ポケモンバトル その4 良人VS凪

 ついに凪と良人さんのバトルだ。

 良人さんはしかと凪を見て、

「ボク正直、トリは凪くんかなって思ってたんだ」

「ほうほう。確かにぼくは、カレーはチキン派ですが?」

「違うよ! そのトリじゃないって。最後に戦うのは凪くんにしようかなと思ってたってこと!」

 凪はため息をつく。

「そうか。良人さんも連敗続きで、この対戦を最後にするんだね」

「だから違うって。ボクは最後に凪くんに勝ちたかったんだよ。ボクがポケモンをするきっかけになったのも凪くんだしね。でも、ここで勝っておきたいんだ。対戦中、おとなしくしてもらうために」

「……」

 そんな理由で凪との対戦にケリをつけたかったのか。

 俺はもうどうでもよくなってきたけど、良人さんはノノちゃん(作哉くんのゲーム機を使った)と交換も終わったことだし、バトルの準備を促す。

「さて、準備はいいですか?」

「いいよ。ボクはいつでも始められる」

「凪は?」

「ぼくもさ」

「じゃあ、バトル開始だ」

 これより、凪と良人さんの対戦が始まった。

 果たして凪はどんな戦法でいくのだろう。

 1ターン目。

 良人さんが出したポケモンはバシャーモ。

 対して、凪が出したポケモンはリオルだった。

 これはおもしろい対面だ。

「おっ! 凪くんのポケモン知ってる。映画になったよね。カッコイイってイメージだったけど、実際に見ると可愛いね」

「それはルカリオだよ。リオルの進化形」

「な、なんだって!? 進化前を使うなんて、ボクのことを甘くみてるね?」

「リオルを甘くみてるのは良人さんだよ」

 良人さんは1ターン目の技を悩んでいる。

「でも、さっきみたいにまもっているあいだに、みがわりされたらいやだなぁ」

「良人さん、早くしてよ。ぼくはもう技選んだよ」

「そ、そっか! よし、これで行く」

 二人共技を選び、両者の攻撃が始まる。

 先に動いたのはバシャーモだ。

 バシャーモのまもる。

「ここは定石通りにきましたね」

 と俺が言うと、良人さんは俺に親指を立てた。

「まあね。リオルってすばやさ高そうだし、もしバシャーモより低くてもここで速くなっておけば次につなげられるしね。堅実な一手だよ」

 次に、後攻のリオルの技は――つるぎのまいだった。

「凪くんはこうげきアップで来たか」

「ふう。よかった。良人さんが良人さんで」

「ん? どういう意味だい? お互いパワーアップしたことだし、次のターンが勝負だよ!」

「うん。そうだね」

 2ターン目。

 今度はバシャーモの先攻になった。

「いっけー! フレアドライブ!」

 しかし、リオルは持っていたきあいのタスキというアイテムでHPを1だけ残して耐えた。

「くそう。ボクこのアイテム苦手なんだよなあ。でもいいや。残りHPが1だったら、次のターンにボクの先攻で倒せばいいんだからね!」

「今度はリオルの番だね」

 リオルの攻撃はきしかいせい。

きしかいせいにより、バシャーモは倒れてしまった。

「あぁ! バシャーモが……。強いんだね、リオルって」

「きしかいせいは自分の残りHPが低いほど威力が上がる技なんだ」

「だからこんなに強かったのか。でも、ボクには次のポケモンがいる!」

「良人さん、次はなに?」

「ボクの次のポケモンはこの子さ!」

 良人さんが次に出したのは、クチートだ。クチートの登場と共に、クチートの特性いかくによって、リオルの攻撃力が下げられる。

「初登場だ! よろしく、クチートたん。やっぱり可愛いよクチートたん」

 クチートにメロメロの良人さんだが、クチートはただ可愛いだけじゃなく、すごい攻撃力を持ち合わせたポケモンなのだ。

「なるほど。良人さんの次のポケモンは、鈴ちゃんからもらったクチートか」

「ボクはさっきのターン、あえてバシャーモにメガ進化させなかった。それは、この子をメガ進化させるためだったのだ」

「対戦相手に作戦言っちゃっていいの?」

 凪にジト目で聞かれて、良人さんは一瞬言葉に詰まる。

「だ、大丈夫! たぶん」

 まあ、クチートが対戦で出る場合、ほぼ100パーセントがメガ進化である。ここは問題ないだろう。逆にバシャーモはメガ進化しなくても色んな戦い方ができる点が強いんだけどね。

 3ターン目。

 ターンの始めにメガ進化がされる。そのため、まずクチートがメガ進化した。

「どうだ。へへん」

 しかし、攻撃はリオルが先だった。

「あれ? クチートたんも先制技のふいうちを使ったのに」

「それはリオルも先制で技を使ったからだよ。先制技同士の場合、すばやさが高い方が先に技を出せるんだ」

「そうだったのかー!」

 頭を抱えている良人さん。

 おそらく、先制技でリオルを倒せる頭だったんだろうな。

「リオルの攻撃はまねっこさ」

「まねっこって技の名前も可愛いね。あ、動きが可愛い。て、え? きしかいせいってさっきと同じ強い技じゃん! どうなってるの!?」

「開、教えてあげて」

 仕方ない。

「リオルのまねっこは、最後に出された攻撃をまねして出せる技なんです。だから、さっきのターンの最後に使ったリオルのきしかいせいをリオルがまねっこしたんですよ」

「しかも、リオルは特性いたずらごころにより変化技を先制で出せる。まねっこは変化技だから先制で高威力のきしかいせいができたってわけさ」

「そ、そんなのずるいよ!」

「ずるくないもんねー。これでクチートは落ちたよ」

 クチートはリオルのきしかいせいによって一撃でひんしになってしまった。

「くぅ。せっかくいかくもしたのに」

「いかくはやっかいだったよ。攻撃重視に育ててほんとよかった~」

 せっかく初登板のクチートになにもさせてやれず悔しがる良人さん。

 最後の一匹で勝負だな。

 4ターン目。

 良人さんが出したラスト一匹のポケモンはエレキブルだった。

「作哉くんにもらったんだ。この子も強いんだ。負けないよ」

「ふーん。エレキブルは先制技もない。リオルを倒すならきあいのタスキを持たせるくらいしかないか」

「ギクッ」

 明らかに慌てる良人さんを凪は無表情で見て、

「それって演技?」

「違うよ! ハッ」

 と、良人さんは口を押える。

「そうかそうか。きあいのタスキか。へえ~」

 このターンの攻撃は、またリオルが先制できしかいせいをした。

「よし、耐えた!」

 喜ぶ良人さん。

 後攻のエレキブルの攻撃はじしん。

 これによって、リオルはひんしになった。しかし、エレキブルの残りHPも1しかない。

 凪の手持ちは残り二匹だから、普通にやれば負けないだろう。

 次に凪が出したポケモンはピカチュウだった。

「頑張れ、ピカチュウ」

「ピカチュウか。可愛いけど、進化前のポケモンがエレキブルに勝てるかな? すばやさが高そうだけど、エレキブルだって意外と早いんだぞ」

「まあ、普通に比べたらエレキブルの方がほんのちょっと早いんだけど……」

 5ターン目。

 先攻はピカチュウ。

 ピカチュウの先制技、でんこうせっかで、エレキブルの残り1しかないHPが削られ、勝負がついた。

「はい、この勝負凪の勝ちー」

「いえーい」

 と、凪はピースする。

 良人さんはがっくりと首をもたげた。

「あー。リオルに負けちゃったようなもんだね」

「そうだね。バシャーモでまもるをしなければ、わからなかったかもね」

「確かに、まもる読みでこうげきを上げる技使ってたね。ところでさ、凪くんの残り一匹はなんだったの?」

 それは俺も気になっていた。

 凪は画面を見せて、さらりと言った。

「このボーマンダってポケモンさ」

 げっ。ボーマンダかよ。

「メガシンカするポケモンだから、メガシンカ対決してもおもしろそうだと思って入れておいたんだ」

「へえ。じゃあさ、いまのバトルは負けたけど、もう一戦してよ。そのポケモン使ってさ」

「うん。いいよ。仕方ないから、ここで良人さんが勝ったら交換もしてあげる」

「ありがとう凪くん。よーし、頑張るぞー」

 トップクラスのステータスを持つ強いポケモンに、良人さんが勝てるのだろうか。

 見ていると、ボーマンダが良人さんのリーフィア、ミロカロス、エレキブルを一匹で倒して勝負が決まった。

「つ、強過ぎるよ、ボーマンダ。それ禁止されてるポケモンとかじゃないよね?」

「普通に使えますって。まあ、仕方ないですよ。メガシンカしたボーマンダはかなり強いですから」

 とはいえ、結局ポケモン交換してもらえた良人さん。

 凪とのポケモン交換中、良人さんは凪に尋ねた。

「そのボーマンダが強いのもわかったけど、凪くんは普段どんなパーティーで戦っているんだい? ボーマンダとピカチュウ?」

「どうかな~。ボーマンダは使うけど、ピカチュウじゃなくてライチュウを入れることの方が多いかも。それから、フシギバナのふしぎちゃんは相棒だし、ウインディ、マリルリ、グライオンも使う。ブラッキーも大事なパートナーさ。うん、この辺だね」

「へえ。フシギバナとかとも戦ってみたいよ。凪くんには圧倒的差をつけられて二連敗しちゃったからね」

「しょうがないな~」

 ということで、凪はフシギバナ、マリルリ、ウインディの三匹で良人さんと戦った。良人さんはフライゴン、クチート、ミロカロスを選出し、悪くない内容でやっぱり良人さんが負けたのだった。

「やっぱり負けかぁ……」

「三回連続で負けたからって落ちこぼれるなよ」

「落ち込んでるの! キミはいつもボクを落ちこぼれ扱いするんだから」

 鈴ちゃんは苦笑しながら、良人さんにフォローを入れてあげた。

「でも良人さん、あたしのあげたクチートだいぶうまく使えてきてますよ。先輩に勝てるようになるのもあと少しですよ」

「本当かなぁ……。考えたらボク、人との対戦で勝てたこと、一度もないんだよね」

「あ……」

 良人さん、ついに気付いてしまったか。

 俺も鈴ちゃんもノノちゃんも言わずに黙っていたことだったけど、さすがにこれだけ負けが続くと嫌でも気付くよな。

 逸美ちゃんはお茶のおかわりを持って来てあげた。

「気にしちゃダメよ~。楽しければいいじゃな~い」

「ボクも逸美さんみたいに気楽な性格ならよかったよ」

「あら?」

 良人さんの言っている意味がわからない逸美ちゃんはいいとして、手頃な対戦相手が欲しいところだな。

 そう思ったとき、綾瀬沙耶がふらりとやってきた。

「ボク、リーフィアたんを勝たせてあげたいんだ!」

「どうも」

「うわぁ」

 宣言を聞かれてしまった良人さんは、驚いてズッコケる。

「あイター」

「いらっしゃい、沙耶さん」

「いらっしゃい」

「うん。近くを通りかかったから遊びに来ちゃった。はい、これお土産のお菓子」

「ありがとう~」

 逸美ちゃんがお菓子を受け取ると、沙耶さんは尋ねた。

「いまリーフィアって言ってた?」

「はい。言いました」

 なぜか敬語で答える良人さんに、沙耶さんは言った。

「ポケモン、好きなんですか?」

「え? は、はい。大好きです」

「そうだったんですか」

 沙耶さんが美人だから緊張しているのだろうか。顔はなぜか俺とそっくりで、髪型が違うだけだと凪に言われるほどなのに。

 ちなみに、紹介しておくと、俺たちに名乗っている綾瀬沙耶は本名じゃなく偽名だ。それに年齢も不明。見た目は十代だけどおそらく二十代。沙耶さんは役者をやっている。ただ役者といっても、与えられた役になってスパイ活動や潜入捜査、ただの事件のエキストラなど、アンダーグラウンドなフィールドで働いている関係で、探偵事務所のメンバーとも知り合った。

凪はおもむろに立ち上がって、沙耶さんの目の前に行った。ジロジロと全身を見る。

「なにかな? 凪くん」

「開、どうして女装してるの。顔もしわくちゃになってるよ」

 ガッと凪の頭をつかんでアイアンクローをして、笑顔で答えた。

「私は開くんじゃなくて沙耶お姉さん。あとしわくちゃは余計っ。まだ若いからしわなんてないの。わかった? ていうか、あんたわざとやってるでしょ」

「やってないです」

 それでもぬけぬけとそう言う凪の頭から、沙耶さんは手を離してやった。

「まったく、こいつはいつ会っても変わんないなぁ」

「ぼくはいつも変わってるって言われるよ」

「そういう意味じゃないっ」

 ほんと、代わりにこいつにつっこんでくれる人がいると助かるな。

 俺は苦笑いだ。

 沙耶さんも和室に上がったところで、俺は聞いた。

「このあと仕事は? ゆっくりできるの?」

「うん。できるよ。今日の仕事は終わったからね」

 と、俺に抱きついてくる。沙耶さんは見た目も俺に似ているが、嗜好も思考回路も似ている。だからかなんなのか、やたらと俺を気にかけて構ってくるのだ。

「ちょっと離れてよ」

「そんなツレナイこと言うなって。照れてるの? 相変わらず可愛いなー、開ちゃんは」

 沙耶さんはいつもベタベタしてくるから困る。あと言っておくと、逸美ちゃんは俺を弟のように可愛がっているけど、同じくお姉ちゃんぶってくる沙耶さんには微妙な感覚らしい。それもこれも俺に似ているから俺を相手にするみたいなんだとか。

 凪は胸を張って立ち、沙耶さんを指差した。

「うむ。次の良人さんの対戦相手は沙耶さん、キミに決めた」

「え? 対戦? 別にいいけど」

 あっさりと了承してくれた。

「負けたら良人さんの図鑑埋めに協力すること。逆に勝ったら良人さんになんでも命令する権利がもらえます」

 と、凪が説明する。

 沙耶さんは笑って、

「あはは。罰ゲームなんてあるんだね。了解」

「あの、沙耶さんってポケモンやってるんですか?」

 良人さんに聞かれて、沙耶さんはピースする。

「やってるよ。この子らとやったりするの」

「じゃあ、一戦お願いします!」

「オッケー。やろっか」

 というわけで。

 急に決まった沙耶さんVS良人さんのポケモンバトル。

 良人さんの初勝利の行方は如何に。

 二人の対決が始まる。


つづく


柳屋凪 イラスト

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

0コメント

  • 1000 / 1000