ギリシャヨーグルトは固いからこぼれない
「ほら」
お茶の間でギリシャヨーグルトを食べるとき、花音がスプーンですくって見せてきた。
スプーンを逆さまにするけど、ギリシャヨーグルトは固まったまま落ちない。
「すごいね」
俺が驚いてみせると、花音は得意そうに胸を張った。
「でしょ?」
「ギリシャヨーグルトってそんなに固まってるんだ。初めて見たよ」
「たまげたー」
ばあちゃんも俺に続けて驚いた。
だが。
花音は笑った。
「ばあちゃん、昨日もいっしょに食べたから知ってるでしょ」
「はっは。そうかい?」
うん、と花音は大きくうなずいた。
現在、俺と花音とばあちゃん、それに凪と近所の男の子がいっしょにお茶の間にいた。
近所の男の子は満二歳になる幼児で、みんなからけーちゃんと呼ばれている。
うちとは親戚にあたるため、よく遊びにくるのだ。いまみたいに預かっておもりをしてやることも少なくない。
「いや~。びっくり仰天だね」
スプーンを逆さかさまにしてじっとギリシャヨーグルトを見つめる凪に、花音がつっこむ。
「凪ちゃんもいっしょに食べたでしょ」
「おまえ、いつのまに食べてたんだよ。それも人んちで」
「もう、凪ちゃんったらばあちゃんのマネしてー」
と、花音がおかしそうころころ笑う。
凪は真顔で、
「天丼さ」
「凪ちゃん、天丼なんてうちにはないよ」
「そっちの天丼じゃねーよ」
ぽつりと俺はつっこんだ。
天丼とは、一度使ったギャグを繰り返すことだ。
しかし凪のやつ、他人の妹とおばあちゃんといっしょに俺がいない隙にヨーグルトを食べるなんて、どんだけ馴染んでいるんだか。親戚のけーちゃんより馴染んでいる。
「でも、これだとこぼれなくていいね」
と、俺もギリシャヨーグルトをスプーンですくって食べる。
「ちっちゃい子供でもこぼさず食べられるしね!」
花音がまたギリシャヨーグルトにスプーンを伸ばした瞬間――
ぽとっ
と、けーちゃんが食べていたヨーグルトをこぼしてしまった。
「けーちゃんがこぼしてる」
予想外のハプニングに、花音が笑った。
「ちょうどこぼれないって話をしてたのにね」
俺もくすっと笑う。
けーちゃんは、落ちたギリシャヨーグルトをぼんやり見つめたあと、再びギリシャヨーグルトをスプーンですくったが、口に入る手前でまたぽとりと落ちてしまった。
凪はそんなけーちゃんを見て、やれやれと手を広げる。
「けーちゃん、いくらウケたからって天丼はいかんよ」
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