ポテト
夕飯の準備中。
台所で、お母さんがポテトを揚げていた。
うちのお母さんはポテトを揚げるのが上手で、友達がうちに遊びに来たときなど、昔はよく揚げてくれたものだ。
匂いにつられて俺が台所に行くと。
「開ちゃん、ポテト食べる?」
「うん」
試食をさせてもらった。
はむ、と一口。
「うまい」
熱いけど揚げたてはおいしい。
他にはハンバーグもある。今日はハンバーグとポテトなんて最高だな!
意気軒高に俺がお茶の間に戻ろうとすると、今度は花音がお茶の間から出てきた。
「お兄ちゃん、つまみ食いしたでしょ」
「つまみ食いじゃなくて試食だよ。花音も試食すれば?」
「そのつもり!」
花音は大のポテト好きだ。ファーストフード店のポテトも好きだし、家で揚げたポテトも大好きなのだ。
トコトコと台所に行って、花音がポテトに手を伸ばした。
「食べるねー」
「どう? 花音ちゃん」
「まだ食べてないって」
あはは、と笑いながら花音がつっこんで、それからホクホクさせながら食べる。
「う~ん! おいしい!」
まるでほっぺたが落ちそうだとでも言わんばかりの顔だ。
「ほっぺた落ちた」
「仕舞いには落ちたか」
俺はお茶の間に入ろうとしたが、花音がまたポテトに手を伸ばしたのを見て、
「おい、花音。また食べたの?」
花音はポテトを口に入れたまま、
「だっへ、おいひくへ」
そう言いながら、さらにもうひとつポテトを口に入れる。
「夕飯のときに食べる分なくなるぞ」
「こんなにあるし大丈夫だって。もう終わりにするしさ。えへへ」
やれやれ。しょうがないやつだ。
「ほんと、ちょっとは自粛しろ」
「え? わかった!」
まったく、返事だけはいいんだから。
と、思ったのもつかの間、花音はまたポテトを手に取って口に入れる。
「オイィー! さっきもう終わりにするって言っただろ! 自粛しろって言って返事しただろ」
しかし、俺のつっこみを受けても花音は、なに言ってんだろう? とでも言いたげに首を大きくかたむける。そしてひょいっとポテトを口に入れた。
「おまえなー」
「え? だってお兄ちゃん、実食しろって」
「言ってねーよっ! 自粛しろって言ったの!」
「じしゅくってなに? 自習の仲間? あたし勉強苦手なんだけど」
やっぱりこいつはおバカだ。勉強苦手なのも知ってる。
仕方ないから俺は説明してやる。
「控えるってこと」
「ああ、なるほど。お兄ちゃん難しい言葉使うから」
「難しかねーよ」
はぁ、と俺が肩を落とすと、お茶の間から出てきた凪が俺の肩をポンと叩いた。
「まあまあ、そんなに落ち込むなよ。ポテトでも食べようぜ」
「食べるなって話してたんだよ」
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