ポケモンセンターへリベンジ 小学生との戦い

 良人さんがポケットモンスターのゲームを始めるようになったきっかけは、ノノちゃんをポケモンセンターに連れて行ったことだ。

 そこで凪に買うように勧められたのだった。

 今日は、そのきっかけの場所でもあるポケモンセンターへとやってきた。

 目的は、ポケモンセンターで配布されるポケモンを受け取るためである。

「やっと、ボクも最初に受け取れなかったポケモンを受け取れるんだね」

 意気軒昂な良人さんに、俺から残念な報告がある。

「あのとき配布されていたポケモンは、配布期間終了しましたよ」

「えー! うそ」

「本当です。いまはまた別のポケモンになったんです」

「結構サイクル早いんだね。ついひと月くらい前だったと思うのに」

「期間が短いときもあれば長いときもあるんですけどね。今回はちょうどその切り替え時期だったんですよ」

「そっか~。残念。がっくり」

 落ち込む良人さんの肩に手をやり、凪が励ましの言葉をかけてあげた。

「気にするなよ。今日受け取るポケモンだって珍しいポケモンなんだから」

「そ、そうだよね! 楽しまなくちゃ損だ」

 この日いっしょに来たメンバーは、俺と凪、逸美ちゃんと鈴ちゃん、ノノちゃんと良人さんの六人だ。作哉くんは用事があるとかで来られなかった。

 さっそくポケモンセンターに入ると、俺と鈴ちゃんとノノちゃんはゲーム機を取り出した。

 最初にポケモンを受け取ろうとしている俺たち三人の横で、凪と逸美ちゃんと良人さんはポケモンのぬいぐるみに目が行ってしまい、手に取って喜んでいる。

「これいいね」

「そうね~。デフォルメされてて可愛いわ」

「せっかくだし、ボクもなにか買っちゃおうかなー。あはは」

 と、褒められたわけでもないのに、浮かれてテンションが上がる良人さん。

 俺はそんな三人に呼びかけた。

「三人共、早くポケモン受け取ったら?」

「はーい」

 逸美ちゃんが返事をして軽やかに俺の隣まで来る。

 良人さんは頭の後ろをかきながら、

「そうだ。ポケモンを受け取りに来たんだった」

「やれやれ。良人さんったら年甲斐もなくはしゃいじゃって」

「凪くんも一緒に見てたでしょ」

 良人さんと凪も戻って来て、ゲーム機を取り出す。

 ゲームを起動すれば、電波をキャッチしてポケモンを受け取ることができる。「ポケモンを受け取る」のボタンを押して、みんなポケモンを受け取った。

 俺はみんなに向き直って、

「さて。じゃあみんなで色々見て回ろうか」

「賛成ー」

 と、ノノちゃんと逸美ちゃんが手を挙げた。

 店内を見て歩くと、この前来たときとは商品がだいぶ変わっている。

 常に新しいグッズが出ているので、新商品として出ているもの以外で欲しいものがあったらネットのオンラインストアでも買い物ができる。

 見ていると、良人さんがリーフィアのグッズに目をつけた。

「これは! リーフィアたん!」

 うわ……。たんとか言わないでよ、恥ずかしい。あんまりいっしょにいるのを周りの人に見られたくないな。

「会いたかったよー!」

 と、良人さんはリーフィアのぬいぐるみを手に取ってスリスリするマネをした。

 ノノちゃんがそれを見て目を輝かせて、

「リーフィア可愛いですね」

 それに比べて凪は、冷めた目で良人さんを見る。

「あーあ。そんなにしちゃって。他に買う人がいたら可哀想だから、それは良人さんが買ってね」

「え……。ボク実際にスリスリはしてないけど……。うん、わかったよ」

 まずは良人さんの買う商品が一つ決まった。

 イーブイの進化形はみんな好きだから、俺たちもそれぞれに好きなイーブイたちを見る。

「このグレイシア欲しくなっちゃいます。でも、似てるの持ってるしなぁ……」

 鈴ちゃんは買わないらしい。

 逸美ちゃんとノノちゃんも迷っていたが、とりあえず保留ということになった。

 他にもいろんな商品を見て周り、凪と逸美ちゃんとノノちゃんが三つずつ、俺と鈴ちゃんが一つずつ、買う物を決めた。そして、良人さんに関しては六つも買うらしい。

 お会計はみんなまとめてすると、何円お買い上げごとにクリアカードをもらえる、などその時期によって特典があるので、みんなの分を誰かがまとめて買いに行くことになった。

 良人さんは腕を組み、悩み顔で聞いた。

「どうやってお会計する人を決めようか。誰が行くのか……あれ?」

 みんなの視線が良人さんに集まっていることに、良人さんは気がついた。

「なんだい?」

「ありがとうございまーす」

 と、凪が良人さんの持っているカゴに自分の分を入れたのを皮切りに、みんなも良人さんのカゴの中に入れていった。

「よろしくお願いします」

「すみません、あたしのは一つだけですから」

「わたしは三つ~。よろしくね」

「ノノ、あとでお金はお返しするので」

 良人さんは最初こそ「えー」という顔をしたものの、諦めたようだ。

「そうだよね。ボクの物が一番多いし、一番年長だもん、妥当だよね。あと、ノノちゃん」

「なんですか?」

「お金は返さなくていい。今回はノノちゃんに買ってあげるよ。いつもいろいろ教えてくれたり、遊んでくれたり、お世話になってるお礼さ。小学生の女の子からお金は受け取れないよ」

 受け取るもなにも、貸してたものを返してもらうだけだろ。まあ、お世話になってるのは本当だし、好意はありがたく受け取るのが一番だ。

 俺たち五人は声をそろえて言った。

「ありがとうございます」

 良人さんは慌てて身体の前でブンブン手を振った。

「違う! 違うから! 買ってあげるのはノノちゃんの分だけ。キミたちのは買わないよ。いくらになると思ってるの」

「ぼくたちは、良人さんにとってはお世話になってるとか、一緒に遊んでるとか、そういう風に思われてなかったの? ぼくだけが、良人さんを友達と思ってたのか。はあ……」

 わざとらしく大きなため息をつく凪。

「な、凪くん? キミに関してだけは、ボクはいつも遊ばれてる感じがするんだけど……」

 と、良人さんがリアクションに困っていると、みんながどこかへ行ってしまう。

「あれ? なんでみんな商品をボクのカゴに入れたままどこか行っちゃうの?」

 そろそろとみんながどこかへ行くのを見て、良人さんは決心した。

「わかった! わかったよ! もう今日は出血大サービス! 特別にみんなの分もボクが買ってあげるよ」

 そう言った途端、みんなが戻ってきた。

「なんかすみません。ありがとうございます」

 俺がお礼を言うのに続けて、逸美ちゃんもニコニコと微笑む。

「悪いわね~。ありがとうね」

「あたしは自分の分くらいは自分でと思ってたんですが、そこまで言っていただけるなら、お言葉に甘えようと思います。ありがとうございます」

 鈴ちゃんがそう言うと、凪もケロッとした顔で、

「良人さん、ぼくは信じていたよ。ありがとう。ぼくは良人さんのそういう、人のいいところが好きだぜ」

「人がいいじゃなくて、いい人って言ってよ!」

 良人さんのつっこみを聞き流して、凪はカゴにひょいとなにやら入れた。

「なに? 凪くんの分はもう入ってるよね?」

「追加。あとひとつ買おうと思ってた物を持ってきたんだ」

「俺はこれとこれです」

「あたしはこれとこれですからね」

「わたしはこれだけにしておくわ」

 凪、俺、鈴ちゃん、逸美ちゃん、とカゴに追加商品を入れて、最後にノノちゃんも戻ってきた。

「すみません、選ぶのに迷っちゃいました。ノノはこれにします。作哉くんへのお土産です」

「ノノちゃんまで……。みんなどこか行っちゃったと思ったら、それ探してたのね。わかった、わかったよ。今回だけだからね。本当の本当に、今回だけだからねっ!」

 良人さんは涙を流しながら、お会計の列に並んだ。

 俺はみんなに向き直って、

「まあ、冗談はこれくらいにして、このあとちゃんと良人さんに謝ってお金も返すんだよ。いいね?」

「わかってます」

 と、鈴ちゃんも苦笑する。

「そうだね。ぼくの分くらいなら、良人さんにとっても痛い出費にはならないしね」

「おまえのが一番かかってるだろうがっ」

 凪の耳を引っ張って、俺たちは店の外へ出た。

 レジの出口は店の外へと出るので、俺たちは店の外の出口横で待っていた。

「お待たせー」

 無事にみんなの分の商品を買ってきた良人さんが嬉しそうに出てきた。

「嬉しそうですけど、なにかあったんですか?」

「聞きたい? しょうがないなー。実はさ」

 と、お調子に乗ったしゃべり方をして、良人さんはおまけのクリアカードを見せてきた。

「どう? これ。五つもあるんだ」

「へえ。いいじゃないですか」

 鈴ちゃんがその中のひとつに注目する。

「あら~。いいじゃない」

 みんなそれぞれに欲しいカードは違うようだけど、ここで凪が言った。

「それで、誰がどのクリアカードをもらう? ちょうど五つだから、ぼくたち五人で分けるのがいいと思うんだ」

「よくなーい! お金を出したのはボクなんだから、これは全部ボクのだよ」

 良人さんはここで、袋から商品を取り出した。しかもそれぞれが小さな袋に入って分けてある。

「これは開くん。これは逸美さん。こっちは鈴ちゃん。それで、これがノノちゃん。作哉くんのお土産はこっちね。で、最後に凪くん」

 思わず俺は質問した。

「もしかして良人さん、お店の人に頼んで分けてもらったんですか?」

「まあね。並んでるお客さんもいっぱいいるし、本当はそういうのはやってくれないと思うんだけどさ」

「やっぱり良人さんはいい人だね」

 凪が褒めると、良人さんは腰に手を当てて、

「だからボクはいい人じゃなくて人がいい……じゃないか。合ってる」

「自分で言っちゃったよ」

 凪がぼそりと言うと、良人さんと凪は一緒になって「あっはっはっは」と笑っていた。

 それから、俺たちはちゃんとかかった分のお金を良人さんに返したのだが、クリアカードは良人さん以外の五人で分けることになった。

「いいんですか?」

 俺が尋ねると、良人さんは笑顔でうなずく。

「いいって。元々ボクが買ってあげるところだったんだからさ。それをちゃんとみんなもお金を出してくれたんだから」

「本当にいい人ですね」

 ということで、俺たち五人でクリアカードは分け合った。だけど、俺の好きなポケモンはいなかったから、そっと良人さんの袋に入れておいた。

 そのとき、小学校三、四年生くらいの小さな男の子が通りかかった。

 良人さんが自分のゲーム機を取り出して、受け取った配布ポケモンをにやにや見ていると、男の子は良人さんにしゃべりかけた。

「おじさん、ポケモンやってるの?」

「え? おじさんってボク? ボクはおじさんじゃないよ。まだ二十歳なんだ。優しいお兄さんっ」

「それで、やかましいおじさん、ポケモンやってるの?」

「だからやかましいじゃなくて優しいお兄さんだってば。ポケモンはやってるよ。なかなか強いんじゃないかな」

 男の子は生意気そうにニヤリとして、

「ふーん。じゃあ勝負しようよ。おれ、きっとおじさんより強いよ」

「なんだと? ボクだって頑張ってポケモン育てたんだ。負けないよ」

「大人はいつも口だけだからな」

「そんなことないよ」

 凪がこっそり俺にささやく。

「小学生相手にムキになってる」

「そう言ってやるな。生意気なあの男の子も悪い」

 男の子は最初に、こう言った。

「負けた方が勝った方になんでも好きなポケモンをあげる。いい?」

「上等だよ。ボク負けないからね」

 かくして、売り言葉に買い言葉で、良人さんのポケモンバトルが始まった。

「へえ。キミ、じゅんたくんっていうんだね」

「そういうおじさんはよしおっていうんだ。よろしく、よしお」

「く、くそう」

 本当は良人なのに、主人公の名前はよしおになってしまったから、じゅんたくんにはよしおと呼ばれてしまっている。だが、それを言ったらさらにバカにされるから言えないで悔しがるおまぬけな良人さん。

 じゅんたくんは生意気だし、良人さんには頑張ってもらいたいところだ。ただし、良人さんが勝利して調子に乗ったらすぐに注意するけど。

 さて、良人さんはフライゴンを繰り出す。

 対するじゅんたくんはミミッキュを出した。

 最初はフライゴンがとんぼがえりをして、リーフィアに代わる。ここでの対面は、ミミッキュが制した。

 続いて、良人さんは伝説のポケモンを出して、ミミッキュを倒す。

 今度はじゅんたくんも伝説のポケモンを出し、良人さんの伝説のポケモンを接戦の末なんとか倒した。

 最後にまたフライゴンが出て、じゅんたくんの伝説を倒すと、じゅんたくんの最後は幻のポケモンだった。

「これでおれの勝ちだ」

 そう言って、じゅんたくんの幻のポケモンの必殺技で、良人さんのフライゴンは敗れてしまった。

「そんなー。ボクのポケモンが」

「イーブイの進化形みたいな弱っちいポケモン使ってるから勝てないんだ」

「なんだとぅ!」

 良人さんが大人げなく腹を立てているが、イーブイの進化形が好きで使っている俺たちみんなも、これにはちょっぴりカチンときた。

「よしお」

「な、なんだよ?」

「でも、結構やるじゃん」

「そ、そうかな? キミも強かったよ。うん。あはは」

 小学生に褒められてもすぐにお調子に乗る良人さん。

 じゅんたくんはそんな良人さんにビシッと指差した。

「でも、約束は約束。さっき使ってた伝説、もらうね」

「ちょっとあれは勘弁してよ。一匹しか捕まえられないのに」

「そんなの理由にならないよ。じゃあ交換ね」

「……はい」

 こうして、良人さんは負けて伝説のポケモンを交換する羽目になってしまった。ただ、ソフトのパッケージにもなっている伝説のポケモンではなく、一般的に準伝説と言われるポケモンだ。禁止級の強さの伝説のポケモンに比べ、対戦で使ってもいいということから準伝説のほうが欲しいという人も多いけど、一緒に冒険した伝説のポケモンは取られずに済んだ。

「よしお以外のみんなも弱そうだからなんか交換してあげようと思ったけど、おれもヒマじゃないんだ」

 生意気なことを言うしつけのなってないじゅんたくんだが、俺たちは大人なので言い返さなかった。ノノちゃんだけは悔しそうでちょっと怒っていたけど。

 そんなノノちゃんに凪がケロッとした顔で、

「まあ気にするなよ」

「でも……」

 凪を見上げるノノちゃんの頭を、凪はポンポンとした。

 じゅんたくんは手を挙げて、

「じゃあね。よしお。おれのコラッタ、ちゃんと育てろよ」

「育てないよ!」

 そして、じゅんたくんはポケモンセンターの中へと走って行った。

 良人さんはため息をついた。

「とほほ。ボクの伝説のポケモンが、レベル2のコラッタになっちゃったよ」

「まあ、そう落ちこぼれるなよ」

 と、凪が良人さんの肩に手を置いた。

「凪くん、それフォローになってないから。ボクは落ちこぼれじゃないから」

「でも大丈夫。あれくらい、すぐに交換してもらえるよ。ほら、ちょっとやればこれくらいは交換してもらえるぜ」

 と、凪が自分のゲームのボックスを見せた。

「え、なんで四匹もいるの? うわ、こっちは五匹もいる」

「全部交換用だけどね」

 しかしまあ、良人さんもいい勉強になっただろう。

 ノノちゃんが良人さんの袖を引いた。

「良人さん、ノノあんまりあのポケモン使ってないから、どうしても欲しいならあげますよ」

「いや、いいんだ。それじゃノノちゃんに悪い。ボク、もっと強くなれるように頑張るよ。さっそく帰って特訓だ」

 凪もうんうんとうなずいて、

「終わりよければすべてよし」

「どこが!」

 と、つっこむ良人さん。

 俺は「あはは」と苦笑いを浮かべたあと、みんなに言った。

「それじゃあ帰ろうか」


つづく

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

0コメント

  • 1000 / 1000