テレパシーは使えない その1
「あー」
気の抜けただるそうな声を漏らし俺を見る凪。
「なんだよ?」
「いー。うー」
あいう?
なんの用もないくせに平日の放課後に当然のように探偵事務所へやってきた上で、こいつはずっと和室のこたつのテーブルに顎を乗せてだらしなくくつろいでいるのだ。
俺はイライラしながら言ってやる。
「退屈だから面白いことでもしろとでも言いたいのか? できるか! ヒマなら帰れ!」
凪は驚いた顔で身体を起こす。
「なんでぼくが考えてることがわかったの?」
「んなもん、見れば一発でわかるよ」
「さすがは探偵王子。洞察力とドヤ顔はパンパンじゃないね」
「それを言うならハンパじゃない、だろ? それとドヤ顔は余計だ。俺も顔も全然パンパンじゃないし」
「訂正サンキュ~」
いっしょに和室にいた逸美ちゃんも、遅れて感嘆する。
「でも、開くんの観察力と洞察力すごいわね~。テレパシーみたい」
「テレパシー……」
凪が逸美ちゃんの言葉を繰り返しつぶやき、バッと俺を見る。
「開! キミはテレパシーが使えるのかもしれない」
俺は呆れてため息交じりに言い返す。
「使えるわけないだろ? 使えたら超能力者だよ」
「そんなのわかるもんか」
「本人が違うって言ってんだけど」
ジト目で見返す俺に構わず、凪は言った。
「じゃあ、逸美さんがなに考えてるか当ててみてよ」
「いいけど、そう簡単には当たらないよ」
「いいからいいから」
どれどれ?
逸美ちゃんを見る。
すると、逸美ちゃんはじぃっと見つめる俺の視線に照れたように目を伏せて、
「いやん。うふふ」
俺はちょっと赤面しながら口を手で隠すようにつぶやく。
「さっぱりわからない」
しかし、いつのまにかメモ帳を取り出した凪は、すらすらとメモする。
「なるほどなるほど。お互いに恥ずかしいことを考えて、ツーってして顔がカーっと赤くなった。これぞツーカーの仲だ。テレパシーも悪くない。っと」
「勝手な翻訳するな! 誰もそんなこと言ってないだろ!? テレパシーなんてないの!」
まったく、凪のやつは。
確かに、逸美ちゃんの考えてることはなんとなくわかったけど、くだらないことだったから言いたくなかったのだ。変なことメモしやがって。
ん?
凪がじーっと俺を見ている。
「なに見てんだよ? どうせ、俺のことすぐに怒って短気なやつだとでも思ってんだろ」
驚いた顔で凪は声を上げた。
「おお。合ってる。やっぱりテレパシーはあるんだ」
だからねーよ。
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