色違いのポケモンが欲しい 後編

 良人さんが聞いた。

「色違いのポケモンって、どうやってゲットするの?」

 俺は指を二本立てる。

「主に2パターンあります。野生の色違いのポケモンと遭遇するか、タマゴから孵すかです」

「タマゴ? 確か、ポケモンを預かってくれるとところで、タマゴが発見されるって言ってたよね? ボクのイーブイもそこでもらったタマゴから生まれたし」

「そうです。そこでタマゴをもらって孵化させるんです」

「それで、どっちでやるのがいいの?」

 良人さんの質問に答えるには、ちょっと難しい部分もある。

「一概にどちらがいいとか簡単とか言えないんですが、俺はタマゴから孵化させました。少年探偵団のメンバーはみんなそのパターンですよ」

「なんで?」

「ポケモンには、性格ってありますよね?」

「ボクのリーフィアたんはがんばりやなんだ」

「その性格によって、伸びやすいステータスがあるんですけど、そのポケモンに合った性格にするとポケモンバトルが有利になるんです」

「なるほどね」

 ざっくり言うとこんな感じ。

 実際、すばやさの低いポケモンの場合、すばやさは気にせず攻撃力を伸ばす性格や防御を伸ばす性格にすることが多いが、逆にすばやさを伸ばす性格にして相手より早く攻撃できるようにすることもある。育て方によるからなんでも一概には決められないのだ。

「それで、野生のポケモンだと絶対に同じ性格にするっていう方法はないので、確実に性格を固定させることができるタマゴの孵化がオススメなんですよ」

「そういうことか。じゃあボクもタマゴの孵化でやってみるよ」

 元々のバトル施設で勝ちたいって話からは脱線してしまったが、ポケモンの楽しみ方はバトルだけじゃない。色違いの可愛いポケモンを集めるのが好きだって人もいるし、良人さんがやりたいことをやるのが一番だ。

「じゃあタマゴの孵化について説明しますね」

「よろしくね」

 一応、ストーリーを進めていればポケモンのタマゴについても説明があるけど、もう忘れているかもしれないし、いろいろとかいつまんで教えてあげた。

 良人さんは人差し指と親指を丸めて、オッケーサインを作った。

「オッケー。わかったよ。ありがとう」

「いえ。良人さんはどのポケモンで色違い作るか決めたんですか?」

 俺の質問に、良人さんは待ってましたと言わんばかりにニヤリとしたが、もったいぶって口の先をとがらせた。

「いまは秘密さ~。みんなをびっくりさせたいからね」

「そうですか。じゃあ楽しみにしてます」

「ノノも楽しみにしてます」

 俺とノノちゃんの言葉に、満足そうにうなずく良人さん。

「ボク頑張るよ。ちなみに、性格ってどのポケモンだとどれがいいの?」

「それも一概には言えないんですよ」

「あいまいだなぁ」

 困った顔の良人さんに、俺は丁寧に説明してやる。

「だって、ポケモンってそのポケモンだけでも色んな技覚えるでしょ? ピカチュウに10まんボルトを覚えさせる人もいるし、ボルテッカーを覚えさせる人もいますからね。人によってどんな技を使う、どんな動きをするポケモンに育てるかは千差万別ですから」

「つまり、そのポケモンを育てたトレーナーの数だけのポケモンがいるから、人それぞれ好きな性格でいいってことだね?」

「はい。飲み込みが早いですね」

「ふふん。そうだろう? あははは」

 褒めるとすぐ調子に乗るんだから。

「自分だけのポケモンを育ててくださいね、良人さん」

 ノノちゃんの声援に、良人さんはやる気に満ちた顔で答える。

「任せといてよ」

 俺はひとつ補足する。

「ポケモンのサイトを見て、どういうポケモンにしたいか考えるのも手ですよ。たとえば、『リーフィア 育成』とかで検索かけるだけですぐに見つかります」

「そういうのもあるんだ」

「まあ、その辺は凪に聞いてみてもいいですし。むしろ、育てたいポケモンだけ決めて凪にどの性格がいいか聞くといいかもしれませんね」

「ナイス。それいただき」

 パチン、と指を鳴らして、良人さんは立ち上がった。

「ごめんね。ボクこのあとバイトがあるんだ」

「大変ですね」

「だから先に帰るね。色違いの孵化作業、頑張るよ!」

 急いで出ていこうとした良人さんだったが、ちょうど探偵事務所のドアを開けたとき、凪がやってきたところだった。

「やあ。良人さん」

「凪くん。キミ、色違いはなに持ってるの?」

「いや~、このパーカーはこのブルーしか持ってないって」

 良人さんはズコーっとこけた。

「違うよ! 色違いのポケモン!」

「なんだ、それならそうと言ってよ。ぼくに憧れるあまりお揃いのでも買うのかと思ったじゃないか。よかったー」

「そんなにあからさまにホッとしないでくれる?」

 本当に嫌だったとでもいう調子の凪と、ジト目で凪を見る良人さん。

 ずっと急いでいるからかずっと足踏みしている良人さんに、凪が教えてやる。

「ぼくはブラッキーの色違いを持ってるよ」

「なるほど。そうか。ライバルだね! じゃあまたね! ちょっと今夜色々聞くかもだけど、あとでいいもの見せてあげるよ!」

 飛び出していく良人さんの背中を見て、凪は不思議そうにつぶやく。

「なんだ? 忙しい人だなぁ」

 凪は俺に振り向いて聞いた。

「良人さんいいもの見せるなんて言ってたけど、なんか一発芸でも練習してるの?」

「だから違うっつーの」

「えー。良人さんに卑猥なものでも見せられるとかー?」

 と、かなり嫌そうな顔をする凪。

「んなわけねーだろ。色違いのポケモンを作るんだってさ」

「へえ」

「今日みんなが色違いのポケモンを持ってるって話聞いて、俺たち四人の色違い見たら絶対欲しいって言ってさ。孵化の方法とか教えたんだよ」

「良人さんのことだからひかるおまもりは持ってないとして、海外産のポケモン持ってるのかな?」

「まあインターネット繋げば海外のポケモンと交換できるんだし、ノノちゃんに交換の方法とか教わってたから大丈夫でしょ」

 ちなみに、凪の言うひかるおまもりというのは色違いでやすくなるアイテム。図鑑を完成させるともらえるのだ。また、海外産のポケモンと国内産のポケモンを掛け合わせて生まれたポケモンは色違いが生まれやすい。

「ねえ、開。良人さんはなんのポケモンで色違い作るのかな?」

「さあね。見てからのお楽しみだって」

「ふーん。なんでもいいや」

「おい」

 色違いを作るのは簡単じゃないけど、まあ楽しみに待っていよう。

四日後。

良人さんは探偵事務所にやってきた。

「みんないる?」

「あ、良人さん」

「いらっしゃい」

 ノノちゃんと俺が出迎える。

 いま探偵事務所にいるのは、他には逸美ちゃんと鈴ちゃんだけだ。

 また凪は今日に限ってまだ来ていない。

「そっか。凪くんはまだいないのか。見せたかったんだけどなぁ」

「見せたかったってことは、良人さん色違いゲットできたんですか?」

「もちろんだよ!」

「わーい。おめでとうございます」

 ノノちゃんはパチパチパチと拍手した。

「おめでとうございます。それで、どのポケモンにしたんですか?」

「あたしも気になります」

「わたしも~」

 鈴ちゃんと逸美ちゃんも良人さんの周りに集まった。

 和室に上がって、良人さんはゲーム機を取り出した。

「これさ」

 良人さんが見せてくれたのは、色違いでもなんでもないポッポだった。

「え?」

 俺たち四人の目が点になっているのに気づき、良人さんは慌てて操作する。

「あわわわ。ごめんごめん、間違えた。これさ!」

「おー!」

「可愛いですね!」

「すごいですね」

「やる~」

 俺、ノノちゃん、鈴ちゃん、逸美ちゃんのリアクションに、良人さんも満足したようだ。

「色違いのイーブイだったんですね」

「そうだよ。すっごく大変だったんだから。この四日、あんまり寝てないくらいだよ。軽く3000匹は孵化したね~」

 確かに今日も良人さんの目の下にはクマができている。

「ていうか、海外産使わなかったんですね」

 海外のポケモンを使って孵化させると、多くても1000匹くらいで出るはずなんだけど。

「普通にイーブイっていうのは意外でした」と鈴ちゃん。

「そう? ボクといえばやっぱりこれでしょ!」

 俺はハッとした。

「え? 良人さん……ボクといえばって……まさか……」

 良人さんはなにやら操作し始めた。

「よーし! リーフィアたんに進化だ!」

「ちょっと良人さん、その色違いは――」

 しかし、良人さんに手で制される。

「チッチッチ。野暮なことはやめてくれ。自分で見てみたいんだ。あえて色違いのリーフィアたんをネットで検索せず、このときの感動のために頑張ったんだから」

「でも」

 今度は鈴ちゃんが言おうとするが、良人さんはまた手で制した。

「リーフィアたんがどんな色になるか楽しみにしてるんだから、絶対言わないでよね。この目でしっかりと見るんだぁ」

 こうなったらしょうがない。

 好きにさせてやろう。

「いっけー! リーフィアたんに進化だー!」

 BGMが鳴って、イーブイが進化を始める。

 そして。

 イーブイはリーフィアに進化した。

「えー! なんでー!」

 良人さんは驚愕の声を上げた。

 無理もない。

「どうして進化した途端、色違いじゃなくなっちゃったんだー!?」

 言いにくいが、俺は教えてあげる。

「ちゃんと色違いですよ」

 だが、良人さんは信じてくれない。

「いや、待って開くん。これ絶対色違いじゃないよね? ボクにはなにからなにまで同じに見えるんだけど」

「色がちょっと濃いか薄いかの違いはありますし、バトルに出たとき星のエフェクトも出るから……」

 俺がフォローをしてあげるが、聞こえていないらしい。

「わ、わかりにくくても、愛が大事ですよねー」

 わざとらしくはあるけど、鈴ちゃんも精一杯のフォローをする。

 逸美ちゃんは「あら~」と困ってしまい、ノノちゃんも言葉が出てこない。

 そのとき、探偵事務所のドアが開いて凪がやってきた。

「やっほ~。みんな元気~?」

 トコトコ歩いてきて、凪は良人さんのゲーム機に視線を向ける。

「あ、ポケモンやってるの? どれどれ?」

 良人さんのゲーム画面をのぞき込み、色違いのリーフィアを見て、凪は興味なさそうに言った。

「ああ、色違いのリーフィアか。でも、なんでよりにもよってこんなわかりにくいの作ってるんだ? マニアだな~」

 通り過ぎて和室に入り、凪は自分のゲームを開いた。

「やっぱり、色違いはこうでなくちゃ。ね、ブラッキー」


つづく

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

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