茶柱 その2

 探偵事務所のことは鈴ちゃんたちに任せてデパートに到着した俺と逸美ちゃん。

 俺は逸美ちゃんが気になったところをぐるぐる回るのに付き合って、なぜだか甘味処までやってきた。

「開くん、お腹空いてない?」

 目をキラキラさせているところを見るに、逸美ちゃん、お腹が空いたんだな。

「うん。ちょっと小腹が空いたかも」

「だよね! じゃあ食べよう。ここはお姉ちゃんがご馳走しちゃう」

「悪いよ」

「いいのいいの! お姉ちゃんに任せなさい。今日のわたしはついてるんだから」

 そして、甘味処に入ると、今日は感謝デーということで全品五割引きだった。

 これは本当に逸美ちゃんの元に幸運が舞い込んでいるかもしれないぞ。


 その頃、探偵事務所では。

 作哉くんがやってきた。

「おう。来たぜ」

「あ、作哉くん」

「よお、ノノ。ところで、探偵サンは?」

「開さんと逸美さんは出かけました」

「そうか。まあどうでもいいが」

 凪が聞く。

「作哉くん、喉乾いてない? お茶が欲しいでしょ?」

「アンだ? 気味がワリーな。なにか企んでんのか?」

「違うよ。ただ、ぼくは自分のコーヒーを飲みたかっただけさ。ノノちゃん、ぼくは自分のコーヒー淹れるから、ノノちゃんは作哉くんにお茶淹れてあげて」

「はい」

 そして、凪と共にノノちゃんは給湯室に行った。そして、給湯室からお茶を淹れたノノちゃんが先に戻ってくる。

「どうぞ」

「おう。サンキューな、ノノ。あ? おお、スゲーじゃねェか。茶柱が立ってら」

「作哉くん、縁起がいいですね」

「逸美さんに続いて作哉さんもですか」

 ノノちゃんと鈴ちゃんが感激しているのを見て、作哉くんはパンと膝を叩いた。

「うし! 縁起もいいみてェだし、今日はオマエら三人にメシでも奢ってやるよ」

 すると、凪が給湯室からひょいと顔だけ出して、

「でも作哉くん? まだ午後の三時なのに、夕ご飯食べるんじゃないでしょうね?」

「言われてみりゃそうだな」

「ノノ、ケーキが食べたいです!」

「そうか。ノノが言うならそうすっか」

「わーい」

 と、凪とノノちゃんがバンザイした。


 現在探偵事務所でなにが起こっているかは知らない俺と逸美ちゃんだったけど、甘味処でおしゃべりしながら美味しいぜんざいも食べたし、満足して帰ることにした。

 五割引きで浮いた(ご馳走してもらった)分のお金で、帰りに俺はお留守番をしているみんなへのお土産にお菓子を買ってあげた。逸美ちゃんもいっしょに、みんなで食べよう。

 そうして探偵事務所に帰ってくると、ちょうど向こうから歩いてくる凪たちと探偵事務所の目の前で合流した。

「あれ? お留守番は?」

「すみません、作哉さんがケーキをご馳走してくださるというので、閉めてきました」

 苦笑いの鈴ちゃん。

「なんだ、そういうことか。全然いいよ」

「ほんとすみません」

「だからいいって」

「どうせ依頼人も来ないしね」

 と、凪が口を挟む。

「そうそう、どうせ来な……て、おまえが言うな」

 みんなで探偵事務所の中に入って、作哉くんのお茶にも茶柱が立ったという話をノノちゃんから聞いた。

 俺は、後ろでそーっと和室から出ようとしている凪に振り返って、

「凪」

「か、開っ。どうしたの?」

「ちょっとこっちに」

 みんなポカンとして小首をかしげる中、俺は凪を連れて給湯室に入った。

 凪はおどけたように口を押えて、

「やだ~、開。こんなところにぼくを連れ込んで、なにするつもり?」

「わかってんだぞ。正直に言うなら作哉くんには黙っておいてやる」

 これだけ言われて、凪は観念して肩を落とした。

「実は、昨日みんなが帰ったあと、忘れ物を取りに戻ってきたとき、作哉くんの大事にしていたカステラを食べちゃったんだ。ごめんなさい」

「うんうん、そうか。そうだよな。正直に言ったし、今日のところは……って、そっちじゃねーよ! 初耳だよ!」

「え?」

 やれやれ。こいつに言っても心当たりが多過ぎてわからないのだろう。

「茶柱だ。隠してる物出せ」

「はぁ。どうぞ」

 今度こそ観念した凪が、左の袖口からティッシュに包んでいた茶柱を取り出した。

「やっぱりおまえか。作哉くんのところに茶柱なんか入れて」

「あーあ、また使えると思ったのに」

「まあ、今日のところは黙っておいてやるよ。作哉くんもノノちゃんも楽しんで満足してきたみたいだし」

「助かるよ」

 と、苦笑いで頭の後ろをかく凪。

「ほんと、よく考えるんだから。今後はああいうせこいことはやめろよな」

「わかったよ。もうしない」

 俺は呆れ交じりのため息をついて、ティッシュに包まれた茶柱を自分の服の左袖に入れておいた。

「あ、開。これあげるよ。偶然もらったんだ」

「ん?」

 よくわからない紙切れだ。なんかのクジだろうか。


 その日、家に帰ってテーブルに置いてある新聞が目に入った。

 そこには、今日凪にもらったあの紙切れと同じ数字が書かれていた。

「これって……」

 よく見れば、五千円の当たりだ。

 どうやら、逸美ちゃんから茶柱が立った話を聞いたから、俺に幸運が移っていたらしい。

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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