ポケモンリーグへの挑戦

 これまで、ポケモンセンターにノノちゃんを連れて行ってあげたことで、一緒にいた凪にポケットモンスターのゲームを買わされ、自分もゲームを始めることになった良人さん。

 少年探偵団のメンバーもポケモンをやっているから、良人さんはみんなにアドバイスをもらいながら着実に進めていった。

「あれ? イーブイの様子が……」

 良人さんは真剣に画面を見ている。

「おお! リーフィアだって! 可愛い~! いいね、ボク気に入っちゃったよ! この子のこと一生大事にしよう!」

 すごく気に入っているようだけど、最初にくさタイプのポケモンを選んだから、タイプかぶりしちゃうんだよな……。まあ、レベルさえあればどんなポケモンでもストーリークリアくらいできるし、黙っておこう。

 見ていたノノちゃんが良人さんに言った。

「リーフィアも可愛いですよね。ノノは、イーブイをニンフィアに進化させました」

「ニンフィア? イーブイって、また進化するの?」

「違うよ。イーブイは何種類にも分岐進化するんだ。ちなみに、ニンフィアがこれね」

 と、凪がスマホの画面を見せる。

「とっても可愛いでしょ?」

 にこにこと微笑みかけるノノちゃん。

 良人さんはすっかり感心したように驚いた。

「へえ。こんなになっちゃうんだ~。これも可愛いね。ボクのリーフィアたんには負けるけどね」

「で、ぼくはブラッキー。これに進化させた」

「カッコイイ。可愛い。かっこかわいい! なんかあくタイプっぽい」

 俺も三人の元まで行って、自分のゲームで開いていたエーフィを見せてあげる。

「ちなみに、俺はエーフィにしました」

「うんうん、これね。この子もなかなかいいよね。でもやっぱり、リーフィアたんが一番なんだな~」

 すっかりリーフィアを気に入ったらしい。

 逸美ちゃんはブースター、作哉くんはサンダース、鈴ちゃんはグレイシアを使うので、見事にバラけている。

 逸美ちゃん曰く。

「ブースターちゃんのモフモフが好きなの~。カッコイイけどモフモフ可愛い感じもグッドで」

 作哉くん曰く。

「やっぱサンダースはスピードがあって最高だな。あのギザギザ具合もイカすぜ」

 鈴ちゃん曰く。

「ブイズ一の美しさがありますよね。可憐で透き通る美しさに加えて、この愛らしさですよ」

 鈴ちゃんのグレイシアを見たとき、良人さんが止まった。

「あー、うー、この子もいい。可愛いよ! リーフィアたんとタメ張るなぁ」

「え?」と、驚いたように良人さんを見る鈴ちゃん。

「うーん、とはいえボクはリーフィアたんを裏切れない。ボクにとっての一番はリーフィアたんだ!」

 なんだかひとりで納得した様子の良人さん。

 俺は横にいた鈴ちゃんにこっそり言った。

「なにちょっとホッとしてるの」

「え、いや、同じポケモンはあまり使いたくないな~と思いまして」

「あはは」

 と、俺は苦笑いを浮かべる。

 まあ、同じポケモンを使いたくない気持ちもわかるけど。

 かくして、良人さんはリーフィアを仲間に加え、ますます手持ちを強化してストーリーを進めてゆくのだった。


 そして、十日ほどが経過した今日。

 ストーリーも終盤まで来た。

「ボクは、ポケモンリーグに挑戦する!」

 高らかに宣言して、良人さんは座り直した。

「わーい」

 と拍手してくれるノノちゃんに対して、凪はあまり興味なさげにお茶をすすっている。

 俺は良人さんに聞いてみた。

「良人さん、いまの手持ちはどんな感じですか?」

 ポケモンの手持ちは六匹。

 どんなメンバーで挑むのか、気になるところだ。

「知りたいかい? フフフ、見て驚かないでくれよ、これさ!」

 良人さんは手持ちポケモンが確認できる画面を俺に見せてくれた。ノノちゃんと一緒に見ていく。

「一匹目は、リーフィア、レベルは60、ニックネームはリーフィアたんに変更したんだね。二匹目は、あっ! フライゴンになってる! レベルも67だ」

「ちゃんと育ててくれたんですね」

 嬉しそうなノノちゃんに、良人さんは胸を張って答える。

「まあね! すごく強くてさ、ボクのチームのエースさ。今度ニックネームつけてあげてよ」

「はい。ノノが心を込めてつけますね」

 優しいな、ノノちゃん。

 俺はまた続けてパーティーを見ていく。

「ええと、三匹目は、ファイアロー、ニックネームはちゅんこ。レベル53。四匹目は、ニョロゾ。ニックネームはぐるぐる。レベル50。あれ? なんで進化させないんですか?」

「進化? 進化するの?」

「しますよ。2パターン進化先があるポケモンです」

 凪はいつのまにかノートパソコンを開いて、見せてあげた。

「これさ。ニョロボンかニョロトノ。みずの石でニョロボン。おうじゃのしるしでニョロトノ。ただ、良人さんはおうじゃのしるしを持ってないだろうから、いますぐできるのはニョロボンかな」

「えー。ボク、殿の方が可愛いと思う」

 駄々をこねるような良人さんに、凪はため息をついて言った。

「仕方ない。ぼくが交換して進化させてあげよう」

「ホントに? ありがとう! さすが凪くんだ! ボクのポケモンの師匠!」

 と、良人さんは凪に抱きつく。

「やめてくれ。ぼくは良人さんと抱き合う趣味はない」

「あははは」

 と、楽しそうに良人さんは笑った。

「まあ、凪が交換してあげるのはいいとして、パーティーの残りの二匹が、ゴーストと今作の伝説のポケモン。どっちも51レベル。伝説はいいとして、ゴーストのシャドウくんも進化できますよ」

「うそだ! こんなにレベル上げて進化してないのに? それもおうじゃのしるしってやつ?」

「これは違います。ただ通信で誰かに送ると、そのまま進化するんですよ」

「ふーん。そんなのまでいるんだ。それって、ボクがもしみんなとプレイしてなかったら、ずっとゴーストのままだったってこと?」

「そうですね」

「厳しいぃ~」

 ポケモンは通信機能も大事なゲームだからな。

「それも進化させよう」

「そうだね! 頼むよ」

 というわけで、凪と良人さんで交換を始めた。

 良人さんは送られてきたポケモンを見て、鼻の穴をふくらませた。

「うおぉ! ゲンガー、ちょっと悪っぽいけど強そうじゃん! タイプはあくに変わったりするのかい?」

「しないよ」

 それから、今度はおうじゃのしるしを持たせたニョロゾが送られてきて、良人さんの手元に来た段階で進化を始めた。

「おめでとう! ニョロトノに進化した! やったね。ボク一気に強くなりすぎ?」

 またお調子に乗っているが、これでなんとかポケモンリーグにも挑戦できるだろう。

 俺はポケモンリーグについて説明してあげる。

「それじゃあ良人さん、ポケモンリーグに挑戦しましょう。メインストーリー最後の難関、ポケモンリーグ。リーグを制すとチャンピオンになれるんです」

「チャンピオンか~。くぅ~! 良い響きだねぇ」

「良人さんの育てたポケモンたちなら大丈夫です」

 と、ノノちゃんは胸の前でグッと拳を握り、良人さんにエールを送る。

「ぼくもそう思う」

「な、凪くん……!」

 と、良人さんは感激した目で凪を見る。

「良人さん、勉強もせずに頑張ってたから」

 ズコっと良人さんはこけて、

「凪くん、それは言わないでよ。クリアしたら勉強もしないとなんだから」

 一度落ち込んだところで、良人さんは気を取り直してポケモンリーグに挑む。

「よーし! やってやるぞー! えい、えい、おー」

 ひとりでそんなことをやっているところ悪いが、俺は気になることがある。

「そういえば、なんで良人さんは最初にもらったパートナーのかっちゃんを、パーティーから外しちゃったんですか?」

「う……」

 あれ? なんか、また落ち込んじゃった。元気になったり落ち込んだり、忙しい人だ。

「じ、実はね、一昨日、久しぶりにかっちゃんから連絡があったんだ。昔話に花を咲かせたんだけど、あいつ、彼女ができたって……」

 なんだよ、そんなことかよ。かっちゃんとケンカしたりなにかあったのかと思ったが、くだらない理由で心配して損した。

「はい、さっさとリーグに挑戦するっ」

 と、俺が促す。

「なんだよ、慰めてくれたっていいじゃないか。でもやってやるよ。ボクは全世界のポケモンに宣言する! 必ず勝ち進んで――」

「良人さん、こっちの扉に入るんだよ」

「うわぁぁぁぁぁ! 凪くんっ! 勝手に入らないでよ。まだ宣言中で心の準備もできてないんだから」

「いや~。そう言われると照れますな」

 と、凪が頭をかく。

「褒めてないって。もう~」

 そして、ようやく良人さんはポケモンリーグに挑戦するのだった。

 良人さんのパーティーは意外とバランスも取れているように思える。

 あとは、うまく相性を見ながら戦って、勝っていくだけだ。

「ポケモンリーグには、四天王っていう強い四人のトレーナーがいるんです。良人さんにはその四人に勝ってもらいます」

「四天王か! それらしくなってきたね。でもちょっと強そうじゃない? 四天王って名前、相当ヤバイと思うんだよね」

「強いけど、良人さんのポケモンだって強いんですから、信じて頑張りましょう!」

「そうだね。ボクだってここまでレベル上げて一生懸命ポケモンを育ててきたんだ。よし! 頑張るぞ!」

 一人目の四天王に挑戦する良人さん。

「四天王はある特定のタイプに偏ったパーティーを使ってきます。弱点をうまく攻めましょう!」

 ポケモンは、シリーズごとに旅する地方も違うし、その地方のポケモンリーグにいる四天王のメンツも違う。

 最初の相手は、弱点を突ける技を持ったポケモンはいたものの総力戦になった。

 なんとか最後でリーフィアがとどめを刺した。

「やったー! ふう、なんとか勝てた」

 良人さんはうっすらと汗を浮かべている。この調子で他の三人に勝てるのだろうか。

「まずは一勝おめでとうございます」

「あと三人ですね!」

 俺とノノちゃんにうなずき、良人さんは言った。

「次も厳しい戦いになりそうだ。まずはポケモンセンターに行って回復しよう」

「良人さん」と凪が呼びかける。

「なんだい? 凪くん」

「一度ポケモンリーグに入ると、チャンピオンになるか負けて目の前が真っ暗になるまで外には出られないよ」

「うっそー! なんで早く教えてくれなかったのさ!」

「言わなくてもわかると思うじゃん」

「そんな~。アイテムなんてほとんど買ってないよ、とほほ」

 おまぬけな良人さんだ。

 こんな抜けてる良人さんにも、ノノちゃんは優しく鼓舞した。

「大丈夫です! アイテムもゼロじゃないし、いけますよ!」

「そ、そうだよね。ちょっと確認だ」

 良人さんはメニューからバッグの中身を確認して、現在持っているアイテムを見る。だが、そこにはほとんどアイテムはなかった。

「あー。途中で使っちゃったんだ」

「なにやってるんですか」

「だってー」

 凪はやれやれと手を広げた。

「この調子じゃ、先が思いやられますな」

「凪くんのせいでしょ! 勝手にリーグに入っちゃうんだもん」

 良人さんにつっこまれても、凪は「ん?」と真顔で見返すだけだ。ため息をつく良人さんに、ノノちゃんが胸の前で両手の拳を握って、

「こうなったら押せ押せゴーゴーですよ、良人さん!」

 ノノちゃんのエールを受けて、良人さんは気持ちを切り替える。

「そうだ、いつまでもクヨクヨしてたってしょうがない。いっくぞー」

「みんなおやつよ~」

 ズコーと良人さんがコケる横で、

「はーい」

 と、逸美ちゃんのおやつコールに答える俺たち。

 良人さんがやる気を見せた途端にこれだから、やっぱり良人さんって間が悪い人だ。

「ま、まあ。おやつを食べたあとでもいいよね。英気を養うんだ」

 みんなでおやつを食べているとき、逸美ちゃんが鈴ちゃんに質問した。

「鈴ちゃんは、何レベルくらいでポケモンリーグに挑戦した?」

「あたしは60くらいじゃないですかね」

「さすがね~。わたしのポケモンちゃんたちはみんな育ちが良くて、70レベル以上だったと思うわ」

「逸美さんはちょっと進めるのが遅いからですよ。野生のポケモンとも全部戦って、経験値もたくさんもらってるんですね、きっと」

 これにはノノちゃんも、

「ノノは50いくつでクリアしましたよ。60も一匹いました」

 と、言った。俺もうんうんとうなずき、

「みんなそれくらいだよね。四天王と同じくらいならいけるしね。凪は50いってないのもいたよね?」

「ぼくはレベル上げという作業をせずにクリアすることにしてるんだ」

「しかも進化させなかったりするし」

「いいじゃないか。ぼくはチコリータをベイリーフまでは進化させたけど、メガニウムにはしなかったり、フシギダネも進化させなかったりするよ。しんかのきせき持たせると防御面が優秀になるんだぜ」

「そういえばあたしもチコリータのままでした」

 と、鈴ちゃんは苦笑する。

 二人共チコリータ好きだからな。

 ただし、進化をさせてないでおくと、代わりに経験値が多くもらえて、レベルが上がりやすくなる。進化前の可愛い姿のままでもクリアできるように、こういう工夫もあるのは凪や鈴ちゃんみたいな人には嬉しいことかもしれない。

 良人さんは話を聞いていて、なにか疑問を持ったらしい。おずおずと質問した。

「あのさ、さっきのしんかのきせきってアイテムを持つと、防御が固くなるんでしょ? だったらボクのポケモンにも持たせてよ」

「ダメだよ。意味ないからさ」

「凪くんひどいよ。意味ってなんでさ?」

「進化形を持つポケモンで、最終進化形じゃないポケモンでないと持たせられないアイテムなのさ」

 良人さんはため息をついて、

「せっかくポケモンリーグをクリアするのにいいアイテム見つけたと思ったのに」

「そういう強くなるアイテムはなにかあるかもですし、見てみたらどうですか?」

 俺に言われて良人さんはバッグを確認する。すると、ちょっと攻撃力をアップさせるアイテムとか、持っているとダメージを受けたときに自分で少しHPを回復してくれるきのみというアイテムとかがあった。

「これでちょっとは楽になるね」

「じゃあさっそく挑戦の続きだ」

 これによって、良人さんは二人目の四天王に挑戦した。

 このバトルも苦戦しながら、良人さんはなんとか勝利を収める。

 続けて勢いに乗っている良人さんは、なんとか三人目に勝った。

 ついに、四人目の相手に挑む。

 最初の対面が好相性だったのもあり、一匹撃破。

 相手の二匹目にファイアローがやられるも、フライゴンが頑張って倒してくれて、良人さんは奮闘した。

「さすが四天王最後の一人。やるな」

 良人さんは真剣だ。

 だが、伝説のポケモンが活躍してくれたが相手の最後のポケモンに倒されてしまい、残りはエースのフライゴンと相棒のリーフィアだけになった。

「相手は最後の一匹だ! ボクの手持ちは残り2匹! このまま押し切れー」

 しかし、相手の最後のポケモンに、良人さんのリーフィアが敗れひんしになった。

「ああぁ! リーフィアたん! 愛しのリーフィアたんがひんしになってしまうなんて、許せない! ボクたちの力、見せてやろうぜ、フライゴン!」

 残りは一対一。

 ここで、良人さんは、フライゴン必殺のりゅうせいぐんを炸裂させた。

「爆ぜろ! りゅうせいぐん! ドドーン」

 うるさい口上と共に攻撃して、見事、良人さんは四天王の四人目にも勝利した。

「やったー! やったよ! 勝ったんだ! ボクは長く厳しい戦いに打ち勝ったのだ!」

 はっはっはっはっは、と笑っているが、良人さんは次に出てきた画面を見て、驚きのあまり二度見した。

「え? うそ? なんかまだ対戦があるっぽい感じに見えるんだけど、これってボクの見間違いでいいんだよね?」

 あまりのはしゃぎっぷりに、誰も言えなかったことがある。

 それは、凪が言ってくれた。

「最後にあと一勝負あるよ。それに勝ったら、キミは正真正銘のチャンピオンだ」

「ガビーン!」

 どこか古臭い感じにリアクションをしている良人さんだが、これが四天王を倒したあとにある、最後の最後のラスボスなのだ。

「さあ、勝負してください」

「頑張ってくださいね」

「開くん? ノノちゃん? さっきボクのバトル見てたよね? こっちあと一匹しかいないの、見てたよね?」

「グダグダ言ってないで、いいからやっちゃいなよ」

 凪がポチッとボタンを押して、バトルが始まった。

「うわぁぁぁぁ! ダメだよ、凪くん! まだ回復させてないんだってばー」

 とうとう始まったラストバトル。

 ラスボス相手に、良人さんはまず他の手持ちのポケモンを生き返らせることから始めた。数体だけ生き返らせ、そのメンバーで戦う。

 しかし、生き返らせることにも1ターン使うから、どうしても準備万端とまでは整わない。

「どうしてくれるんだよ、凪くんったら」

「まあまあ。どうせ負けるんだから当たって砕けろナマケロで」

「あ、ナマケロって知ってる。ナマケモノみたいなポケモンなんだよね! って、砕けちゃダメだよ」

 ノリツッコミしながら始まったバトルは、本当に苦戦を強いられている。

 ラスボスのトレーナーだけは、どのシリーズでも大抵がタイプ統一じゃない。

 つまり、色んなタイプのポケモンで攻めてくるので、相性で有利などれか一匹のポケモンだけで押し切れるとは限らないのだ。

「良人さん、あとどれくらい回復アイテムありますか?」

「ええと、もうないや。これはいよいよヤバくなってきたぞ」

「ヤバイのは元から」

 と、凪が横から口を挟んでも、良人さんは真剣でつっこむ余裕もない。

 伝説のポケモンとフライゴンの活躍で、ようやく残り2匹まで追い込んだ。逆に良人さんの手持ちはまたフライゴンとリーフィアだけだ。

「こ、これで、残り2対2。リーフィアたんとフライゴンだけ。どうする……!」

「次回に続く」

 凪が締めの一言を言うが、良人さんは凪の腕を取ってしっかり隣に座らせた。

「させないよ! 凪くんも一緒に考えてよ。ボクは勝ちたいんだ」

「ここまで頑張ったんだから勝っても負けてもいいじゃない」

「よくない!」

 はあ、とため息をついて、凪は良人さんに言った。

「わがままだなぁ。しょうがないからアドバイスをしてあげよう」

「頼むよ。それで、作戦は?」

「幸い、相手の残りのポケモンは両方物理型。リーフィアは物理方面の耐久が高い。これをうまく生かして、フライゴンのりゅうせいぐんからのとんぼがえりをして、リーフィアで受ける。できればとどめも刺す。それだけでなんとかなるかもよ」

「す、すごいよ凪くん! こんな一瞬でそこまで考えるなんて。確かに、りゅうせいぐんって強い大技だけど、代わりに、攻撃したあと自分の攻撃力が下がるんだよね」

「特殊のね。でも、一度交換して場から下がれば、また下がった能力が戻る。これをうまく利用する。普通、交換をするとそれだけで1ターン使ってしまうけど、とんぼがえりは相手に攻撃をしながら交換できる優秀な技だからね、組み合わせれば結構強いよ」

 凪の作戦を聞き、良人さんは俄然やる気になった。

 そして、凪の言った通りの動きをして、まずは一匹を倒す。

「いいぞ! これならいける!」

 相手の最後の一匹。

 これもフライゴンから攻撃をする。

 次のターン、とんぼがえりをして、味方のポケモンと交換したかったが、相手にりゅうせいぐんを撃ったあと、攻撃されてひんしになってしまった。

「ど、どうしよう凪くん」

「大丈夫。りゅうせいぐんはできたんだから、あとはリーフィアで削る」

「よし、泣いても笑ってもこれがお互い最後のポケモン。ボクはリーフィアたんを信じるよ。いくぞー!」

 気合を入れて、良人さんはリーフィアで攻撃。

 だが、相手は思ったよりHPが減らずあとちょっとのところで持ちこたえられた。

 次に相手が攻撃するも、これは物理方面の耐久があるリーフィアは半分以上も残して耐えてくれた。

「キター! これは勝った! 勝ったよね!?」

 確かに、盤面を見れば次のターンも攻撃できるのはリーフィアが先。ダメージもさっきと同じくらい入ったとして、HPを削り切れる。対して、相手はもう一回攻撃したところで、リーフィアには全然持ちこたえられてしまう。

「良人さん、これはやりましたよ!」

「おめでとうございます!」

 俺とノノちゃんの言葉に、良人さんは感激のあまり涙ぐんで、

「ありがとう。ボクはやり遂げたんだね」

「厳密にはまだ終わってないけどね」

 とつぶやく凪。

「でもすごいじゃないですか。ちょっと早いけどおめでとうございます」

 鈴ちゃんも対戦が終わる前だがお祝いの言葉を述べた。

「よかったわね、良人さん。おめでとう」

 逸美ちゃんにもおめでとうを言われて、良人さんは涙を拭ってニッと笑った。

「みんな本当にありがとう! じゃあ、サクッと勝っちゃうよ。リーフィアたん、とどめのリーフブレード!」

 これで、良人さんもクリアか。

 思えばここまで、短いようで意外と長かったな。

 そのときだった。

 良人さんは急に頭を抱えて身体をくねらせた。

「オー! ノー! なぜ? なんで!? ホワイ!? なんでこんなときに! リーフブレード外れちゃダメでしょ!」

「……」

 俺たちは言葉を失う。

 そして、俺が画面に目を落としていると、相手の攻撃が急所に当たった。

「ヤバイ! ヤバイ! 耐えろ! 耐えろ! 耐えたー!」

 ギリギリ耐えた。すごい。

「よーし!」

 と、良人さんは叫んでいる。

 俺たちは良人さんのバトルに釘付けになった。さっきまでそれほど興味なさそうだった逸美ちゃんと鈴ちゃんも見ている。

 みんなが「はあ」と安堵のため息をついたところで、良人さんは緊張でぷるぷる震えた指でボタンを押す。

「当たって! リーフブレード! 当たって! お願い! 頼む!」

 どうだ?

 全員が見守る中、リーフブレードは――

「よーし!」

 良人さんガッツポーズ。

 リーフブレードは命中した。

 これで、相手のラスト一匹のポケモンが倒れた。

 よって良人さんの勝利となった。

「今度こそやりましたね」

「本当にすごかったです」

 俺とノノちゃんも力が抜ける。

 逸美ちゃんはおかしそうに片方の手で頬を押さえて、

「こんなギリギリな戦いをするなんて、良人さんも好きね~」

「ボクも好きでやってるわけじゃないよ。本当はサクッと勝ちたかったんだ」

「なんだかこっちが疲れちゃいました」

 鈴ちゃんはただただ驚きつつ安堵のため息を漏らす。

 最後に凪が、良人さんの肩に手を置いた。

「凪くん」

 と、良人さんが凪を見上げると、凪はうなずいて言った。

「良人さん、ポケモンリーグに挑戦するときは、計画的にね」

「オメーのせいだろ!」

 俺と良人さんはそろって凪につっこんだ。

 それからため息をつき、良人さんは脱力して微笑んだ。

「けど、凪くんのおかげでクリアできたから、まあいっか」

 こうして、良人さんはポケットモンスターのメインストーリーをクリアしたのだった。


つづく

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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