親展

 花音が郵便受けに見に行った。

 そして、封筒を持って、お母さんの元へと走って行った。

「お母さーん!」

 ドタドタ走ってお母さんを呼ぶ。

 お母さんは平然と聞いた。

「どうしたの?」

「手紙が来てるよ」

「あ、そう。ありがとね。あれ? これ、花音ちゃんのじゃん」

 俺も見てみると、花音宛の封筒だった。

 花音は目を丸くして、

「そうだよ。はい、お母さん」

「だから花音ちゃんのでしょ」

「え? でも、親展って書いてあるし」

 俺は横から口を出す。

「親展っていうのは、本人が見るべき重要書類のことだぞ」

「えー!? そうだったの? 親って書いてあるから、てっきり宛先の人の親に送ってるのかと思った」

 あはは、と俺は笑って、

「だったら親の名前でいいでしょ」

「確かに」

「花音ちゃんはうっかりなんだから」

 母よ、花音のこれはうっかりじゃなくてただ物を知らないだけだぞ。

「でも、普通みんなわからないよね? こういう手紙のやつとか」

 口をとがらせる花音に、俺は大いにうなずいた。

「ああいうやつもいるしな」

 俺の目線の先を花音とお母さんが辿ると、そこには、祈るように両手を合わせて手紙を読む凪がいた。

「ふむふむ。へえ。こちらは変わらずやってるよ」

 そして、凪は手紙をポケットにしまう。

 こいつのやりそうなことはだいたいわかる。

「凪ちゃん、なにしてたの?」

 花音に尋ねられ、凪はさっきの手紙を取り出して肩をすくめた。

「ちょっと手紙をね。読み方にもいろいろあるから大変だよ」

 そこには、左下に『拝答』と書かれていた。

 まだわからない花音が俺に聞いた。

「どういう意味?」

「返信してくださいって意味だ」

 決して、拝みながら答えて読むものじゃない。

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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