テレパシーは使えない その2
俺は凪とのやり取りに呆れつつ、改めて言った。
「あのなぁ。たとえあったとしても、俺はそんなの使えないぞ」
凪は鈴ちゃんを見て、
「じゃあさ、鈴ちゃんが考えてること当ててよ」
今日も凪に連れられていっしょに探偵事務所までやってきた鈴ちゃんは、イヤホンをしながらずっと学校の勉強をしていた。ちなみに、音楽を聴いているのかは不明である。本当に音楽を聴いていることも多いけど、たまに凪がしゃべりかけてくるのを無視するための口実にしていたりする。
鈴ちゃんはイヤホンを外して、凪に向き直った。
「あたしは勉強中なんですよ。邪魔しないでください。開さんだって報告書まとめたりしてて忙しいんですから、先輩も少しは静かに……なんですか?」
色んな角度から凪にジロジロ見られて、鈴ちゃんは無表情に聞き返した。聞かれた凪は腕を組んで考える。
「うーむ。ぼくにはさっぱりだ」
「当然です。あたしの心の中を覗かれてたまるもんですか」
「ただ一つわかったことといえば、この間パパに『テストの点数が下がったみたいだな』と言われてショックを受けたってことくらいかな。だから勉強頑張ってパパに褒められたい。頭なでなでしてもらうのが目標って感じだろうか。パッと見でだけど」
鈴ちゃんが大きく口を開けて顔を真っ赤にする。
「な、な、な、なんでそんなこと知ってるんですか!」
「ほうほう。合ってたか。ぼくも捨てたもんじゃないな」
「そんなのはテレパシーって言わないんです! 悪趣味なプライバシーの侵害っていうんです。ホント最低の情報屋ですね!」
「それほどでも~」
「褒めてない!」
さて、鈴ちゃんが落ち着いたところで、改めて俺は鈴ちゃんを観察する。
「いま考えてることって言ってもなぁ」
すると、俺といっしょになって凪も鈴ちゃんを観察する。ふたりでじぃっと鈴ちゃんを見つめていると、鈴ちゃんは恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
「うん、これはわかる」
「だね」
「恥ずかしい、でしょ?」
「もう見ないで~ってね」
鈴ちゃんは顔を押さえたまま席を立って、
「なんでわかるんですか~! テレパシー怖いぃ~」
と、トイレのほうへと走って逃げて行った。
「いや、なんでって言われても」
「テレパシーなんか使わなくてもね」
俺と凪は呆然と逃げる鈴ちゃんを見やり、ぼそりとつぶやいたのだった。
しかしなぜか、逸美ちゃんは拍手をする。
「すごいわね~。開くぅん、わたしの考えてること、また当ててみて」
とウインクして、手にウサギ耳を持って俺を見る。
「やだよ。ウサギ耳なんてつけないって」
およよ、と逸美ちゃんは崩れ落ちるようなそぶりをする。
「伝わったのに断られちゃった。今度お昼寝してるときにこっそりつけちゃお」
リアクションに反して全然ショック受けてる感じしないな、このお姉さん。
凪はおもむろに立ち上がると、意気軒昂に俺を見る。
「開、ちょっと外に出ようぜ」
「なんで?」
「だって、もっと検証の余地があると思わないかい?」
「ねーよ」
「せっかくだしテレパシーがどれだけの人に通じるか試そうよ」
「やだよ、面倒くさい」
すっと凪が俺の傍らに来て、耳打ちする。
「探偵王子の観察力と洞察力、きっとすごいんだろうな。それとも、自信ないとか? でもそんなわけないか。まさか怖いなんてことはねぇ?」
「べっ、別に怖くなんかないし? 自信もあるもん。探偵だもん」
「じゃあ決まりだね! レッツゴー!」
しまった。
乗せられた。
が。
そのとき、階段をトントンと勢いよく上る音が聞こえた。
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