ポケモンの番組に出た おまけ

 ノノちゃんと良人さんがポケモン番組に出演したテレビが放送された数日後。

 俺が探偵事務所に向かって歩いていると、あからさまに怪しい人影を見つけた。

 サングラスとマスクをした男の人で、ジャンパーを着ている。

 通報するべきだろうか。いや、まだなにもしていないしな。一応、ポケットに手を入れてスマホをいじり、いつでも電話できる準備をした。

 そのとき。

「やあ。開くん」

 怪しい男に声をかけられた。

 でもこの声、聴いたことあったような……。

「……」

 俺が観察するように怪訝な目を向けると、その人はサングラスとマスクを取った。

「ボクだよ、ボク」

「あっ、良人さん」

 なんと怪しい人物は良人さんだった。

「どうしたんですか? その恰好」

「いや~。ボク、この前テレビに出ちゃったでしょ? サインを求められたり騒がれたら困るからね。変装さ」

「変装っていうか……」

 ただの変な装いだ。怪しい。

「ふふん」

 と、嬉しそうに鼻を鳴らして良人さんはまたサングラスとマスクを着用した。

「あの人……」

 子供が良人さんを見て指差し、怯えるように通り過ぎていった。

 それを見て、なにを勘違いしたのか良人さんは誇らしげに言った。

「変装しててもバレちゃうか~。ボクも有名になっちゃったな~」

「なんか違うと思いますけど……」

 すると、急に後ろから声がした。

「あっちです!」

 ん? この声も聴いたことがある。凪か。

 振り返ると、凪がお巡りさんを連れてきたところだった。

「怪しい人がいます。あ、ぼくの大親友が怪しい人に襲われている!」

「なんだって! あいつか!」

 良人さんはお巡りさんたちの声を聞いて、びっくりした顔になる。

「え? 大人にもボクのファンがいるの?」

 しかし、そうではないことくらいすぐにわかるはずなのだが、まだ良人さんはわかってないようだ。

「怪しいヤツめ、いますぐその子から離れなさい!」

「開、大丈夫? ケガは?」

 お巡りさんと凪の登場に、俺は困り顔で答える。

「うん。全然。ていうか、この人は……」

「ちょっと来てもらおうか」

 お巡りさんに言われて、良人さんは自分を指差す。

「え? ボク?」

「おまえ以外に誰がいるんだ。ちょっといっしょに来て、いろいろと書いてもらわないとな」

「サインとか? 参ったな~」

「は? なにを言っている! 署まで来て調書を書くんだよ」

「なんで?」

「なんでじゃない! その子に乱暴をしようとしていただろ!」

「違うよ。ボクは開くんの友達だし、そんなことしないよ」

「嘘つくな! 怪しいヤツめ。いいからこっちに来なさい」

「そんなー。開くん、凪くん、説明してよー」

 おバカなやり取りをしている良人さん。

 まずはさっさとサングラスとマスクを外してくれ。

 凪はいまさら良人さんの存在に気づいた。

「あ、あれ……? あの人、良人さんだったの?」

 俺は大きくため息をついた。

「おい、凪。あれどうする気だ?」

 凪はそっぽを向いて、口笛を吹く。

「えーっとー……。ぼく、知―らないっ」

 バッと走り出したトラブルメーカーを追いかけて俺は言った。

「こら待てー! なーぎぃー!」


つづく

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