【幕間短編】開、初めてのネット対戦

 俺は決めた。

 今日こそネット対戦をする!

 良人さんがポケモンのゲームを始める前。さっきの良人さんと沙耶さんのバトルで、沙耶さんが使ったパーティー三匹で俺が対戦したときの話だ。

 アイテムやポケモンの特性など、知らない人には文章で書くと難しく感じる説明もあるからしっかり理解しようとせずそんなのあるのかと思ってくれて大丈夫。説明部分だけ読み飛ばしてくれてもオッケーだよ。

 さて。

 ポケモンのネット対戦には色々あり、気楽にできるフリー対戦は強い伝説ポケモンの使用アリとナシそれぞれのルールを選択でき、またレーティング対戦は本気で上位を目指してやっている手練れのトレーナーが日夜対戦している。

「開はフリーから?」

 凪に聞かれて、俺はしかとうなずいた。

「もちろん。いきなりガチ勢相手には戦えないよ」

「まあ、開ならやろうと思えば大丈夫だと思うけど」

 少年探偵団メンバーでは、凪と作哉くんはネット対戦の経験がある。あまり対戦を重視していない逸美ちゃんはネット対戦まではやらないし、鈴ちゃんとノノちゃんはオフラインのゲームの対戦施設で遊ぶので満足だし、俺もこれまではそうだった。

 しかし、凪に言われて俺もちょっとやってみる気になったのだ。

「何事も手順が大事だろ? それに、俺はそこまで強い人とのバトルがしたいわけじゃない」

「フリーにだって強い人はたくさんいるさ。フリーでしか使えない過去作のポケモンも出てくるわけだし、むしろガチだけどフリーばかりの人もいる」

「そういえば、おまえもフリーばっかりだよな」

 だが、そんなことはどうでもいい。自分のレートを上げるためにガチで勝ちに行く人しかいないレーティングより、フリーの方が気楽なのは確かなのだから。

 現在、探偵事務所にいるのは俺と凪、逸美ちゃんと鈴ちゃんの四人だ。

 本当は作哉くんもいるとアドバイスがもらえてよかったんだけど、今日は来られないみたいだし自分の力で頑張るぞ。

 俺はいよいよ、対戦画面に移った。

「ここを押せばいいんだよね?」

「そ。はい」

 と、凪が勝手にボタンを押してしまった。

「なっ、なに勝手に押してんだよ」

「戦うんでしょ? それとも戦わないの?」

「そりゃ戦うけど、心の準備が」

 などと言っているうちに、対戦相手を探していますという表示が出た。

「開くん、頑張ってね。応援してる!」

「ありがとう。逸美ちゃん。頑張るよ!」

「開さんは読みがうまいですし、きっと勝てますよ」

「鈴ちゃんもありがとう」

 そして、対戦相手が決まった。

 対戦相手はけいじさん。

 相手のパーティーが表示された。

 ルールは特別な伝説ポケモンなしのフリー対戦、互いに六匹から三匹を選んで戦うシングルバトル。

 ポケモンのバトルは選出が大事になる。相手がどのポケモンを出してくるか読み、こちらがどのポケモンを選べば対応できるかを考えて、作った六匹のメンバーから出す順番も考えて三匹を選ぶ。

 ここで、俺と対戦相手のパーティーを紹介しよう。

 俺のパーティーは、エーフィ・リザードン・ゲッコウガ・ガブリアス。残りの二匹はちょうどボックスにいた中から今作の準伝説のポケモンをチョイスした。

 対戦相手――けいじさんのパーティーは、ボーマンダ、メタグロス、アローラガラガラ、メタモン、ブラッキー、そして今作の準伝説のポケモン。

「なるほど。まず、使いたいエーフィとリザードンは決定。いつものこの二匹と、あとはゲッコウガかガブリアスか……。でもゲッコウガじゃブラッキーがきついしな。いや、タイプ的には……」

 選択時間は一分半。

 うーん、とうなりながら考えていると、凪が横から口を挟んだ。

「ブラッキーは出ないよ」

「え、そうなの?」

「出ないから、ボーマンダ用にゲッコウガでいいんじゃない?」

 あのブラッキー使いの凪が断言するのだ。ブラッキーは出ないと信じよう。

 話しているうちに、相手はもう三匹を決めたようだ。

他に相手にしたくないポケモンを考えると、やっぱり凪の言うように器用に動けるゲッコウガにしてみるか。

「うん! ゲッコウガで行く!」

 いつもその三匹でバトル施設で戦うことが多いのだ。

 凪がくれたゲッコウガと俺の相棒のエーフィ・リザードンコンビで挑む。

 俺も三匹を選んで、対戦が始まった。

「うぅー。緊張してきた」

「あんまり緊張しない開が珍しいね」

「まあ、緊張の度合いで言ったらそれほどでもないんだけどさ。やっぱりドキドキはするよ」

 実際、俺は緊張しない方だけどいつもまったく緊張しないわけじゃない。このバトルに関しては、ドキドキワクワクもあるかもしれないな。

 まず、互いの一匹目が場に出た。

 こちらはいつも通りエーフィ。

 相手は、アローラガラガラだった。

「そうきたか」

 ガラガラはひらいしんという特性で電気技を無効化できる。おそらく、俺の入れた電気タイプの準伝説のポケモン対策として採用したのだろう。いかにも選びそうだったしな。

 1ターン目。

「うーん、ここは壁貼るかZか。壁でも一度は受けられそうだけど、Z技にしておくか。一撃で持っていけるかなー」

 凪はなにも言わずに沈黙して見ている。

 リフレクターも考えたけど、ここはZ技で負荷をかけることにした。

「一撃で行けるかは微妙だけど、せっかくだからね! 一発大技を出しておかないと」

「ふむ。どうなるか」

 相手も技の選択は終わっていたらしい。

 まず、すばやさの高いエーフィの攻撃。

 Z技のモーションが入り、エーフィはZサイコキネシスを繰り出した。

「相手は交換なし。ガラガラはゴーストタイプだし有利対面だもんな。どうだ?」

「いけいけ~」

 と、逸美ちゃんも応援している。

 ダメージが入った。

 しかし、アローラガラガラを一撃で倒すことはできなかった。ほんの少しだけHPが残っている。

「くそう。惜しい」

「ね~。惜しかった~」

 逸美ちゃんも残念がる。

「結構硬いんだね。ただ、いまのは乱数で本来は持って行けるかは五分だから悪くない手だよ」

 と、凪がの解説が入った。

そうだったのか。五割の確率に嫌われたか。

 続いて、後攻のガラガラの攻撃はシャドーボーン。

 ゴーストタイプの技なので、エスパータイプのエーフィにはこうかはばつぐんだ。

 エーフィが倒れた。

「これは最初リフレクターでもよかったかもね。でもエーフィはよくやった。ゲッコウガの射程圏内に入れたし、十分仕事は果たした」

 さて。

 次はリザードンかゲッコウガ。どちらを出そう。

 先制技も持っているゲッコウガの方がいいか。出し遅れて、ボーマンダにりゅうのまいをされたりすると厄介だし、なによりメタモンが怖い。メタモンはすばやさを上げるアイテムであるこだわりスカーフを持っている場合が多い。相手に変身して能力をコピーできるため、同じすばやさになるためだ。同じすばやさだとどちらが先に攻撃できるかは五分五分。でも、スカーフを持っていれば先に動けるから有利。しかも厄介なのが、メタモンはこっちのリザードンがりゅうのまいをして攻撃とすばやさを上げても、その能力アップまでコピーされてしまう。だから、安易に能力アップ技を使いにくいのだ。

 だから、ここはゲッコウガでいこう。

 俺は凪からもらったゲッコウガを出した。

 2ターン目。

 鈴ちゃんは画面を覗き込み聞いた。

「開さん、ここはやっぱりみずしゅりけんですか?」

 みずしゅりけんは先制技だから、絶対先に攻撃できる。しかしゲッコウガの方がすばやさは高いので、先制技を使わなくても倒せるし、こうかばつぐんの技じゃなくてもいい。

「いや」

 裏に控えている可能性があるポケモンたちを考えて、ゲッコウガよりすばやさが高くて厄介なのは相手のでんきタイプの準伝説のポケモン。でんきタイプということで相性も不利。他だと、ボーマンダのりゅうのまいも厄介だ。一度されるとすばやさが逆転される。

「がんせきふうじが安定かな」

「どうしてですか?」

「どの技でも倒せるんじゃない?」

 鈴ちゃんと逸美ちゃんに尋ねられ、俺は考えをまとめながら話す。

「交換の可能性があるからだよ。ここでアローラガラガラを引いて交換されても、すばやさの関係で厄介なポケモンにもがんせきふうじを入れられる」

 がんせきふうじは、相手のすばやさを下げる追加効果を持つ岩タイプの技。ガラガラにもこうかばつぐんで確実に倒せる(まあ、ガラガラはどの技でも倒せるけど)。

「なるほど。どのみちゲッコウガのすばやさなら先制技じゃなくても先に攻撃できますしね」

「そういうこと」

 ということで、俺は交換読みも兼ねて、どの対面になっても有利を取れるがんせきふうじを選択した。

 相手がゲッコウガの水タイプの先制技であるみずしゅりけんを読み、水技を半減できるボーマンダが出てくれれば大きなアドバンテージだ。低威力なみずしゅりけんを甘く見て、さらにタイプ相性上半減にもできるから、悠長に出てくることもあり得る。また、電気タイプの準伝説のポケモンはすばやさがゲッコウガより早いから、ここで相性の関係で出してくる可能性もある。その場合もアドバンテージが取れるだろう。

 さあ、来い。

 相手も行動を選択。

 すると、相手は交換してきた。

 交換読み当たり。ガラガラを温存しておきたいのだろうか。

 対戦相手のけいじさんが出してきたのは、ボーマンダだった。

 凪はお茶をすすりながら、

「これは美味しい」

「やった」

 俺もつい声を漏らす。

 ボーマンダの特性いかくでこちらの攻撃が下がるが、それはいい。

 後攻ゲッコウガの攻撃。

 がんせきふうじは思った以上にダメージを与えられた。ドラゴン・ひこうタイプのボーマンダにはこうかはばつぐんだ。ダメージが大きかったのも持ち物いのちのたまのおかげかも。

 四割くらい削ったか。

「攻撃が下がっても結構入ってくれたね」

「だね~。開、これは爆アドだぜ」

「うん。これでりゅうのまいをしてもすばやさの逆転は狙えない。積んでくることはないだろうし、これだけダメージを与えられたってことは耐久型じゃないこともわかった」

 また、ボーマンダが出たってことは、他にメガシンカはない。メガシンカ枠の可能性が高いメタグロスも出て来ないだろう。

 メガシンカ以外でエースになるポケモンは、エースキラーのメタモンくらい。あとはでんきタイプの準伝説。しかしそいつはでんき耐性のあるメガリザードンXで勝てる。

「あとはいのちのたまを持ってたのがよかったよ」

「確かに、ゲッコウガは火力不足になりがちだけど、広い技範囲持ったまま火力を底上げできるのはいい。スカーフも強いけど」

「そうだね」

 高水準のすばやさを持つゲッコウガにさらにスカーフを持たせれば、ほとんどのポケモンより先に攻撃できる。それもかなり魅力的なチョイスである。ただ、スカーフを持たせたら、選択できる技が固定されてしまうので、広い技範囲を活かしたい俺はいのちのたまを持たせている。いのちのたまは反動があるし、どちらも一長一短だ。

 3ターン目。

 互いに技も選び、ゲッコウガの先攻。

 ただ、相手のボーマンダは先にメガシンカした(メガシンカはターンの初めにされるため)。

 そして、ゲッコウガの攻撃はれいとうビーム。

 タイプ相性で、ボーマンダはこおりタイプの技を4倍で受けてしまう。耐久型でもないだろうし受け切れないだろう。仮にまた交換しても、こおり技を半減するメタグロスの選出はないから致命傷を与えられる。

「どうだ?」

 思った通り、ボーマンダはそのまま倒れた。

「開くんすご~い。最強の一角のボーマンダちゃん倒しちゃったわね」

 逸美ちゃんも感嘆の声を上げた。あの強そうなボーマンダにちゃん付けする逸美ちゃんの方がある意味最強かもしれない。

「うん。ボーマンダ倒せてよかったよ。暴れられたら大変だし。でも、これはクッションにしたかったのかな? ただガラガラを捨てずに三匹目を出すための」

「どうだろうね。まあ、だとしてもマンダを落としたのはでかいよ」

 さっき言ったクッションは、そのポケモンをクッションにして別のポケモンを無償で繰り出すことを指す。ポケモンは交換という行動に1ターン消費してしまうため、交換で出すと攻撃を受けてしまうからだ。そのため、無傷で場に出したいときに別のポケモンをクッションとして犠牲にすることがある。

 しかし次は誰を出してくるんだろう。

 無駄にガラガラを引っ込めておくわけないから、出すとしたら三匹目だ。ここまできてまだ隠す必要もない。

 で、やはり、ここで相手は三匹目を出してきた。

 場に出たのはメタモンだ。

 メタモンは特性かわりもので、場に出た瞬間に俺のゲッコウガにへんしんした。

「なるほど。メタモンか」

「相手としては、開のパーティーだとリザードンかガブリアス辺りにへんしんしたかったろうね。ゲッコウガも型見れていいけど」

「確かに。型見れるのはいいね」

 逸美ちゃんが横から聞いた。

「メタモンちゃんは、技もそのままコピーしちゃのよね。HPだけコピーできないんだっけ?」

「そう。あと、技のPP(使用回数)もコピーできないよ」

 ここら辺は、ポケモンについて詳しくないといざ対面したら困るだろうな。

 ゲッコウガの残りHPは、いのちのたまの反動二回分のみ。

 凪にもらったこのゲッコウガは、物理攻撃と特殊攻撃のどちらの技も持っている両刀型。

 型バレして、相手の方が早いことも考えると、こちらが不利だ。

 しかも、ボーマンダを倒すときにれいとうビームをしたから、ゲッコウガの特性へんげんじざいでこおりタイプになっている。ゲッコウガが持っているどの技でも、半減してもらえない上、がんせきふうじをされるとこうかはばつぐんだ。

 ゲッコウガは耐久が低いポケモンだから、素直に攻撃したら一撃で倒される。

「開、どれで行く?」

「ここはみずしゅりけんかな」

「その心は?」

「みずしゅりけんで水タイプに戻れば、相手もみずしゅりけんを選ばない限りこちらが先手を取れる。火力アップアイテムもない相手ゲッコウガのみずしゅりけんくらいなら受けられるし、こだわりスカーフの効果で次のターンからも相手はみずしゅりけんしか出せなくなれば、その隙にこっちが別の技で倒せる。他の技なら返しで倒しにいきやすいしね」

「ほうほう」と、凪はおせんべいの袋を開けている。

「おまえ聞いてたか?」

「なるほどね。ほほーん」

 どうやら聞いていなかったようだ。

 俺は気持ちを切り替えて、メタモンのこだわりスカーフ読みで技を選択する。

 すばやさの関係で相手が先に動けると読み、現在こおりタイプになったこっちのゲッコウガにこうかはばつぐんのがんせきふうじをしてくれたら儲けものだ。次のターン、みずしゅりけんがこうかはばつぐんに代わり、技固定で次もがんせきふうじしか選択できないから、次のターンで仕留められる。

 4ターン目。

 先に動いたのは、こっちだった。

 ゲッコウガのみずしゅりけんが相手に入る。相手はへんげんじざいでこおりタイプになった状態をコピーしているので、こおりタイプ。半減はない。

 みずしゅりけんは複数回の小さなダメージを与える技で、ヒットする回数は二回から五回のランダムになる。ここでは三回ヒットした。ダメージとしては四分の一程度か。

 凪が俺に言った。

「開、これは勝ったんじゃない?」

「たぶん、素直に先制技選ばなかったってことは持ち物はスカーフ。あとは技とダメージ次第だね」

 後攻のメタモンの攻撃は、がんせきふうじだった。

 こおりタイプになっていたから、こうかはばつぐんのはずだったし、すばやさ操作もできるから安定択のつもりだったのだろう。いや、もっと言えばこちらの交代先がリザードンになったら一撃で落とせるし、できれば相手としてはメタモンで全抜きしたいから、がんせきふうじを選ばざるを得なかったとも言えるかもしれない。だが、火力アップの持ち物なしのメタモンのがんせきふうじは、四分の一程度のダメージしか与えられなかった。残り、こっちのゲッコウガのHPは半分をギリギリ切ったライン。

「やけにダメージが少ないわね~」

「ゲッコウガは、さっきボーマンダにいかくで攻撃を下げられたからだよ。物理攻撃技のがんせきふうじのダメージが下がってるんだ」

 と、凪が解説した。

 これには、実は俺も攻撃されてから気付いたんだけど。

「メタモンちゃんの能力変化もコピーしちゃう効果のつけが、自分に回ってきちゃったのね」

「そうなるね。しかも、こっちはいのちのたまを持ってるけど相手は火力アップアイテムはなさそうだ。殴り合いになったら相手は勝てないよ」

 5ターン目。

 一応注意深く考えたあと、技を選択。

「相手がスカーフなら俺の勝ちだね」

「うん、完全に開の読み勝ちだ」

 先攻は、こっちのゲッコウガのみずしゅりけん。

 こっちが先にみずしゅりけんを出せたってことは、やはり相手はこだわりスカーフだったらしい。

 岩タイプになっている向こうのゲッコウガ(メタモン)にはこうかはばつぐんだ。

 みずしゅりけんが二回から五回ランダムで入るうち、二回目で倒せた。

 ふう。いのちのたまのおかげで押し切れたみたいだ。二回しか与えられないこともよくあるからよかった。

 そして、最後にまた対戦相手のけいじさんはアローラガラガラを繰り出した。

 一度すばやさを下げられたゲッコウガだけど、それでも充分にアローラガラガラよりは早いはずだ。

 しかし、事故を減らすためにも、一応先制技のみずしゅりけんを選択した。

 6ターン目。

 ゲッコウガのみずしゅりけんが一発入って、アローラガラガラは倒れた。

 よって、この勝負は俺の勝ちだ。

「わぁ~」

 逸美ちゃんが拍手してくれる。

「すご~い。さすが開くん。強い」

「やっぱり開さんは読みがうまいですね。探偵王子は違いますね」

「探偵王子はやめてよ」

 鈴ちゃんも褒めてくれるが、凪は大きくうなずいて、

「うんうん。的確であらゆるケースに備えた読みと、リスクが少ない選択。特別面白みはないがぼくの教え通りによくできている」

「おまえがいつご教授してくれたんだよ。あ、そういえば、凪はどうして最初にブラッキーは出ないってわかったの? おかげで助かったよ」

 しかし、凪は頭にクエスチョンマークを浮かべている。

「?」

「ん?」

「いや、別に。なんとなく」

「なんとなくっておまえ、普段自分がブラッキー使ってるから出しにくいとかじゃないのかよ?」

「うん。来ない気がしたのだ。どうだ」

「胸を張るな」

 と、俺はつっこむ。

「先輩は適当そうに見えて、意外と考えてることもあったり本当に適当だったり、対戦以上に考えていることが読めない人ですよね」

「まったくだよ」

 鈴ちゃんに同意し、俺はため息をついた。

「でも、凪くんがあげたゲッコウガちゃんの活躍で勝てたんだし、胸を張ってもいいわよね~?」

「まあ、それもそうだね。凪に感謝だよ」

「言えてる」

 と、凪も俺に続ける。

 なんか相槌がおかしい気もするが、まあいっか。

「でも、勝つとやっぱり気持ちいいし楽しいな」

「開、続けてやるのかい?」

 笑顔でそう聞く凪に、俺は答える。

「いや。いまはもうお腹いっぱいだよ」

AokiFutaba Works 蒼城双葉のアトリエ

オリジナル作品を掲載中。

0コメント

  • 1000 / 1000