花粉症
俺は花粉症だ。
スギとヒノキ、どちらの花粉もダメだし、雑草の花粉もダメだから、実は六月くらいまでは毎年花粉と戦っているのだ。
とても花粉が強い日のことだった。
明智家のお茶の間で、あまりのかゆみに目をこすっていると。
「お兄ちゃん、猫みたい」
花粉症とは無縁の花音が俺を見て言った。
目をこする俺の手の形が、猫が顔をこするみたいに見えたのだろう。
「誰が猫だよ。かゆくてつらいんだから」
「大変そうだね」
「まあね。猫みたいに目をこすらなくちゃならないんだから、大変さ」
そのとき、凪がお茶の間にやってきた。
「あ、凪ちゃん。おかえり」
花音にそう言われて、凪はお茶の間に置いてあったおせんべいをかじり、ひらりと手をあげて、
「おう。ただいま。じゃあ行ってきまーす」
あっという間にお茶の間を出て行った。
なにしに来たんだ。
「どこへ行くの?」
と、花音がお茶の間から顔を出す。
凪はふらりと玄関のドアを開けて言った。
「ちょっと遊んでくるー」
ぼーっと凪の背中を見ていた花音が俺に向き直った。
「凪ちゃんって猫みたいだよね」
「自由人だからな、あいつは」
うんうん、と花音はうなずいた。
「なんだか凪ちゃんは、開ちゃんと同じ猫でもちっとも大変そうに見えないよ」
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