山登りに行こう その7
俺たち少年探偵団の声は、やまびこに乗って聞こえるほどである。
ノノちゃんは楽しそうに両手を挙げてキョロキョロ周りを見回している。
「オーが聞こえる!」
「やまびこって言うんだよ。大きな声でしゃべりかけると、山がお返事するんだ」
凪が教えてあげると、ノノちゃんは「へえ」と目を大きくする。
「なにか質問しても返ってきますか?」
ノノちゃんからの質問に、凪は答えた。
「山は口下手だからね。うんうんってお話を聞いて、同じ言葉を繰り返すのさ。だから、さっきのみんなの声は、きっと山にも山にいたたくさんの人にも聞こえてる」
「そうなんですね!」
凪のやつ、たまにはいいこと言うじゃないか。
話を聞いてニッと微笑んだ作哉くんは、俺たちに言った。
「じゃあ、ちょっくら茂みの先でも見てくるぜ」
「気をつけてね」
「無理しないでくださいね!」
「頑張れ作哉くん!」
俺と鈴ちゃんが心配し、花音が応援する中、作哉くんは茂みに駆け寄り、手を入れて足も踏み込み、顔を入れた。
と。
次の瞬間――
「うわっ!」
作哉くんがズルっと茂みに吸い込まれた。
「作哉くん!?」
俺たちは急いで茂みに駆け寄り、顔を突っ込んだ。
「作哉くん、大丈夫!?」
「大丈夫なら返事をして!」
と、俺に続けて沙耶さんが声を張り上げる。
「死なないでくださーい!」とノノちゃん。
「イヤー! そんなー」と鈴ちゃん。
「鈴ちゃん! 泣かないで! まだ早いわ」と逸美ちゃん。
「お願い! 生きててっ!」と花音。
そして。
茂みから顔を出し、
「作哉くーん!」
と、みんなそろって大声で呼ぶ。
が。
そこには、ちょっとした広場のような場所があった。子供連れの家族や子供たちが休日を平和に過ごしている風景が広がっていた。レジャーシートを広げた家族たちを見るに、公園っぽい雰囲気である。
で、作哉くんはというと。
「お、おーう」
小さな声で恥ずかしそうに返事をした。さっきまでの威勢はどこへやら。蚊の鳴くような声である。
ここから二メートルほどの高さがあったため、誤って転倒したらしい。それでも二メートル。ケガもなく、転んだまま恥ずかしそうに固まっている。
広場の人たちの声も聞こえてくる。
「やだ~。なにかしら、あれ」
「クマもいるし、演劇の練習じゃない?」
「学芸会の? ハハッ」
「ママ、作哉くんって人なにしてるの?」
「しっ。見ちゃダメよ」
「つーかなんなんだ? 少年探偵団って?」
このあと。
俺たちは恥ずかしさのあまり誰も一言もしゃべらず、黙ってその場をあとにした。
どうやらふもとにもかなり近い場所だったようで、幸運にもすぐに帰れたことだけが救いだった。茂みを抜けたら電波もよくなっていたくらいだ。
そして、探偵事務所に帰った俺たちはというと。
先ほどの公園での醜態を引きずったまま、みんなでずーんと沈んでいた。みんなのこんな丸まった背中、見たことないよ……。
「いや~。今日はすごい冒険をしたね」
さっきも一人だけ平然としていた凪が、そう言って笑った。
「はい。最後みんなで力を合わせて脱出したときは感動しました」
ノノちゃんはやり切った顔をしている。
「ぼくもさ。楽しかったなぁ。でも、ノノちゃんのレインウェアの出番がなかったのは残念だったね」
「そういえばそうでした。でも、ノノもとっても楽しかったです」
「うん。そういうことで、またみんなで行こうね! 山登り」
と、凪が俺たちみんなに向かって言うと。
ひとり笑顔のノノちゃん以外の全員が声をそろってつっこんだ。
「二度と行くか!」
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