ナナメから見る
「日本では、食の欧米化がますます進んでいます」
テレビでは、そんなニュースがやっていた。
「言えてる」
と、凪がうなずく。
「また適当な相槌を」
ジト目を向ける俺を見もせず、凪はこたつの上にあるおせんべいに目を落として、言葉を継いだ。
「ぼくのおやつも米菓だもんな」
明智家のお茶の間で、凪がこたつの上のおせんべいを見て、そっと手を伸ばした。ふくろを開けてポリポリ食べる。
俺はさっきの凪の言葉を聞いて苦笑した。
「凪はいつも、物をナナメから見るな」
「だからおもしろいことが言えるのね」
と、逸美ちゃんがのほほんと笑いながら言った。現在、凪と逸美ちゃんがうちに遊びに来ているのだ。
花音が腕を組んで納得を示し、深くうなずく。
「凪ちゃんって他の人が思いつかないこと言うもんね! ナナメから物を見るといいのか。あたしもやってみよう」
「そんな一朝一夕にできることじゃないって」
笑い飛ばす俺だったが、
「いや、もうできてるよ」
と、物理的におせんべいをナナメから見る花音。
「それでなにか思いついたか?」
「ううん、全然!」
だろうな。
花音は助けを求めるように凪を見る。
「ねえ、凪ちゃん。見方にコツとかあるの?」
「きっと感性の問題だと思うわよ」
逸美ちゃんの言う通り、凪は感性がずれているだけだと思う。
お茶をすする凪に、逸美ちゃんがお願いした。
「凪くん、またおもしろいこと言ってくれない?」
「急に頼まれても困るって。ぼくはマジメな品評とかしかできないぜ?」
「それでもいいから~」
逸美ちゃん、それじゃ目的見失ってるぞ。
しかし花音は目を輝かせて、
「なんでもいいから聞かせて。お願い! 凪ちゃん!」
凪は肩をすくめて立ち上がる。
「やれやれ。ぼくの政治的見解が聞きたいなんて、キミたちも見所があるね」
「やったー」
期待をあらわにする花音。
そして、凪はテレビの正面にどかりと腰を下ろした。
テレビには、日本国内のとあるデモ活動の映像が流れている。
プラカードを持った人たちが行進しており、その中のひとりの青年が、『反対』と書いたプラカードを逆さまに持っていた。
凪はそれを見て、真剣な顔で言った。
「反対の反対は賛成なのだ」
それのどこが政治的見解だよ。
すると、花音が目と口を丸くした。
「お~! さすが凪ちゃん、正面から見てもおもしろいこと言ってる」
やれやれ。花音には物をナナメから見ることはできなさそうだな。まあ、こんなひねくれたやつは凪ひとりで充分だけど。
そして、『反対』のプラカードを逆さまに持っていた青年が持ち間違いに気づき、慌てて持ち直した。
凪はうむとうなずく。
「これでいいのだ」
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