人差し指

 凪と花音と街中を歩いていると、

「開ちゃん。ほら、見てよ。あの人ちょっとヤバイ系かもしれないよ?」

 と、親指で指し示した。

 振り返って俺も見たが、本当にガラが悪い。

 ロックをこじらせて失敗したヤンキーみたいになっている。

 その通行人のお兄さんには聞こえないように、俺は小声で花音を注意した。

「おい、そうやって指差しするなよ」

 花音はぺろっと舌を出して、自分の頭をこつんと叩いた。

「そうだったね。間違えちゃった」

「間違えたってなぁ……。次から気をつけろよ」

「うん。わかったよ」

 今度は凪が、さっきのガラの悪いお兄さんを指差す。

「あの人、作哉くんの友達かな? ヤクザみたいだ」

「こらっ! さっき花音に注意したばかりだろ?」

 しかし凪は悪びれもせずに言った。

「親指じゃなくて、ちゃんと人差し指にしたでしょ。人を指すのは」

 揚げ足取りみたいなこと言いやがって。

 俺はジト目で凪を見て、改めて注意した。

「そもそも、人を指差しちゃいけないって話だよ」

 だが、凪はまだ納得を示さず、ビルにある大型モニターを指差した。

「あれは?」

 そこには、最近人気急上昇中の若手イケメン俳優のCMが映っていた。

『キミに、届け!』

 と、商品を片手に、画面の向こう側に指差した。

 すると、道にいた女性たちの黄色い声が聞こえた。

「キャー」

「ステキー」

 花音がモニターから目を離さず、

「なるほどー。確かに、これは指差されたい人のほうが多いかも」

 俺は凪にぽつりと言う。

「何事にも例外はあるんだよ」

「じゃあ、あれは?」

 また揚げ足取りか?

 凪がまたモニターを指差すので、俺も見上げると、そこにはドラマのワンシーンが映っていた。

『犯人は、おまえだ!』

 そう言って、探偵役の俳優さんが犯人を、ビシッと指差した。

 凪が俺を横目に見て、

「キミだっていつもしてるじゃないか」

 花音は苦い顔でぼやく。

「あれはされたくないねぇ」

 そして、俺はため息交じりにつぶやいた。

「ああ、気をつけるよ」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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