山登りに行こう その3

 土曜日。

 山登り当日。

 天気もよく、絶好のアウトドア日和だ。

 昨日、まだどの山を登るか決めてなかったな……と思い出したが、すぐに沙耶さんから近場で初心者にも登れる山があるからそこにしようと連絡が来た。

 ということで、かしこまったレインウェアなんかなくても大丈夫な私服で気軽に登れる山に挑戦だ。

 現在、その山の最寄り駅にいる。

「少年探偵団で山登り、楽しみです」

 興奮したようなノノちゃん。

 沙耶さんが俺に聞く。

「でも、私は少年探偵団じゃないのにいっしょに来てよかったの?」

「もちろん。準メンバーみたいなもんだしね」

 と、花音が答えた。

「いや、おまえも少年探偵団じゃないだろ」

「みたいなもんでしょ」

 と、花音が笑った。

 まあ、実際少年探偵団といっしょに事件に挑むことこそ多くないけど、花音がフランクなせいか自然といっしょにいること多いしな。

 俺も苦笑して沙耶さんに言う。

「なにより、凪の相手をしてくれるやつがひとりでも増えてくれると助かるよ」

「あ、なるほど」

 苦い顔を返して沙耶さんが納得した。

 そのとき、凪の声が聞こえてきた。

「みんな~。ごめーん。遅れた~」

 俺は振り返って、凪に文句を言う。

「おい凪! 遅刻だぞ! 言い出しっぺくせのにまったく……」

 そして、俺は続きの言葉が出ず固まった。

 なぜなら、凪の恰好がまるで海水浴にでも行くような上下繋がった青と白の縞々の競泳水着で、腰には浮輪まで装備していたからである。

 凪はちょっと不思議そうな目で俺たちを見て、

「あれ? みんな、その恰好どうしたの?」

 みんながズコーっとこける。

 俺はビシッと凪を指差しつっこむ。

「それはこっちのセリフだ! おまえこそどうしたんだよ!?」

「近くの浜に行くと聞いたもんで。居ても立っても居られず家から着て来ちゃったのだ」

 と、凪は照れたように答える。

「浜じゃなくて山だ。昨日の今日でどうして間違えられるんだよ」

 家からそんな恰好で来るなんてほんとどうかしてる。

 しかし凪はもう身体の向きを変えて、

「さあ。出発しよう」

「できるか! おまえ着替えて来いよ。恥ずかしいだろ」

「いいって。ぼくは全然気にしてないから」

「俺・私たちが気にするんだ!」

 と、ノノちゃん以外の俺たちみんなでつっこむ。

 凪はやれやれと手を広げる。

「みんなわがままだなぁ。わかったよ、もしものときのために一応ぼくも着替え用意しておいたから着替えてくるよ」

「なんだよ、着替えも持ってんのかよ」

 イライラしながら俺が言うと、凪は手をひらひらさせて俺たちに言う。

「ちょっと着替えてから行くから、みんなは先に行ってておくれ。ぼくはあとから追いつくからさ」

「わかったよ。ここの駅から先の道行ったらすぐ山だから、先に登ってるぞ」

「ゆっくり歩いてるわね~」

 俺と逸美ちゃんがそう答えて、凪に見送られみんなで出発した。

 鈴ちゃんは不安そうにチラっと凪を見て、

「先輩、またみょうちきりんな恰好してこなければいいけど……」

 と、ひとりごちた。


 さて。

 さっそく山登りを開始する俺たち。

 ノノちゃんは山登りのコースのスタート地点で、山を見上げる。

「でっかいですねー」

「そうだな。初心者向けっつってもワリとたけーじゃねェか。別にいいけどよ」

 そう言いつつも作哉くんは腕まくりしている。基本に忠実な山登りの恰好をしているだけあり、昨日はノノちゃんのために頑張って調べたりしたのかな、と思った。

 昨日俺たちに披露したレインウェアはまだバッグの中にあるらしく着ていないけど、出番があるといいな、ノノちゃん。

 沙耶さんと俺と花音はほとんど私服である。靴はスポーツシューズだけど、ちょっと動きやすい感じの私服だ。

 逸美ちゃんはスポーツウェア。ほんの少し鈍くて運動神経に欠ける逸美ちゃんはこれくらいちゃんと動きやすそうな恰好じゃないとな。

 鈴ちゃんも作哉くんと同じく気合が入っているようなザ・山登りの恰好。ただし準備に気合が入り過ぎたのか楽しみだったのか心配性なのかはわからないが、バッグがでかい。いらないものもたくさん入っていそうだ。

 俺はみんなに呼びかける。

「それじゃあ、登ろうか」

「はい!」

「頑張ろ~!」

 元気な返事のノノちゃんとすでに楽しそうな逸美ちゃん。

 作哉くんは先頭を歩き出すノノちゃんに後ろから言う。

「ノノ、あんまり飛ばすなよ。いま張り切り過ぎっとあとでキツイぞ」

「大丈夫。ノノはスタミナいっぱいです!」

「ったく。あとでべそかいても知らねェぞ」

「べそかいたりなんかしませんよー」

 そんなノノちゃんを見て、作哉くんは、

「これで帰りは疲れて眠っちまっておんぶとかになんなきゃいいけどな」

 と、小さくつぶやいた。

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