大衆

 お茶の間でテレビを観ていると、いま世間を賑わせている政治家が出ていた。

 過激な発言も多いのに、なぜか一部では人気があるとも言われる政治家だ。

 正直、俺はその人のことなどなんとも思ってないけど、政治のせの字もわからない花音は単純に怖がっている。

 でも、彼は常にニュースで取り上げられている。

 俺は気難しい顔で言った。

「大衆が常に彼をついて回る。俺には彼のよさがわからないよ」

 凪はなだめるように俺に手をむけた。

「まあまあ。そこまで言ったらかわいそうだよ」

 なにげないつぶやきにかわいそうもないだろう。

 しかし凪は、肩をすくめて、

「忙しくてお風呂に入れてないだけだって。臭いって、本人は気づいてないものなんだ」

 俺はため息をついた。

「体臭じゃなくて大衆だよ」


 すると、お茶の間に花音がやってきた。

「体臭がどうしたの?」

「臭いのほうの体臭じゃなくて、大衆演劇とかの大衆だよ」

 と、俺が説明する。

「大衆ってどういう意味?」

 小首をかしげる花音に、さっきまで勘違いをしていた凪が答える。

「簡単にいうと、たくさんの人ってこと。たくさんの一般的な人たちに向けたものに、大衆~って言葉がつくのさ」

「そっか。なるほどね! じゃああれは、大衆アイドルっていうんだね!」

 と、花音はテレビCMに映る女性アイドルグループを指差した。

 凪はせんべいをかじりながら、

「言えてる」

 と適当な相槌を打った。

 そこへ、ばあちゃんがやってきて言った。

「体臭アイドル? またすごいのが出てきたねぇ」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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