2018.04.30 11:25電車での親切 俺は凪と電車に乗っていた。 とある依頼で出向くためだ。 ちょうど目の前の席が空いて、俺と凪はその席に腰を下ろす。 すると、目の前におばさんがやってきた。やや小太りなおばさんで、年は五十を過ぎていると思う。 おばさんは、俺と凪をにらんだ。買い物袋を持っていることから、自分は荷物を持っているんだし若い人はつり革につかまって立つべきだとでも言...
2018.04.29 11:07お父さんの一口 いつもいつも、お父さんは必ず料理を一口残す。 これはもう習性のようなもので、朝ごはんのパンを一口残したのを見たとき、「ちゃんと食べなよ」 と、俺が注意すると、「食べていいぞ」 そう言って出かけて行ったことがあるくらいなのだ。 まるで子供に行儀を教えるつもりがないかのようなお父さんの悪癖を、俺は反面教師に育ってきた。お母さんはそれを「お父...
2018.04.27 10:01ノーベル賞 お茶の間で、俺は読書していた。 俺の横では花音がスマホをいじっていて、ばあちゃんはクロスワードパズルの雑誌を地道に進めている。 ばあちゃんがぼやく。「英語? 英語ねぇ……」 なんか悩んでいるように見えたので、俺は聞いた。「どうしたの? 英語って言ってたけど」「うーん、そうなのよ。英語がねぇ」 英語がなんだ? これには花音もスマホから顔を...
2018.04.26 11:32茶柱 おまけ 凪からもらった宝くじが当たった翌日。 放課後、俺が探偵事務所にやってくると、応接間のテーブルと和室のテーブルの上いっぱいに、湯呑みに並々つがれたお茶があった。 和室のほうは湯呑みが尽きたから紙コップだ。「どうしたの? これ」 俺が驚いて声を上げると、逸美ちゃんが教えてくれた。「凪くんが淹れてくれたの」 すると、給湯室から急須を手に持った...
2018.04.25 11:17茶柱 その2 探偵事務所のことは鈴ちゃんたちに任せてデパートに到着した俺と逸美ちゃん。 俺は逸美ちゃんが気になったところをぐるぐる回るのに付き合って、なぜだか甘味処までやってきた。「開くん、お腹空いてない?」 目をキラキラさせているところを見るに、逸美ちゃん、お腹が空いたんだな。「うん。ちょっと小腹が空いたかも」「だよね! じゃあ食べよう。ここはお姉...
2018.04.24 11:43茶柱 その1「あー! 立ってる~」 逸美ちゃんは茶柱を発見して喜んだ。 茶柱を俺にも見せるようにして、「ねえ、見て。開くん」「ほんとだ。よかったね。なにかいいことあるんじゃない?」 俺が言うが早いか、逸美ちゃんは立ち上がった。「こうしちゃいられないわ。行かなきゃ」「どこへ?」「とにかく外へよ。せっかく茶柱が立っていいことがあるかもしれないんだもん、出...
2018.04.23 11:17ギリシャヨーグルトは固いからこぼれない「ほら」 お茶の間でギリシャヨーグルトを食べるとき、花音がスプーンですくって見せてきた。 スプーンを逆さまにするけど、ギリシャヨーグルトは固まったまま落ちない。「すごいね」 俺が驚いてみせると、花音は得意そうに胸を張った。「でしょ?」「ギリシャヨーグルトってそんなに固まってるんだ。初めて見たよ」「たまげたー」 ばあちゃんも俺に続けて驚いた...
2018.04.22 11:53朝の号令 俺の中学生時代の話。 当時クラスメートだった凪は俺の前の席。 凪の隣には、探偵事務所のお隣さんである浅見羽衣さんが座っていた。「起立」 日直が朝の号令をかける。 みんなが立ち上がったとき、例にもれず凪も立ち上がったのだが、凪は無表情に浅見さんを見ていた。 否、凪が見ていたのは、浅見さんのイスだ。 どうしたんだろう。 そう思っていると、凪...
2018.04.21 11:49親展 花音が郵便受けに見に行った。 そして、封筒を持って、お母さんの元へと走って行った。「お母さーん!」 ドタドタ走ってお母さんを呼ぶ。 お母さんは平然と聞いた。「どうしたの?」「手紙が来てるよ」「あ、そう。ありがとね。あれ? これ、花音ちゃんのじゃん」 俺も見てみると、花音宛の封筒だった。 花音は目を丸くして、「そうだよ。はい、お母さん」「...
2018.04.20 11:24テレパシーは使えない おまけ 家に帰って、夕食中。 花音が俺に言った。「お兄ちゃん」「ああ、はい」 と、俺は花音に新聞を渡した。「ありがとっ」 番組覧だけ見て、花音は俺に新聞を返す。 どれ、俺も見てみるか。 ふむ。おもしろい番組はやってないみたいだ。「お兄ちゃん、あれどうだった?」「ん? ああ、大丈夫だったよ」「へえ、ならいいか」「花音、えっと、それ取って」 俺はつ...
2018.04.19 11:04テレパシーは使えない その3 探偵事務所のドアが開く。「こんにちは!」 そこにいたのは、ノノちゃんだった。「ノノちゃん、こんにちは」「いらっしゃ~い」 俺と逸美ちゃんが挨拶を返す。 凪が手を挙げて、「やっほ~。ノノちゃん元気? 作哉くんはいないの?」「元気です! 作哉くんもすぐ来ますよ! ノノ、探偵事務所が見えたところから先に走ってきたので」「そっか。それじゃあ、外...
2018.04.18 11:35テレパシーは使えない その2 俺は凪とのやり取りに呆れつつ、改めて言った。「あのなぁ。たとえあったとしても、俺はそんなの使えないぞ」 凪は鈴ちゃんを見て、「じゃあさ、鈴ちゃんが考えてること当ててよ」 今日も凪に連れられていっしょに探偵事務所までやってきた鈴ちゃんは、イヤホンをしながらずっと学校の勉強をしていた。ちなみに、音楽を聴いているのかは不明である。本当に音楽を...