日本の紙製品

 海外では、日本の紙製品が高い評価をされているって、みんなは知ってるだろうか。

 この日、探偵事務所にやってきたフランス人のお兄さんも、そんな話をしていた。

「いや~! ニッポンの紙製品は素晴らしいデス!」

「へえ。そうなんですね」

 俺は初耳だった。

 しかし逸美ちゃんは知っていたらしく、うんうんとうなずいた。

「デザインもかわいくてオシャレで、なめらかさや質感が評価されているのよ」

「折り紙、便箋、ポストカード! どれも素晴らしいデスね!」

 そういえば、日本の折り紙が海外で人気だという話も聞いたことあった。なんでも、脳の発達にもよく、欧米人に折り紙を作ると喜ばれるのだとか。まあこれも、物知りな逸美ちゃんから聞いたんだけどね。

「ワタシ、銀座で折り紙とポストカード買いました」

「銀座ですか」

「ウィ! 銀座は、ニッポンの紙製品を買う場所として、タイヘン素晴らしいデス!」

 紹介が遅れたが、このフランス人のお兄さん、名前はフィルマンさん。

 フィルマンさんは、親日家っぽい雰囲気を持った、明るく陽気な人だ。日本語もかなり流暢で、普通の会話をする上で、なんの不自由もないくらいだ。いまも輝くような笑顔で、日本の紙製品について語っている。

「折り紙は、海外でもタイヘン人気がありマス。シュリケンは男の子たちに大人気! ツルは女の子たちに大人気! イヌ、ネコ、サル、キジ、ゾウ、ブタ、ドラゴンなど、なんでも折れる日本人は、ワタシ、尊敬デス」

「いや、日本人みんながそんなにいろいろ折れるわけではないですよ」

「え? 折れないデスか?」

 急激に悲しそうな顔になるフィルマンさんのために、俺は慌てて、

「ちょっとくらいなら折れます!」

「オー! では、なにか教えてくださいデス」

 こう見えても俺は手先が器用だし、なにか折ってあげることにした。

折り紙はフィルマンさんがくれた上等な物なので、間違えないように慎重に折る。

 俺が折っているあいだも、逸美ちゃんが「頑張って!」と横で応援し、フィルマンさんもいちいち「オー!」とか「フォウ!」とか歓声を上げるから非常に折りにくかった。

 普段だと一番やかましい凪が、探偵事務所の隠し部屋になっている和室にいるから、その点だけが救いだ。ちなみに、他の少年探偵団メンバーもみんな和室にいる。前にも言ったけど、依頼人が来たときの相手は基本的には俺と逸美ちゃんがするからだ。

 そして、やっと完成した。

「どうぞ」

「ツルですね! 素晴らしいデス! マーベラス!」

 マーベラスって、英語じゃないか。フランス人ならフランス語で驚けばいいのに。

 それでも、感心し喜んでいるフィルマンさんを見ると、折ってあげてよかったな、と思える。

 逸美ちゃんはほんわかとした顔で、

「開くんは器用なんです」

「素晴らしいデス!」

 大仰に同意するフィルマンさん。

 だが、フィルマンさんは腕時計を確認して、立ち上がった。

「すみません。ワタシ、用事があって、そろそろ出かける必要がありマス」

「そうですか。今日はありがとうございました」

 と、俺はぺこりと頭を下げた。

「いえ。残念ですが、またお話させてくださいデス」

「せっかくなら、うちにある紙製品、なにかあげられたらよかったんだけど~。なにもなくて、ごめんなさいね」

 逸美ちゃんがそう言うが、フィルマンさんはブンブンと頭を横に振った。

「おしゃべりと、このツルだけで、ワタシ、感激デス。ありがとうございました」

 フィルマンさんが探偵事務所を出て行こうとすると、和室から凪が出てきた。

「おーい。ちょっと待っておくれ」

 ここからだとよく見えないが、凪がドアを出たところで、フィルマンさんを引き留めていたようだった。

 それからすぐに、凪が戻ってきた。

「なにしてたの? 凪」

 俺が問いかけると、

「別に。たいしたことはしてないよ。お土産を渡しただけだ」

「はい?」「お土産?」

 と、俺と逸美ちゃんがそろって首をかたむけた。

 凪が窓際に行って、窓の外を見ているので、俺もつられて見てみた。

 すると、探偵事務所の前の通りを歩くフィルマンさんがいた。

「日本の紙製品は素晴らしいよね。彼、気に入るといいな」

 なんかフィルマンさん、さっきまで持ってなかった紙袋を持っている。しかも、アニメキャラが描かれた紙袋だった。これじゃ、オタクの外国人にしか見えない。凪にあんなもん持たされるなんて、可哀想に。

 すると、探偵事務所のお隣さんで俺と同い年の女子高生、浅見さんが通りかかった。

 陽気なフィルマンさんは浅見さんに紙袋を見せつけ、

「ニッポンの紙、サイコーです」

 と、うれしそうにして、浅見さんを困らせていた。

「な、なんですか? えっと、えっと……」

「優しい探偵さんたち、素晴らしい紙! ニッポン、マーベラス!」

 そう言って通り過ぎるフィルマンさん。

「え? 探偵さん? 開くんのお友達かな……? 変わったお友達多いからなぁ、開くん……」

 呆然と立ち尽くす浅見さんに、俺はあとで説明しようと思った。

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