鈴ちゃんの金髪
ふと、凪が鈴ちゃんに質問した。
「どうして鈴ちゃんって髪の毛が金色なんだい?」
逸美ちゃんも手を合わせて、
「あ~。わたしも気になってたの」
「中学生のくせに染めてるのかい?」
凪が問いを重ねると、鈴ちゃんはかぶりを振った。
「違いますよ。あたしの髪は地毛ですから」
「そうなんだ」
と、俺は鈴ちゃんの金髪を改めてよーく見た。
「綺麗な金色ね~」
「ありがとうございます。なにも手を加えてないのが自慢なんです」
鈴ちゃんはツインテールにまとめた髪の毛先をいじり、ふふんと鼻を鳴らして俺たちに見せるようにした。
「ほうほう」
凪は腕組して、鈴ちゃんの頭の周りをジロジロと見ている。あっちに回ってこっちに回って観察していると、次第に鈴ちゃんが沸騰するように顔を赤く染めて、
「あ、あんまり見ないでくださいっ」
「見せつけるように自分で髪いじってたくせに」
と、凪が呆れ顔でつぶやいた。
俺は気になってちょっと尋ねる。
「つまり、鈴ちゃんはハーフとかクオーターってこと?」
やっと正常に戻った鈴ちゃんが答える。
「はい。あたしはクオーターです。祖母がイギリス人なんですよ。母方の祖母ですね」
「へえ。クオーターってカッコイイね」
「いえ。それほどでもないです」
謙遜する鈴ちゃんに、凪が聞いた。
「イギリスに里帰りってするのかい?」
「あ、それが滅多にないんです。遠いですから。数えるほどしかないですね」
「いつも一緒にいても、まだまだ知らないことって多いわよね~」
「そうですね」
凪が親指で自分を指差して、
「ちなみに、ぼくは日本人だぜ」
「知ってますよ」
「あと髪はオシャレパーマに見られがちだけど、実はくせ毛なんだ」
「それも知ってます」
「な、なんだって?」
だが、俺も凪に関して気になる点はある。
「ところで、凪のその髪ってどうして白いの?」
「銀髪っぽいわよね」
「若白髪って感じでもなさそうですけど」
そんな俺たちの疑問に、凪はやれやれと手を広げて答えた。
「世の中には色んな人がいる。聞かれたくないことの一つや二つはあるさ」
普段ヘラヘラしてるくせに、複雑な事情があったなんて。
「そうだよね。ごめん」
「ごめんね、凪くん」
「なんかすみません」
「いいって」
それからみんな各々読書をしたり勉強したりゲームをしていたりする中、俺が読んでいた本から顔を上げて伸びをしていると、凪が自分の頭に両手をもっていった。
「……」
そして、凪はポンと頭を取った。
……取った? あれって、カツラだったのか?
カツラの下に髪はなく、綺麗さっぱりな坊主頭だ。
「あの、あの、あの、な、凪?」
「なに?」
「頭、大丈夫?」
「失礼だな。また馬鹿にして」
「いや、そうじゃなくてさ。その」
考え直してみれば、凪の髪の毛っていつも不規則なくせ毛だし、ほんの少し長いときも短いときもランダムであったような気もしてくる。
なんて言うべきか言葉が出てこないであわあわ言っていると、凪はまた、両手をもっていく。
え、また?
「……っ」
ごくり、と俺は唾を飲み込む。
鈴ちゃんが問題集を閉じて凪を見て、
「先輩」
呼びかけた。
と、同時に、凪はまたポンとカツラを取って、いつもの白い髪がカツラの下から出現した。
「ん?」
「この前言ってたマンガ、貸してくれます?」
「いいぜ」
あれ? 鈴ちゃんは気付いてない。逸美ちゃんも読書に夢中だ。
なんだったんだ、いまのは。俺の見間違いだろうか。
目をこするが、現在の凪におかしいところはない。おかしいといってもいつも通りのおかしさだけだ。
凪が不思議そうに俺を見て、
「なんだい? 人のことジロジロ見て」
「いや、その……」
そのとき、ガタンと音がした。
俺の足がテーブルにぶつかった音だ。
「あれ?」
逸美ちゃんが俺の顔を覗き込むようにして、
「開くん、起きた?」
「えっと」
どうやら、俺は夢を見ていたらしい。
なんだ、よかった。この前鈴ちゃんがクオーターだって話を聞いたもんだから、なんか変な夢見ちゃったな。
凪が笑いながら、
「開が居眠りなんて珍しい」
「あはは。ちょっと疲れてて。ところで、凪の髪って地毛?」
「ぼく? そうだけど」
「だ、だよね。聞かれたくないことは聞かないよ。ははっ」
「変な開だ。まだ寝ぼけてる」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
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