ポケモン図鑑を完成させよう

 ゲーム・ポケットモンスターには、地方ごとにポケモン図鑑というものがある。

 ポケモン図鑑はその地方に生息するポケモンが載っている図鑑なのだけど、自分で見つけたポケモンしか図鑑に記録されないし、自分で捕まえたポケモンしか図鑑にその詳細が登録されない。

 つまり、ポケモン図鑑は自分で埋めていくものなのである。

 自分で図鑑を埋めていく作業も楽しいから、コレクションが好きな人には向いているかもしれない。

 ただ、俺は自分の力だけではちょっと大変なので避けていた部分でもあった。

「凪は図鑑埋めてるんでしょ?」

 こう見えて意外と、凪は地道な作業もできるタイプなのだ。

「もう少しさ」

「すごいじゃん! あとどれくらい?」

「あと六匹」

 見せてもらって、その完成度に驚いた。

「おお! あ、これは俺も持ってるな」

「本当かい? じゃあ登録させておくれよ」

「オッケー」

 ポケモン図鑑は、人と交換したポケモンでも、一度自分の手元に来たポケモンなら登録されるのだ。また、そのポケモンを他の人にあげても図鑑のデータからは消えない。

 さっそく登録を済ませると、俺は凪に聞いた。

「ねえ、それ俺にも登録させてよ」

「いいよ。ぼくに送るのはなんでもいいから」

 ということで、俺は凪のポケモンを登録させてもらう。

 さらに、「あ、これとこれも」と交換していたら、凪に言われた。

「開っていま図鑑は何%まで来た?」

「いまので78。せっかくだからさ、他の登録していい? 俺が自分でやるから」

「自分でやるならいいぜ。ぼくはちょっと調べモノがある」

 凪の許可も得られたところで、俺は次々に図鑑を埋めていく。単純に、凪のところから俺のところにポケモンを移し、経由したらまた凪に戻すという作業を繰り返した。

 そしてついに、俺の図鑑もあと八匹まできた。

「凪、ありがとう。あと八匹まできた」

「キミはやるときはやるやつだね。さすがのぼくもぶったまげて爆発しそうだよ」

「どこが驚いてるんだよ。無表情じゃねーか」

 と、この日、一気にたくさん埋めたことで、俺はポケモン図鑑をあと少しで完成というところまで進めた。

 そのあとも、凪と協力してポケモンを世界中の人と通信交換して図鑑を埋めていった。

 そしてついに、残すところあと一匹。

「あとは明日、ポケモンセンターで配布されてるのを受け取ったら完成だね!」

「うむ。ぼくの苦労も報われるなぁ」

 で。

 この翌日が、凪とポケモンセンターへ行き、ノノちゃんを連れた良人さんに出会い、良人さんがポケモンのゲームを買うことになった日なのである。

 ――ということで、ポケモン図鑑をひと月以上も前に完成させた俺たちだけど、良人さんはポケモンのゲームを始めてひと月以上経つが、ポケモン図鑑はまだ39%しか埋まっていなかった。

「凪くんはポケモン図鑑はどれくらい集まったんだい?」

 今日も探偵事務所に来ていた良人さんが凪に聞いた。

「ぼくは完成してるよ」

「す、す、す、すごい! 凪くん、ボクにもどこでどのポケモンを捕まえたらいいかとか色々教えてよ」

「自分で検索かければいいじゃないか」

「そんなこと言わずにさ~」

「うるさいなぁ」

「凪くぅ~ん」

 と、凪にベタベタする良人さんを、「気持ち悪いよ」と凪が引きはがす。

 俺は逸美ちゃんと並んで座って、それぞれでポケモンのタマゴを作っていたのだが、気になって良人さんに尋ねた。

「ところで、良人さんはいまなにやってるんですか?」

「ボクは凪くんにお願いしてるのさ」

「そうじゃなくて、ゲーム内で。図鑑を完成させようとしてるとか、強いポケモンを作るためにタマゴを作っているとか、バトル施設で連勝目指してるとか」

「ボクはずっと四天王と戦ってるよ。おこづかいも130万円まで貯まったんだよ」

「へえ。すごいですね」

「もうポケモンもレベル100になった子もいてさ。この相手にはこれ、って決まってるんだ」

 タイプ相性もだいぶわかってきたらしい。

「でもさ、ボク気付いちゃったんだ」

 ちょっと寂しそうな良人さんに、俺はそっと聞いた。

「なにがですか?」

「色違いのポケモンをゲットするには、ポケモン図鑑を完成させたらもらえるひかるおまもりがあると、確率が三分の一になるって」

 やっと気が付いたか。

「だから、リーフィアたん以外の色違いの強いポケモンを作って、バトル施設で勝利する。そのためにも、まずはひかるおまもりが必要なんだよ」

「それで図鑑を完成させようと?」

「ああ! まだまだ大変だけどさ、ボクやり始めたら一直線に完成させちゃうと思うんだよね」

 俺と凪の力も借りて二週間ほど前に、逸美ちゃんと鈴ちゃんとノノちゃん、作哉くんも図鑑を完成させた。

 だが、凪は今回に関しては手を貸してやるつもりがないようにも見える。

「凪、だったら良人さんにもポケモン交換してあげれば? 手間はかかるけどすぐだよ?」

 しかし凪はかぶりを振った。

「ダメだよ。それじゃあつまらない」

「つまらないって、凪くんひどくない?」

「そうだぞ。意地悪するなよ」

 良人さんと俺に言われて、凪は胸を張ってこう言った。

「ぼくには名案があるのだ。それは、バトルをして、勝ったら良人さんにポケモンを交換してあげる。負けたら罰ゲーム」

 そんなこと言っても、絶対良人さん勝てないよ。

 凪相手に勝ち目はない、と思ったが、良人さんは全然そう思ってないらしい。むしろ嬉しそうだ。

「いいじゃないか! ボクやるよ! 勝ったら、凪くんとポケモン交換だね」

「うん。ぼくとはバージョンが違うから、ぼくの方にしか出現しないポケモンを、良人さんに交換してあげるのさ」

「面白そうだね~。ボクの実力、見せてあげるよ」

「オーライ。楽しみにしてるよ。それで、バージョンが同じ開に勝ったら単純に良人さんが持ってないポケモンを交換する。それを少年探偵団のみんなとやるんだ。ひとりにつき三匹交換で、全員に勝てば十八匹分の図鑑が埋まる。同じバージョンだったら持ってないポケモンってことで」

「いいよ! 全員に勝てば、さらに一気にたくさんのポケモンを交換してよ。ボーナスってことでさ。それならボクのモチベーションもアップするってものさ」

「ふむ。いいだろう。構わないぜ」

 こんな軽い感じで口約束をしている良人さんだけど、これって負けたら良人さんは罰ゲームを受けることになるんだぞ。いいのか?

 俺は良人さんにポケモンを見せてもらう。

「ちょっといいですか? いまの手持ちは……」

 リーフィア、フライゴン、バシャーモ、クチート、ミロカロス、エレキブル。

 この六匹だ。

 ちなみに、いつの間にか増えているバシャーモ以下の四匹は、少年探偵団のメンバーが交換してあげたものだ。

 先日小学生相手に負けて、「ボク、もっと強くなりたいよ!」と切実に訴える良人さんのために、少年探偵団のメンバー六人が交換してあげたのである。

 ノノちゃんはすでにフライゴンをあげていたので、他の五人が新しく交換してあげた。

 俺からはバシャーモを。

 凪からはミロカロスを。

 鈴ちゃんからはクチートを。

 作哉くんからはエレキブルを。

 ちなみに、逸美ちゃんはタマゴを作って持っていたポカブをあげたのだが、

「ポカブちゃん。とっても可愛いから育ててね」

「いや、逸美さんのだけちょっと弱くない? これじゃあボク強くなれないよ」

「あら残念。可愛いのに~」

 ということで、逸美ちゃんが愛玩用にたくさんタマゴを作ってたくさん孵化しただけの強くないポカブだけはメンバー入りせず、お気に入りのリーフィアとフライゴンを合わせた六匹が完成した。

 なんだか今回はちょっと回想が多くなってしまったけど、こんないきさつがあって、良人さんのパーティーは固まってきたのだった。

 俺は凪に聞いた。

「それで、良人さんへの罰ゲームってどうするの?」

「それは勝ってからのお楽しみだよ。開も好きな罰ゲームを用意していいからね」

 鈴ちゃんがちょっと困ったように、

「あたし、別にして欲しい罰ゲームとかないんですけど」

「ノノもです。罰ゲームは可哀想です」

 心優しいノノちゃんに続いて、逸美ちゃんも小首をかしげる。

「そうね~。六回も罰ゲームをするのは、さすがに可哀想よね~」

「逸美さん、ボクもう六連敗するの決まってるの?」

 実際、普通にやったら六連敗してしまうことだろう。

 俺はほどほどに手加減してあげよう。気持ちよく良人さんに勝たせてあげて、交換してあげてもいいしな。

「さて、それじゃあ誰からやる?」

 問いかけると、凪が手を挙げた。

「ぼくがやるよ」

「え~。凪くん? 戦う順番はボクに決めさせてよ」

「もう、わがままだなぁ」

 あはは、と俺も笑って、

「そうですね。良人さんが選んでいいですよ。頑張ってください」

「開もそう言うなら仕方ない。どうぞ」

 俺と凪に促され、良人さんはもったいぶって悩む素振りをして、

「そうだな~。えーっとー。うん、よし! それじゃあ、まずは逸美さんで。一番弱いと思うんだ。肩慣らしにはちょうどいいだろうしね」

 俺は耳を疑った。

 こんな弱い人が逸美ちゃんを一番弱いとバカにするなんて。現実問題逸美ちゃんは運がよくて勝てることが多いけど、少なくとも良人さんよりはずっと強い。

「わたしでいいの? だったら、負けないように頑張るわね。開くんにもカッコイイところを見せてあげるんだから」

「うん。頑張ってね、逸美ちゃん! 良人さんなんてボコボコにしちゃって」

「あれ? 開くん? 急にボクに厳しくなったよね? ま、まあ、ボクは挑戦者。アウェイで戦うのは覚悟のうちさ」

 やる気になっている良人さんには悪いが、俺は逸美ちゃん側につかせてもらう。

 一緒に作戦を考えて、選出するポケモンも決めた。

 良人さん側には凪がいて、ただ画面をのぞき込んでいる。

「凪くん、あっちはなんか開くんがついちゃってるし、凪くんはボクのフォロー頼むよ」

「なにを言ってるのさ。ぼくと良人さんは敵同士。フォローはしないよ。ぼくたち全員に自分の力で勝たないといけないんだからね」

「言われてみればそうか。だったら、とくかく気合で頑張るぞー!」

 そして、凪の合図でポケモンバトルが始まった。

 良人さんは勝ってポケモン図鑑を埋めることができるのだろうか。


つづく

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