとき、おもちゃ屋さんを見つけてさ。そこにミニカーがあったから、教習所に入った二人にミニカーをプレゼントしようってことになったんだ」

 ね、と凪を見ると、凪は大きくうなずく。

「開がどうしてもって言うから」

「開くん……! なんていい子なの。お姉ちゃん嬉しい」

「本当にいい子だね、二人共。ボクなんかのために」

 涙を浮かべる逸美ちゃんと良人さん。

「うんうん、良人さんなんかのためにほんといいヤツだよ、ぼくの親友は」

「自分で言うのはいいけど、他人になんかと言われると腹が立つな」

 涙を拭う素振りをやめて良人さんは顔を上げる。

「でも良人さんの分はぼくが選んだんだぜ。で、逸美さんのは開」

「凪くん、キミってヤツは! サイコーだよ」

 一変して笑顔を咲かせる良人さんである。

 うん、期待している二人に、そろそろ渡してあげよう。

「はい。逸美ちゃん、開けてみて」

 手渡し、逸美ちゃんが包装を取って中からミニカーを出す。

「わぁ! 可愛い! 黄色の車なのね。うふふ」

 よし。喜んでもらえたみたいだ。大成功! よかった。

 今度は凪が良人さんに渡した。

「はい、これ」

「ありがとう。なにかな~。なにが入ってるのかな~」

 ルンルン気分で包装を開けると、そこに入っていたのはパトカーだった。

「へえ。パトカーか。これもカッコイイね!」

「せっかくだから、入所した良人さんに自覚を持ってもらおうと思って選びました」

「選びましたじゃないよ! そんな理由だったの!? 自覚って言うけど、ボクが入所したのは教習所。朝も言ったでしょ」

「いや~。パッと目に入ったもので」

「なんで照れるの。そりゃあ、パトカーだもん、目に入りやすいだろうけどさ」

 しかし、それでも良人さんはもらったパトカーを見て、嬉しそうに微笑む。

「でもありがとう。大事にするよ。事故を起こさないよう、お守りにする」

「うん、失くすなよ」

「失くさないよ。はははっ」

 そして午後。

 教習所に戻り、最初は良人さんの実習から始まった。

 運転するのを玄関口から見ることができるのだが――

 俺たちの近くを通るとき、良人さんが俺に向かってウインクした。

「結構上手に乗ってるよね」

「そうね~」

 と、逸美ちゃんが微笑む。

「良人さんったらウインクなんかしちゃって余裕だね~」

 凪におだてられて、良人さんが調子に乗ってアッハッハと笑う。

「まあね~! うまいもんだろ?」

 て、あれ?

 凪の声、いま車の中からしていたような……。

 と思ったら、良人さんの運転する車から叫び声が聞こえる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 凪くんなんでいるの!」

 凪のやつ、勝手に乗り込みやがって。

 車の中では、後部座席に座った凪がのんきに頭の後ろで手を組んで、

「お構いなく~」

「お構いするよ! あっ! わっ!」

 俺は頭を押さえる。

「あちゃー」

 良人さん、さっそく壁にちょいちょいこすってしまっていた。

 運転中に気を取られて後ろなんか見るから。

 凪は開いていた窓から顔を出し、車体のこすったところを見つめてやれやれと手を広げる。

「これはきっと、今後ともパトカーのお世話になりそうですな」

「キミのせいでしょ!」

 と、良人さんがつっこむ。

「よそ見運転はダメ、絶対! それに、お友達を連れ込んでもいけません」

 教官さんに怒られて、「はい、すみません」と背中を丸くして謝る良人さん。

 俺は小さくため息をついた。

「ダメだこりゃ」


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