白熱、ポケモンバトル! 良人VSノノ
良人さんがゲーム・ポケットモンスターを始めた翌日。
月曜日。
俺は放課後、掃除が終わるとまっすぐ探偵事務所へ向かった。
昨日はまだレベル10も超えていなかった良人さんがどれだけ成長したのか、俺は楽しみに足を進める。
まあ、昨日の今日ではまだまだだろう。
そう思って探偵事務所に来てみると、そこに良人さんの姿はまだなかった。
「開くん、いらっしゃい」
「うん」
ソファーに座って出迎えてくれたのは逸美ちゃんだけで、みんなも学校終わってからならまだ来ていないとしても不思議じゃない。
逸美ちゃんは大学一年生、良人さんも大学一年生(こっちは一浪してるから一番年上)、凪と作哉くんは俺と同い年の高校二年生、鈴ちゃんは中学三年生、ノノちゃんは小学四年生だから、ノノちゃんくらいは来ているだろうか。
するとやはり、和室からノノちゃんが顔を出した。
「開さん、こんにちは」
「あ、ノノちゃん。そっちにはまだ誰もいないの?」
「はい。ノノだけです」
「じゃあ良人さんはまだ大学かな。作哉くんは?」
「作哉くんは今日来られるかわからないそうです。用事があるみたいで」
「そっか」
それは残念だけど、用事があるなら仕方ない。
凪と鈴ちゃんもまだみたいなので、俺はノノちゃんと一緒にポケモンをする。
「ノノちゃんは小学校のみんなと結構バトルするの?」
「勝負しましたよ。作哉くんに教えてもらって育てたポケモンで戦ったら勝てました」
「さすが」
まあ、凪や作哉くんに色々と教われる環境にあるノノちゃんは、下手なプレイをしない限り絶対強いだろうな。
「クラスで一番ポケモンバトルが強い男の子にも、ノノのテディで勝っちゃいました」
「すごいじゃん! テディって確か、色違いのキテルグマだよね」
「はい。お気に入りです」
うちの少年探偵団のメンバーがみんな色違いを持っているのも、俺たちの中で色違いブームがあったからだ。
凪、逸美ちゃん、作哉くんも頑張って厳選して作ったくらいだ。
その話は置いておき、俺はバトル施設にチャレンジするノノちゃんにアドバイスをしながら一緒に遊んでいた。
しばらくして、探偵事務所のドアが開いた。
やってきたのは凪と鈴ちゃんの二人だ。
「やっほ~」
「こんにちは」
「いらっしゃい」
と、逸美ちゃんが出迎えて、二人も和室に上がった。
五人でそれぞれポケモンをする。
みんなストーリーはクリアしているから、やっているのはポケモンを集めて図鑑を埋めたり対戦をしたり育成をしたりといった感じだ。
各々が静かにプレイし、穏やかな時間が流れる。
そんなとき。
ふと、凪が言った。
「ねえ、良人さん今日はどこまで進んでるかな?」
「さあね」
「ちょっとはレベル上がってるんじゃないですかね」
などと俺と鈴ちゃんが興味なさげに答えると、ノノちゃんがずいっと俺と鈴ちゃんににじり寄って、
「まじめに考えてください」
「うん」
「はい」
俺と鈴ちゃんはうなずく。
「ノノは、良人さんもう半分くらいクリアしてると思います」
「それはないわよ~。わたしでもすごく時間かかったんだから。きっと、ちょっとだけよ」
「逸美さんはのんびりだからね、自分と比べちゃダメだよ」と凪。
「そうかしら~」
その通り、逸美ちゃんが一番ストーリーを進めるのも遅いけど、のんびり楽しめるのはいいことだと思う。
「じゃあ俺は、どこまでってより、手持ちがかっちゃん以外入れ替わってるに一票」
「ありそうですね。あたしもそう思います。あと、かっちゃんは進化してそうですね」
「それで驚いてたりしてね」
俺と鈴ちゃんの意見も出たところで、最後に凪が言った。
「きっとあれだ、ぼくが思うに、良人さんはまだ昨日と同じところでつまづいている」
「ありえるけどね」
あははは、とみんなで笑っていたら、ちょうどタイミングよく探偵事務所のドアが開いて良人さんがやってきた。
「やあ。来たよ」
「いらっしゃい」
「上がってください。……え」
俺は良人さんの顔を見て、固まってしまった。
なぜなら、良人さんの目の下には大きなクマができていたからだ。
「どうしたんですか?」
「ん? どうもしないよ。まあまずはボクがどれだけ進めたかを見てよ! ジャジャジャジャーン!」
と、良人さんはゲーム機を天高くかざす。
……ふむ。おそらく、この目の下のクマを見るに、良人さんは寝る間も惜しんで頑張って進めたのだろう。
五人がじぃっと良人さんが開いた画面を見ると。
「まず、これ」
つづきからはじめる、というタイトル画面の次に出る画面にプレイ時間や主人公の名前なんかが出るんだけど、そこには十二時間四十五分とあった。
「すごいです!」
と、思わず俺とノノちゃんの声が合わさる。昨日何時間やったかわからないけど、これは相当やったに違いない。
「やるじゃないか。帽子が変わってる」
「凪くん、そこじゃないでしょ! プレイ時間を見てよっ!」
「ん? ほうほう、十二時間もなにしてたの?」
「ストーリーを進めてたのっ!」
俺も凪も軽く十二時間以上なんてやってるのに、なにしてたのはないだろ。
苦笑いになる俺だったが、良人さんに促す。
「それで、どれくらい進んだんですか?」
「聞いてよ、それがさ。みんなレベルも上がっちゃって、かっちゃんも進化したんだ」
これを聞いて、俺と鈴ちゃんは顔を見合わせる。そして笑った。
「予想通り」
「ね? それくらいは最低でもやってると思いました」
それから、良人さんの現在の手持ちポケモンを見せてもらった。
「かっちゃん以外はみんな入れ替わってるよ」
「開さん、これも大正解です」
「見事当たったね」
メンバーは、ヤドン(ぬけさく)22レベル、ニョロゾ(ぐるぐる)25レベル、ゴースト(シャドウ)21レベル、ヒノヤコマ(ちゅんこ)27レベル、イーブイ(ミミ)17レベル。ちなみにカッコ内はニックネームだ。かっちゃんだけは32レベルだった。
「ストーリーもだいぶ進んだでしょ? どんなもんだい」
「ほんとだ。半分とまではいかないけど、かなり進んでる」
「ノノ、惜しかったです」
みんなが感心していると、逸美ちゃんが聞いた。
「そういえば、良人さんはどうして目の下にクマがあるの? 寝てないのかしら」
「逸美ちゃん、ゲームやってたに決まってるでしょ」
「なるほど~。開くん名推理」
今日に関しては名推理でもなんでもない。
凪と逸美ちゃんはいつもこの調子ですっとぼけてるから困る。
「ここまできたら、ちょっとバトルとかもしてみたいんだよね。誰か相手になってよ。ボクのポケモンの強さ、見せてあげるから」
しかし、ここで俺たち五人は困ったというように顔を見合わせた。
「どうしたの? ボクに負けるのが怖いのかい?」
良人さんが調子に乗り出したので言ってやる。
「正直、まだ良人さんが弱すぎて俺たちのポケモンとはレベル差が大きいんです」
「よ、よ、弱すぎぃ!?」
昭和っぽい驚き方の良人さんにさらに説明を重ねる。
「50レベル超えれば、50レベル以上のポケモンを50レベル換算にしてバトルできるんですけど、あまりに一方的になりそうで」
ポケモンのレベルは最高で100。
良人さんのポケモンはまだ平均20レベル半ばだから、対戦用に50レベルぴったりにしてあるポケモンでも20レベル以上の開きが生じる。
しかしそう言われても良人さんは得意そうに言った。
「大丈夫。ボクのポケモン、いまのところ負けなしだから」
「昨日かっちゃんも負けて目の前が真っ暗になったのはどこの誰ですか?」
「う……。そういうこともあったっけ? ただ、あれ以降ほとんど全滅はしてないから。ははは」
仕方ない。
俺たちは手持ちにできる六匹以外を預けておける、ボックス機能を確認した。
その結果、ノノちゃんのところには、戦えるかはわからないが20レベル台のポケモンが2匹いた。
ノノちゃんは不安そうに上目で俺を見上げて、
「ちゃんと育ててないけど大丈夫でしょうか?」
「平気だよ。相手は初心者だし、プレイングでなんとかなるよ。あと一匹は俺のところにいる19レベルのコラッタでもいいし」
ここで、ノノちゃんの言うちゃんと育ててないというのは、レベル以外の面での育成ができていないということである。ポケモンは戦うと強くなり、ざっくり言うと戦った数に応じて各能力にポイントが入りステータスがアップする。ゲーム中では基礎ポイントとも呼ばれている。これがまったくない野生のポケモンなどは人が育てたポケモンより弱いという話だ。
「ノノちゃん、耳貸して」
「はい」
凪に呼ばれて、ノノちゃんは耳を傾ける。
「んぅ……! 凪さん、息がかかってくすぐったいです」
「なにしてるんですか! 先輩のヘンタイ!」
「違うんだ。ふとぼくの初めてのポケモンバトルを思い出して、ちょっとばかしセンチメンタルな気持ちがよみがえり、ため息が出ただけさ」
頬と耳を赤くするノノちゃん、ふざける凪を怒る鈴ちゃん、怒られて釈明する凪。
なんておバカなんだ。
しかしこのあと、ちゃんと凪はノノちゃんに指示を出していた。凪の方から一匹だけポケモンを送ったようでもある。一体どんな戦い方をするのやら。
「じゃあ、3対3の勝負です。いいですか?」
「いいよ、どこからでもかかってきなさい」
「はい!」
実力や経験はノノちゃんの方が上なのに、なぜ良人さんが偉そうにかかってきなさいと言えるのかは不明だが、かくしてポケモンバトルが始まった。
良人さんの最初の一匹目はイーブイ。なんで一番レベルの低いイーブイを選んじゃったんだろう。
対して、ノノちゃんの最初の一匹目はマネネ。
だが、マネネはレベル1。
「なんだい、ノノちゃん。ボクが初心者だからって甘くみてもらっちゃ困るよ。そんな可愛いレベル1のポケモンを使っちゃってさ」
「良人さん、ちゃんとマジメに全力でやらないと負けちゃうよ」
凪にそんなこと言われても、良人さんは完全にレベル1の相手をバカにしている。
「さあ、しょっぱなからかっ飛ばすよー!」
まず良人さんのイーブイからの攻撃。
良人さんはZ技という一試合に一度だけ使える強力な技から入った。ポーズがあるのだが、そのポーズをゲーム内のよしおと一緒にしている。
「スチャ! スチャ! スチャスチャッ! いけっ! ボクの全力、ウルトラダッシュアターック!」
ポーズが決まったところで叫ぶ良人さん。
だが。
「あー! 惜しい! あとちょっとだったのに!」
「違うよ。これは『きあいのタスキ』ってアイテムさ。HPが満タンなら、ひんしになるダメージを受けても耐えられるんだ」
と、凪が解説してやった。
「卑怯だよ! せっかくZ技まで使ったのに」
「しょうがないよ。ルール上認められてるんだから。それも戦略なんだよ」
「ま、負けないからなっ」
と、良人さんは凪に言う。相手が違うぞ。対戦相手はノノちゃんだ。
まあ、それ以上にレベル1の相手に強力なZ技を使う方が悪い。さてはなんにも考えてないな、この大学生。
次に後攻のマネネはトリックルームという技をした。
「な、なんだ? 空間がゆがんだって言ってるぞ? でも、攻撃受けなくてラッキー」
今度は先手が代わり、マネネがリフレクターという技をする。
「あれ? なんで? どうして今度はあっちが先に攻撃してるの?」
「トリックルームだからです」
ノノちゃんがそのまんまのことを言うが、良人さんの頭上のクエスチョンマークは取れない。
「トリックルームは5ターンの間、すばやさが遅いポケモンから動けるようにするという特殊な技なんだ。だから先手を取られたのさ」
「まあ、また攻撃を受けなかったし大丈夫だよ。幸い、なにもされてないみたいだしね」
のんきなことを言う良人さんに、俺はぼそっとつっこむ。
「変化技なだけでなにもされてないなんてことはないって」
本当に意味のない攻撃はコイキングのはねるくらいのものだ。
「今度はボクのイーブイのたいあたり。よし、これで1体撃破」
と、良人さんははしゃぐ。
それに対してノノちゃんは冷静だ。
次にノノちゃんが出したのは、ナックラーというポケモンだった。レベルは24。
「なんだ? ナックラー? また可愛いポケモンだね」
「はい。進化形も素敵なんですよ」
と、ノノちゃんは微笑む。
「へえ。そうなんだ。でも、負けないよー」
ナックラーはフライゴンというポケモンに進化する。その第一形態だ。
今回もすばやさの低いナックラーからの攻撃。
ナックラーはいわなだれという技を使った。
これにより、イーブイは一撃でひんしになった。
「まあ、レベル差もあるし仕方ないね。次だよ次!」
続いて、良人さんが出したのはヒノヤコマだ。
「ゆけ! ちゅんこ!」
「やっぱりね」
「ヒノヤコマっ。凪さんの読み、当たりましたね」
「うん。最初イーブイは予想外だったけど、予想していたニョロゾより弱いし、ここまではいい調子だね」
ほほう。凪の読み通りだったわけか。おそらくレベルが高い順に選出され、エースのかっちゃんが大将、レベルが2番目に高いヒノヤコマが真ん中、3番目のニョロゾが先発の予想だったんだろうな。
「凪さん、ではこのままいきます」
「おう」
「予想が当たったくらいじゃボクのちゅんこは止められないよ!」
威勢よく良人さんが言った。
だが、ヒノヤコマはすばやいポケモンだから、トリックルーム中なのでまたナックラーの先手になる。さらに、ナックラーのいわなだれはヒノヤコマの苦手な岩タイプの技だから、こうかはばつぐんだ。
また、良人さんはそこまでわかってなかったから交換という選択肢を考えなかったが、ナックラーにはありじごくという特性があり、交換ができなくなってしまう。それによって相手をフィールドに縛れるのだ。ここまで戦略勝ちだな。
結局、またいわなだれ一撃でヒノヤコマはひんしになってしまった。
「えー! そんなー。強すぎるよ、そのポケモン」
「火力ドーピングアイテム使ってるからね~」
「なんだよそれ! またズルだ」
「違うって言ってるでしょ」
「なにくそぅ。雑草魂で頑張るぞー!」
あの攻撃力は、きっと「こだわりハチマキ」というアイテムを持っているのだろう。出せる技が固定されてしまう代わりに攻撃力がアップするのである。
「良人さん、ぐだぐだ言ってないで早くしてー」
「わかってるって。最後はかっちゃんだ!」
くさタイプのかっちゃんは、じめんタイプのナックラーに有利。
しかし、ナックラーからの攻撃なので一概にはかっちゃんが有利とは言えない。
ナックラーのいわなだれ。
しかし、これはかっちゃんも耐えた。残りHPは半分ほど。
次にかっちゃんははっぱカッターをした。
くさタイプの攻撃は、ナックラーにはこうかはばつぐん。
ナックラーはひんしになってしまった。
「リフレクター貼ってあっても厳しいね」
と、凪がノノちゃんに言った。
「はい。でもよくやったね、ナックラー」
そう言うノノちゃんの目の前で、良人さんは大きくガッツポーズを決めた。
「よし! よし! よーし! ナックラーを倒したぞ! こうかはばつぐんだ。ははは」
なんて大人げないんだ。楽しそうだからいいけど。
最後に、ノノちゃんはキテルグマを繰り出した。キテルグマはレベル28。いい勝負になりそうだ。
「ノノの最後の一匹は、テディではないけど使い慣れているキテルグマです。負けませんよ」
「はっは。かかってきなさい」
キテルグマとかっちゃん、すばやさは同じくらいだし、トリックルーム中だし、どちらが先に動けるかわからない。
だが、先に動いたのはかっちゃんだった。
「はっぱカッター!」
「耐えるよ」
「はい」
凪の言う通り、キテルグマは半分以上HPを残して耐えた。
「くそう。やるな、ノノちゃん」
続いて、後攻になったキテルグマのれいとうパンチ。
これによって、あっさりかっちゃんは倒れた。
「かっちゃん戦闘不能。よって、この勝負ノノちゃんの勝ちー!」
「わーい! 凪さん、ノノ勝ちました」
「よくやったね」
凪とノノちゃんはハイタッチを交わす。
がっくり肩を落とす良人さん。
「まさか、レベル1のポケモンがいたのに負けるなんて」
「いいえ。あの子のおかげで勝てたんです」
「なんかやってたもんね、よくわからない攻撃。それにしても、あのナックラーってポケモン強くない? ボクあれ育てたいな」
「いいですよ。あげます」
「ほんとに? ありがとう! 嬉しいなっ、嬉しいなっ、嬉しいなったら嬉しいなっ! それじゃあボクはなにあげたらいい?」
「なんでもいいですよ。ノノはいろいろたくさん持ってますから」
「そう? じゃあ昨日捕まえたアゴジムシをあげるね」
「はい」
というわけで、ノノちゃんはナックラーをあげた。
「大事に育ててくださいね」
「任せてよ!」
うん。いい光景だ。
俺も、良人さんのフライゴンとの対戦は楽しみだ。俺がじめんタイプ(加えてドラゴンタイプでもある)ポケモンで普段使うのはガブリアスというポケモンなので、同じタイプのポケモン同士一度バトルしてみたいと思った。
つづく
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