ポケモンバトル その1 良人VS逸美

 勝負をするのは、良人さんと逸美ちゃん。

 大学一年生同士の対決だ。

 審判役を買って出た凪は、どこから持ってきたのか、相撲の試合で行司が使う軍配団扇を振り上げた。

「それでは両者、見合って見合って~。はっけよーい、ノコッチ!」

「それはお相撲さん! ノコッチはポケモン! ボクはポケモンバトルをするの! あ、始まってる! 早く技選ばないと」

「良人さんには負けないわよ~!」

 逸美ちゃんもやる気満々だ。これは面白くなりそうである。

 バトルは3対3のシングルバトル。

 二人が最初に出したポケモンは、それぞれ逸美ちゃんが色違いのサーナイト、良人さんがフライゴンだ。

 1ターン目。

 逸美ちゃんのサーナイトがメガ進化した。サーナイトはメガ進化で白いドレスを着たような感じの見た目になるんだけど、色違いはドレスが黒くなる。

 先手を取ったのは良人さんだった。

 良人さんはフライゴンでとんぼがえりをして、さっさと逃げて、裏に控えているポケモンと入れ替わる。

 出てきたのは、凪にもらったミロカロスだ。

「どう? 凪くんにもらったミロカロスたん。やっぱり美しいよね。ボク気に入っちゃったよ」

「美しいところがまた、良人さんには似合いませんな~」

 のんきにお茶を飲みながら解説風に言う凪に、良人さんは全力でつっこむ。

「ミロカロスくれたのは凪くんでしょ! いいよ、たとえ似合わないと言われても、ボクはミロカロスたんを使いこなすんだ!」

 しかし、登場したばかりのミロカロスに、後攻サーナイトの攻撃。

 これによって、ミロカロスは半分弱HPが削られた。

「頑張れー」

 口に出してミロカロスを応援する良人さん。

 次のターンは、サーナイトの攻撃が先だ。今度は10まんボルト。これには、ミロカロスも残りHPがほんのわずかになる。

「えぇ! やばいよやばいよ!」

「惜しかったわ~」

「でも、次はボクの攻撃。いけっ! ミロカロス! キミの美しさを見せてあげるんだ」

 ミロカロスの攻撃は、サーナイトにはあまり入らなかった。

「くそう! 凪くん、これはどうしたらいい? 交換?」

「ぼくはあくまで中立な立場から逸美さんを応援してるから、良人さんにはアドバイスできないんだ。ごめんよ」

「そっか、中立じゃ仕方な……って、中立なのに逸美さんを応援なんてずるいよ!」

 ひとりでペラペラしゃべっている良人さん。

 俺は逸美ちゃんの戦闘画面を見ている。

「開くん、もしかして、一匹でいけるかしら?」

「いけちゃうかもね。良人さんの選出次第だけど」

 次のターン。

 結局交換はせず、再びサーナイトの先攻で良人さんのミロカロスは落とされた。

「ちくしょう。悔しいけど、次だ。いっておいで、リーフィアたん」

 続いて場に出たのはリーフィア。

 次のターン。

 先に攻撃したのはリーフィアだった。リーフブレードで、サーナイトのHPは半分を下回った。

「そのポケモン、お姫様みたいな見た目なのに結構防御も強いんだね」

「育て方の問題ですよ」

 と、逸美ちゃんに代わって俺が答える。

 後攻、サーナイトの攻撃。これで、リーフィアもHPを半分以下まで削られ、残りHPは約四分の一ほどになった。

「えー! やばいよやばいよ!」

「良人さん、持ちネタ増えたね。芸風変えた?」

 凪が真顔で質問するけど、良人さんは必至だ。

「芸風とかじゃないって。ボクは普段通りだよ。それより、次のターンが問題だ。次でいけるかなー。ギリギリっぽい! けど、行く!」

 次のターン、先攻リーフィアのリーフブレード。

「いけ! いけ! いけ! いったー!」

 なんとかギリギリでサーナイトを倒した。

「あら~。よくやったわね。今度はどっちにしようかしら。開くん、どっちがいい?」

「うーん、ここだと……」

 俺がアドバイスをしようとすると、良人さんがビッと指差した。

「ずるい! アドバイスは断固反対だ!」

「アドバンスは第三世代だ!」

 良人さんに調子を合わせてガヤを飛ばすように言う凪。

「凪くん、それなんの話? 凪くんからも言ってよ」

「やれやれ。ひとりじゃなんにもできないんだから。わかったよ」

 凪は俺に向き直って、

「開、それはなんの話? だって。良人さんが」

「そうじゃねーよ」

 俺はつっこむだけつっこみ、逸美ちゃんへのアドバイスはしないでおく。

 で。

 逸美ちゃんが次に出したのは、ラプラスだ。

「あ! ラプラスだ! いいねー。でも、相性はリーフィアたんが有利!」

 良人さんがガッツポーズをしているのにも構わず、逸美ちゃんはニコニコと微笑む。

「うふふ。この子、開くんがわたしにくれたラプラスちゃんなの」

「俺の好きなポケモントップ3に入るポケモンだよ!」

 サーナイトもだけど、ラプラスは逸美ちゃんに似合うと思ってあげたのだ。メスでニックネームは「ラッシー」。恐竜みたいな可愛い見た目がたまらない。ちなみに、歌を歌うのが得意なポケモンだからドレミファソラシドからラとシを取ってラッシーにしたのだ。

 すばやさはリーフィアの方が勝っているが、このターン、先に攻撃したのはラプラスだった。

「こおりのつぶてよ」

 先制技という、威力は低いが先に攻撃できる技を持っているのだ。

「えー! リーフィアたんがー! しかも急所って……とほほ」

 リーフィアがひんしになる。

 まあ、急所じゃなくても普通に一撃でひんしになったんだけどな。

 続いて、良人さんは最初に引っ込めたフライゴンを再度場に出した。残り一匹だけだからフライゴン以外の選択肢はないんだけど。

 俺は戦況見てつぶやく。

「これは良人さんに勝ち筋はないね」

「そうなの? やった~」

 喜ぶ逸美ちゃん。

 良人さんは俺に抗議した。

「まだわからないじゃないか。確かに、ボクのフライゴンは氷の技をくらうといつも一回でひんしになっちゃうけど、可能性はまだある」

 とはいえ、いくらフライゴンが火力ドーピングアイテムを使っても、耐久力の高いラプラスに一度は耐えられてしまう。

 対して、ラプラスの氷技ならフライゴンはおそらく一撃で倒せる。仮に耐久力アップアイテムを持っていて一撃じゃ落ちなくても、次のターンの先制技で落とせる。

 これはラプラス勝ちだ。

 結果、予想通り、フライゴンのりゅうせいぐんはあまりダメージを与えられず、ラプラスの氷技で一発だった。

「勝てたー。開くん、お姉ちゃんカッコよかった?」

「良人さん相手だし、普通かな」

「え~」

 対して、負けた良人さんはがっくりと肩を落としてうつむいている。

「ボク、まだまだこんなに弱いなんて……」

 凪はそんな良人さんを見て、呆れたように言った。

「あーあ、また良人さんが落ちこぼれてる」

「落ち込んでるの!」

 冴えない顔した良人さんだから、しょぼくれた表情だと落ちこぼれに見えなくもないけど、この負けは相当悔しかったらしい。

「逸美さん、残り一匹はなんだったの?」

「残りの一匹? なんだったかしら~?」

「えー。ボクには二匹で充分だから、三匹目なんて頭にもなかったってこと?」

 なにもそこまで言ってない。

 代わりに俺が答える。

「良人さん、逸美ちゃんの残り一匹はマンムーです。その子も強いですよ」

「マンムーちゃんとヌメルゴンちゃんも出したかったんだけど、出番なかったわね~」

「まあ、ヌメルゴンは選出してなかったから出せないけどね」

 逸美ちゃんが普段使うポケモンのうち、さっき挙げた四匹はメス。ブースターはオスで、残り一匹は入れ替えながらやっている。いまはフワライドだったかムーランドだったかを使っていたかな。

 これが現在の逸美ちゃん愛用のパーティーだ。

 ポケモンに詳しくて色んな知識がある人なら、ここをこうすればいいのにとかあるかもしれないけど、逸美ちゃんが使いたくて使っているポケモンだけで構成されているので、レーティングとかもやってないし構わないだろう。

 俺も好きなポケモンだけでパーティーを組んでいると、作哉くんとかに相性がどうだからどのポケモンをどのポケモンに変えるといいって言われるけど、ガチ勢じゃないからいいだろうと割り切っている。

 話はそれたが、それだけポケモンには相性や特性によるパーティーの組み合わせの幅があるってことだ。これからポケモンをしようと思っている人も、まずは好きなポケモンを使えばいいと思う。

「ところで、逸美さんの罰ゲームってなんだい?」

 凪の質問に、逸美ちゃんは考え込む。

「別にないのよね~。良人さんにはいつも開くんと遊んでくれて感謝してるし、わたしからはナシでもいいわよ」

「ありがとう! 逸美さん」

 感激する良人さんに凪がぽつりと言った。

「まあ、良人さんは人がいいからこういう機会じゃなくても頼み事とか引き受けてくれるしね」

「人がいいじゃなくていい人って言ってよ!」

 逸美ちゃんは自分の持っているポケモンを確認して、

「でも、良人さんには少年探偵団のメンバーもお世話になってるし、交換してあげるわ」

「本当にいいの?」

「ええ。いいわよ~」

「ボクには逸美さんが天使に見えるよ」

「うふふ~」

 ということで、負けたのにお情けで良人さんはポケモンを交換してもらった。

「でもいまのボク、なんかすごくカッコ悪くないかな?」

 眉を下げている良人さんに、凪が言った。

「それは元から」

「ひどいよ凪くん。とほほ」

 これじゃあ先が思いやられるな。あはは、と俺は苦笑い浮かべる。

「良人さん、どうします? 続けてバトルしますか?」

「もちろん! ボクは弱いけど、みんなと戦って、少しずつ強くなるんだ」

 さいで。

 ポケモン図鑑を埋めるって目的を忘れてるんじゃないかと思ってしまったが、やる気があるなら止めはしない。

「次は誰にします?」

 鈴ちゃんに聞かれて、良人さんは鈴ちゃんに向かってファイティングポーズをした。

「次は鈴ちゃん、勝負だ!」

「は、はい!」

 つい勢いに飲まれて、鈴ちゃんもファイティングポーズを取ってしまう。

 なんだこれ。

 凪が二人を交互に見て、

「男と女の取っ組み合いのケンカなんて初めて見るぞ。すごいなー」

「ポケモンバトルッ!」

 と、二人が同時につっこんだ。

 良人さんの挑戦は続く。


つづく


密逸美 イラスト

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